8.怯える富豪と見える嘘④久しぶり!
ドミニク・クローヴィス→富豪の老人。
ロワク・モラン→コンサル。
ヘレナ→屋敷のメイド。老人の交際相手。
ライアン→ヘレナの息子。
ギョーム→屋敷の医者。
ギルベルト・エブァンス→ブリジットの兄。シスコン。
ルカ→ギルベルトの従者。
メリィ→ブリジットの専属メイド。
リオネル・モンフォール→リオ。 セルジュの後輩。真面目。
富豪が倒れ処置している間、ブリジットたちは応接間に待機した。事件担当の刑事が到着するのを待っているところだ。
途中、かかりつけ医から一報が入る。速やかに毒を吐かせる処置をしたおかげで、一命を取り留めたと。ブリジットは、ほっと一息を吐いた。
ギルベルトがしっかりとしたベルベット生地のソファーに座り、ブリジットを褒める。
「ブリジットのおかげだな。ブリジットが朝早くから訪れると決めたからな」
「そんな、私のおかげじゃありません」
ブリジットは謙遜する。ギルベルトが隣に座るブリジットの頭を撫でる。
「ブリジット様の無茶振りがまさか功を奏すなんてびっくりす」
ルカはギルベルトの近くに立ち、頭をかきながら呟く。
「当然です。ブリジット様の行いですから」メリィがルカに胸を張る。
「うん。メリィは今日も安定のブリジット教だわ」
ルカが呆れたようにメリィを見た。
「人を信者みたいに言わないでください。あなたもブリジット様の素晴らしさが分かればこの気持ちがすぐにわかります」
自信満々にメリィがルカに迫る。メリィがルカと視線をあわせた。
「メリィやめてくれ。洗脳はしないでくれ」
ルカが慌てて前に手を出しメリィから一歩後ろに後ずさる。メリィは腰に手を当てふんと胸を張る。
「洗脳じゃありません!事実の共有です!」
「メリィは信者っす!ブリジット様、信者をなんとかしてくれっす!」
ルカがブリジットに目を向けた。その目はすがるような目だった。ブリジットは乾いた笑いをルカに向けた。そして、心の中でルカに謝った。
ごめん、ルカ。私もなんでメリィがこんなに慕ってくれるのかわからないの。
ギルベルトが三人の様子に眼を細めて笑い、満足そうに微笑む。ゆったりとした雰囲気を断ち切るように来客のノック音がした。
ギルベルトが顔を引き締め許可を出す。戸が開き現れたのは若い男だった。ブリジットは見覚えのある顔に驚く。
「まあ、リオ?!」
ブリジットの姿を見てリオは嬉しそうに笑った。
「お久しぶりです!ブリジット様!」
ギルベルトが怪訝そうにリオを見た。リオはブリジットに駆け寄る。
「あれから同僚と話しました。腹を割って話せる仲になったと思います」
「うまくいったのね」ブリジットはリオが上手くやれている様子にほっとした。
「はい!最後は拳で会話しました」
「…えっ?!」ブリジットは固まった。
「やはり拳で語り合うのが一番です。お互い実力を知り絆が深まりました。でも、罰則のため短期で地方派遣になり今ここを担当しているんです!」
リオがあっけらかんと話した。ブリジットはリオの発言に困惑する。
え?え?どういうこと?拳で語るとかどこの道場破りみたいなこと言ってない?リオってインテリジェンスじゃなかったの?
リオの意外な反面に驚くブリジットにギルベルトが肩をトントンと軽く叩き話しかけた。
「ブリジット知り合いか?」
ブリジットはギルベルトにリオの紹介をし、事件の経過を簡単に説明した。
話を聞き終えたリオが姿勢を正してギルベルトへ一礼する。リオは屋敷の使用人たちも応接間に集めるよう声をかけた。
*
「では、改めて情報を整理します。今回倒れた老人は屋敷の主人ドミニク・クローヴィス。今は一命を取り留め安静中」
関係者がそろうのを確認すると、リオは一歩前へ出た。主治医が現状を話す。主治医は髪に白髪が混じる温和そうな男だった。
「私はドミニク様の主治医のギョームといいます。ドミニク様の容態は危機的状況は脱しました」
「彼は何か発作が起きたのですか?既往歴からですか?」リオが追及する。
「いえ、ドミニク様は心臓など問題ありません。むしろ年の割には健康的なものです。そうだよな?ヘレナ」
彼に必死に声をかけ続けていた高齢の屋敷の女性メイドのヘレナも頷く。目はまだ赤く先ほど彼のために泣いていたのだろう。
「ええ。彼の近くにずっと居たからわかるわ。健康そのものだったわ」
「失礼ですが、ヘレナさんはメイドで奥様ではないですよね?」
リオが不思議そうに胸ポケットから黒いメモ帳をだす。
「はい、でも婚約者でゆくゆくは結婚予定です」
ヘレナがはにかみながら照れ臭そうであった。
「まあ」
ブリジットは思わず声が出る。ヘレナの横に立つ年齢三、四〇代の男が眼鏡を引き上げながら話した。
「結婚前に資産に対しても考えられていたので、私は彼の資産について相談されていたコンサルです。ロワク・モランです」
ロワクの眼鏡の奥の灰色の瞳と口調より神経質そうな印象を受ける。仕事は有能そうだ。
「健康に問題ないが倒れた。彼は自殺の可能性がありますか?もしくは他殺で誰かに殺されるような強い動機があるものは知りませんか?」
リオが関係者たちの話のメモをする。ヘレナが少し考えた後、平坦な声を出した。
「…いえ。彼は何も思い悩むことはなかったわ。動機のあるものはいないわ」
『いえ。彼は何も思い悩むことはなかったわ』
浮かぶ声。嘘。
嘘?なぜ嘘を?
ブリジットは浮かんだ声に思わず眉を顰める。
嘘をつく人間は、必ず何かを守ろうとする。彼女は何を守ろうとしているの?
ロワクがすかさずヘレナを正す。
「ヘレナさん。嘘はよくない。彼は最近思い悩んでるようでした。最近様子がおかしかった」
ロワクが話を切り出す。
「夜中に何度も外を見回っていて…彼は怯えていた。きっとライアンに怯えていたんだ」
ギョームも同意を示し新たな人物の名を挙げる。
「ライアン?それは誰ですか?」リオが新たな人物の名を手帳につけた。
「ライアンはヘレナの息子です」
ロワクが事実だけを述べ、ギョームが言いづらそうにライアンのことを補足した。
「金づらいが荒く短気で、近所でも問題児と有名です」
「違う!あの子はそんな子じゃない!少しお金にルーズなだけよ。ライアンを悪く言わないで」
ヘレナが思わず声を荒げる。
「ライアンはヘレナに依存しています。
ドミニク様は気にして、ヘレナが婚約中でも彼の遺産はヘレナにいくようにしようと遺言の準備をしていた矢先にこんなことに…」
「ほう。ライアンくんにも事情を聞こう。彼はどこに?」
リオが周りを見回す。
「ライアンは厨房だ。彼はシェフ見習いだ。
まあ、ヘレナのコネだけどね。料理の腕だけは確かだからな。今は皿洗いをしてるさ」
ヘレナは目を逸らす。
ライアン思い出したのか、不快そうにしながらギョームが呼んでくると言って応接間を去った。
ブリジットは情報を整理する。
ドミニクは誰かに殺されかけた?
現状一番怪しいのはライアン。彼がどんな人物なのだろう?
でもドミニクがゆるしてくれと嘘を吐いていた。寝室に置いていたいくつもの金庫。彼にも何か秘密がありそうだ。




