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5.怯える富豪と見える嘘①ワインが美味しい!

ギルベルト・エブァンス→ブリジットの兄。優秀。シスコン。

ルカ→ギルベルトの従者。苦労人。常識人?

メリィ→ブリジットの専属メイド。ブリジット教の信者




 騎士団の団長室を出た後、ルカが手を叩いた。


「さて、気分変えましょう。せっかく来たんだから観光しましょう」


「ブリジット様、広場で名産ワインを購入してきました。乾杯しましょう!」


 とメリィが言って、ブリジットにワイングラスを渡す。そして慌ただしく自分の持っているワイングラスと乾杯をする。


「さあ、一気に行きましょう」


 メリィが勢いよく一気にワインを飲む。先ほどまで萎れていたブリジットもメリィにつられて手元のワインを一気に飲んだ。


「おいしい!葡萄の甘みがあってのみやすい!!帰りにお土産に何本か買いましょう」


 思わぬ美味しい出会いにブリジットの気分も上がる。メリィも同意する。


「ですよね!絶対ブリジット様、気にいると思ってました。さあさあ、お目当ての菓子を食べに行きましょう!財布…あ、間違えた。ギルベルトさまにおごってもらいましょう!」


「相変わらずだな。しかし、ブリジットが可愛いからなんでもおごる。じゃんじゃん頼みなさい。今日はみつぐぞ!」


「さすがギルベルト様、貢ぎ体質。戦場ではあんなにかっこいい主君なのに」


 ルカが残念そうな目線でギルベルトを見る。ブリジットは胸の重さが少し軽くなった。



 せっかく来たのだから楽しまなくては。まだ温泉も名物のタルトも食べてないのだから!!


 ブリジットはふと視線を感じて顔を上げた。周りを見回したが、特に知り合いはみあたらない。


「どうしました?ブリジット様」

 メリィがブリジットに声をかけた。


「……ううん。なんでもないわ。やはりここはランチに行きましょう」


 ブリジットは気持ちを切り替えて提案する。メリィは候補の店を何店かピックアップした地図をルカと睨めっこしていた。


「こちらが近いです」


「いや、ワインの取り扱いが豊富で名物の伝統料理も食べれます。こちらにしましょう」


「ですが、ブリジット様は伝統料理ではなく名物タルトが食べたいはずです」


「ワインも重要です。ここのワインが当たりが多そうです。いろんなワインを飲みたい」


 ルカがキッパリと発言する。


「ルカ、あなたがのみたいだけじゃないの?」


「ギルベルト様も飲みたいと思います!」


「やっぱりあなたが飲みたいんじゃない!ブリジット様優先です!」


「ギルベルト様優先!」


 二人は言い合いながら石畳の坂道を歩いていく。


 その後ろをゆっくりと歩きながら、ブリジットはギルベルトと目を合わせて笑った。先ほどまで胸を塞いでいた重苦しさが、観光地の賑やかな空気に少しずつ溶けていく。


「……観光しながら店を決めましょう。ねぇ、お兄様」


「そうだな。観光しながら決める方が楽しいしな。この際買い食いでもいいな」


「ふふふ。行儀悪くしてもここでは怒られませんからね」


 ギルベルトとブリジットが楽しそうに提案する。ルカとメリィが同時に振り返った。


「買い食いで食べ歩きさせたなんて奥様に知られたら俺、めちゃくちゃ怒られます!!やめてください!」


「ブリジット様!奥様が怒って甘味禁止また再発しますよ。きっと」


 ルカは身震いする。メリィは青ざめる。


「甘味禁止になってたんだな。そんな話は初耳だぞ。何をしたんだ?ブリジット?」


「その話はゆっくりお話しするので、やっぱり店で食べるのがいいですね」


「だな。観光しながら店を決めるか」

 

