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6.怯える富豪と見える嘘②いやげもの?

 

 団長が予約してくれた店は個室だった。店に着いたら案内人が速やかに奥の広い間に通された。団長はすでに着席していた。

 ブリジット一行に気づくと団長は立ち上がり、ギルベルトが簡単な挨拶をする。


「おすすめの店ということで、私たちをお誘いありがとうございます」


 ギルベルトが団長に着席を促す。


「いや、貴殿達には世話になったからな。婚約者は自首させたし騎士団で内部調査をすることになった。やはり風紀の乱れから事件は起こるからな」

 

 団長が着席し、重々しく頷きながら座る。向かいの席にギルベルトが座り右隣にブリジットが座った。


「迅速な対応されたことでこちらも安心しました。あまり固い話はやめてご飯にしましょう。私たちは観光にきてますので従者も同席でよろしいでしょうか?」


 従者のルカとメリィが団長に軽くお辞儀をする。


「どうぞどうぞ」


 団長がルカとメリィにも着席を促す。

「「ありがとうございます、団長様」」


 ルカがギルベルトの左隣、メリィはブリジットの右隣に座った。メリィがブリジットにメニュー表を渡す。ブリジットがメニュー表を開いた。


 

 楽しみだわ。やはり旅に来たら現地のものをたべなくてわ!何がいいかしら!


 全員が着席してから団長がメニューのおすすめを話す。


「ここの店は特にタルト・オ・ポムが絶品です。ワインも間違いないのを取り扱っています。何でも頼んで下さい」


「まあ、タルト・オ・ポムが?!」


ブリジットの目がきらりとひかる。


 タルト!素晴らしいわ!団長!スイーツをおすすめするなんて!乙女ごごろをわかってるわ!現地の人がおすすめするなんて間違いないじゃない。絶対たのむわーー!!


 ギルベルトがブリジットに慈愛の目を向けた。


「ブリジットはタルトが食べたかったもんな。良かったな」


「はい!お兄様もワインを楽しみましょう。あと目的の温泉が入れば完璧ですね」


 団長が恐る恐るギルベルトに提案した。


「本来ならこのようなことをお願いできる立場ではありませんが……せめてお詫びと感謝で我が屋敷に招待する栄誉をいただけないでしょうか?我が屋敷は宿泊には最適です。天然温泉を引いており、いつでも入浴可能です」



 まあ、素晴らしい。お兄様!お願い!宿泊すると言って!!



 ブリジットが期待の眼差しをギルベルトに向ける。ギルベルトはブリジットに微笑みかけながらうなずく。


「では、ご好意に甘えさせていただきます。夕方ごろにそちらを伺わせていただきます」


「お兄様ありがとう!団長さんも!」


「いえいえ。こちらこそありがとうございます」


 ブリジットの無邪気な笑顔に団長も照れたように頬を赤くする。


「団長、一応お伝えしますがブリジットに惚れたら私と決闘ですからね」


 ギルベルトがすかさず団長に釘をさす。団長が慌てて意見を返す。


「私には妻がいますので大丈夫です!!」


「ギルベルト様、ブリジット様に関すると愚かになりますからね。先程の本性のブリジット様見てるから団長は惚れませんって!!」


 ルカが冷たい目でギルベルトを諌める。ギルベルトが罰の悪そうな顔をする。ルカの意見に同意しているようだ。


「なんかひどくない?」


 ブリジットだけが納得していない様子でつぶやいた。団長は頷かなかったが、苦笑した。


 団長のおすすめの店はタルトも絶品だったが、ワインや食事も美味しく一行は大満足した。食後、団長は仕事の続きをしに戻り、一行は街をぶらぶらしに戻った。


「ブリジット、西領土で魔物討伐の成果を挙げた騎士達にこれはどうだ?」


 ギルベルトは刺繍の入ったワッペンを指差す。白地に赤の糸ででかでかと"I love sv"刺繍のあるデザインだ。ザ 観光地で買いましたという商品だ。ブリジットはギルベルトと商品を交互に見る。



 かなり控えめに見てもいらなくない?旅行のテンション上がって買うけど使い道がない…旅行者以外はいらない、いやげものじゃない?いや、もしかしたら不満のある部下に渡すのかも…


 ブリジットは返答の正解が分からず黙り込む。ルカがすかさず突っ込む。


「絶対ダメです!ギルベルト様からもらうものが例えそこにある小石でも喜ぶ騎士達ですから家宝にする可能性が高いです!!そんなもの家宝にされた家族の気持ち考えてあげてください!」


「えっ?!家宝にはしないだろう。勲章じゃないんだから」


 ギルベルトが不思議そうに問い返す。ルカとブリジットは無言で顔を見合せ、ブリジットはルカの提案にのる。



 ダメよ。お兄様があのお土産ではセンスないと思われる。軌道修正しなくては!