 ギルベルトの発言に安堵をのぞかせるメリィとルカ。一行は賑やかな大聖堂のある広場に惹かれるように向かっていった。


 枠組みは桃色で縁取られた小さな花屋が見えた。まるで砂糖菓子のように可愛らしい。店先には小さな花束が所狭しと並んでいる。桃色、白、淡い黄色を使った華やかな花で彩られている。ガラス窓には白い文字で店名が描かれ、その前には大きな淡い色合いのバラの花束が上品に置かれ飾られている。


 花々の甘い香りが通りにまで流れ出し、ブリジットは思わず立ち止まる。


「まあ見て、かわいらしい花屋!」


「ここの通りはブリジットの好みだね。見ろ!あれが大聖堂だ!」


 立ち止まったブリジットにギルベルトが大聖堂らしき建物を指差す。


 視界いっぱいに巨大な聖堂が見えた。尖塔は鋭く、無数の彫像や装飾が壁一面を覆っている。観光客や市民達たちが行き交い、笑い声や話し声が絶えない。ブリジットは思わず近寄った。行き交う人と少しぶつかったが、少しだったので痛みはなかった。


「まあ!荘厳!」


 ブリジットは思わず感嘆の声を漏らした。


「中はからくり時計が有名らしいぞ。でも午前は終わってしまったから明日見学するか?」

 ギルベルトがブリジットに提案する。


「そうですね。明日楽しみです。でも活気のあるいい街ですね」


 ブリジットは頷き周りを見回す。


「だな。でも人混みが多いとスリが多いからきをつけようね、ブリジット」


 ギルベルトの手元にブリジットの見覚えのあるポシェットがあった。


「えっ。ケープを着てたのに?!もしかして落としました?」


「いや、先ほどすれ違う時にすられてたからすりかえした。ルカが今ごろ余罪も含めて警察にスリを引き渡している」


「さすがお兄様!!」


 ブリジットはギルベルトに尊敬の眼差しを向けた。ギルベルトからポシェットを受け取ろうとしたが、メリィに渡された。


「危ないからメリィが管理しなさい。ところで、このポシェットがパンパンなんだけど何入れているのかな?」


「このポシェットには糸、ハンカチ、小型ナイフ、薬草、レターセット、魔石、金貨数枚ですね。備えのものばかりです」


「備えすぎじゃないか?ブリジット」


「備えあればうれいなしです」


 ブリジットが胸を張って答える。


「ブリジット様が備えなきゃいけない場面なんて一生来ないと思うんだけどな…」


 呆れた声を出しながらルカが現れた。


「あれ、ルカ早かったね」


 ギルベルトが不思議そうに答えた。


「団長が近くにいたから引き取ってもらいました。近くのおすすめの店にブリジット様達と一緒に昼を取るために広場に来たんですって」


「へぇ。何のようだろう?」


「さあ?予約入れてくれたって。広場の店ってピンキリらしいよ。ぼったくりとかもいるらしいし」


 ルカは団長が昼を一緒に取る理由には興味がなさそうだ。ギルベルトは頷いた。


「予約を入れてくれたのならそちらの店に行こうか」

 メリィがルカから店の位置をレクチャーされたのか、先頭に立つ。


「道中気をつけて下さいね、ブリジット様」


 広場を見回すと、あちこちに指名手配犯のチラシが貼られている。物によっては黄ばんだ数十年前のチラシも貼られていた。メリィはブリジットに注意を促す。


「そうね、気をつけるわ」


 ブリジットはメリィにピッタリと引っ付いた。


「し、しあわせ」


 メリィの顔は紅潮し口元が綻ぶ。


「ギルベルト様、ブリジット様にメリィが別の意味で危なくないですか?」


 緩みきったメリィの顔にルカが引きながらギルベルトに確認した。


「まあ。女性同士だし大目に見るか…」


 ギルベルトはブリジットとメリィの姿をみて、判断を下す。


「ギルベルト様、女性にはおおらかですね。男にも寛大になるべきでは?」


 ルカが呆れながらギルベルトの顔を見る。


「男はダメだ。ブリジットは嫁にやらん!」


 ギルベルトが真剣な眼差しでキッパリと告げ周りに注意を向けながら歩いた。



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