「お兄様、お土産物は消え物がいいんですよ。ワインとかどうでしょう?」


「そうです。そうです。騎士団たちは酒豪たちです。すごく喜びます!」


 メリィもブリジットの真意を読み追随する。


「そうかな」


ギルベルトが顎に手を当てて考え込む。


「先程飲んだワインとかどうでしょう。お兄様お墨付きのワインとか飲んでみたいと思うのでは?!」


「まさにその通りです。ブリジット様!団員たち全員には食堂にワイン樽をおいて提供。特に成果を挙げた何人かにはボトルのワインも提供とかどうでしょう?」


 ルカも騎士団の土産に最適解をだしていく。ギルベルトは思案したのち頷いた。


「…そうだな。それでいこう」


 ルカがガッツポーズをくりだす。ギルベルトが不思議そうに話す。


「なんだ、そんなにワインを飲みたかったのか?お前も功績者だ。ルカには特別にすきなボトルワインを選ばしてやろう。なんにする?」


「へ?俺も?」


「当然だろ。ルカを入れないわけないだろう」


 突然のギルベルトの労いにルカが急に目をきょどつかせる。


「い、いや。そ、そんな。光栄です」


「良かったですね。ルカ」


 メリィが珍しいルカの様子に微笑みかける。ルカが照れたように頭を掻いた。ブリジットは尊敬の眼差しでギルベルトを見た。



やっぱりお兄様は最高ですわ。


街には穏やかな灯りと人々の笑い声が飛び交う。ブリジット一行は楽しそうにお土産選びにふけたのだった。



 夕方、団長の家で晩餐があり、ギルベルトとブリジットは誘われた。晩餐の席で団長の妻を紹介された。優しそうな奥様であった。


 ギルベルトと団長の話がはずんでいる。お互い魔物の戦いが多いので魔物の特徴、弱点など情報交換も兼ねている。団長の妻が団長を尊敬の眼差しを向ける。眼差しに気づいたのか、団長が頭を掻く。


「すまない、晩餐では戦いの話ばかりで。お前には興味なかっただろ」


「いいえ、旦那様の武勇伝で誇らしい気持ちでいっぱいです」


「いやいや、お前がここの家の管理をしてくれるから俺は戦に出れるんだ。ありがとう」


「そんな…家庭を守るのが私の仕事です。でもさいきん実は一つ困っていることがありまして……」


 団長夫人が口に手を当てる。団長が困ったように眉を下げる。


「どうしたんだい?」


「隣人が最近様子がおかしいんです」


 団長夫人が言いにくそうに話を切り出した。


「夜中に何度も外を見回っていて……まるで、誰かに怯えているようで」


「そうか。しかし隣人には俺は嫌われているのか避けられているからな…」


「そうなんです。街の循環パトロールにしてもらうなどとそれとなく提案したんですが、本人が拒むんですよね。元々、地元の人とは付き合いたくないと言われてましたからどう対応すればいいのか」


「では僕らが明日隣人の様子を見てきましょうか?僕らは貴族ですから家に招き入れたというステータスにもなりますから」


「そんなまたお世話になるなんて申し訳ない」

 団長が恐縮して首を振る。ギルベルトが鷹揚にいなずく。


「いえ、治安維持も立派な仕事ですから。ブリジットはどうする?」

 ギルベルトがブリジットの意向を確認する。


「お兄様と一緒に行きますわ。お兄様のお力になりたいもの」


 ブリジットは大きく頷く。


「重ね重ねお世話になります。お願いします。隣人は十五年前から住み始めた男です。寡黙で揉め事もありません」


 団長が深々とお辞儀する。団長夫人もつられるようにお辞儀した。ギルベルトが楽しそうに団長夫妻に声をかけた。


「さて、固い話はなしにして団長と団長夫人の馴れ初めなど教えてください。とても仲睦まじいてすから」


 ブリジットも興味深々で体が前のめりになる。

「私も興味あります。二人ともお似合いですもの」


 ブリジットはふと窓の外へ視線を向けた。外は暗く隣家の様子もわからないが、人通りはない。



 事件なんて何も起こりそうにないほどのどかな田舎よね…隣人は何に恐れているのかしら。力になれたらいいけど。


 遠くでフクロウの鳴音が響いていた。



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