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3.商人と見える嘘 後編

ギルベルト・エブァンス→ブリジットの兄。優秀。シスコン。

ルカ→ギルベルトの従者。苦労人。常識人?

メリィ→ブリジットの専属メイド。ブリジット教の信者

 馬車に戻るとギルベルトとルカが既にいた。ギルベルトはそわそわして落ち着かず馬車の窓から顔を覗かせて外を気にしている。ルカは腕を組んで大人しく座っていた。ブリジットに気づいたギルベルトが馬車のドアを開けてブリジットをエスコートする。


「おう!おかえり! ブリジット。もう討伐終わったぞ。ブリジットは顔のいい商人とかに絡まれなかったか?」

ルカが呆れたようにギルベルトに目を向ける。


「討伐お礼に私たちを一番に検問を通すといわれまして顔のいい商人がいち早く出たいから促してきましてめんどうなんです。つっかかってきて」


 ルカが苦労人らしくため息を吐く。


「俺らは何番でもいい。通れたらいいからな」


 ギルベルトがあっけらかんという。


「警備の人たちがギルベルト様に完全ほれまして絶対にギルベルト様を一番に通したいと。このあと多分警備の人と握手会とかされたりして」


 ルカが楽しそうにギルベルトをからかう。


「勘弁してくれよ。ただやっつけただけだ」


「ねぇ、ルカ。その商人ってホーガースという商人かしら?お兄様、待たせてしまったお詫びも含めてその商人からものを買いましょう」


「確かにホーガースという商人です。お知り合いで?」


「性格わるそうな商人だぞ。ブリジットには近づけたくない」


ルカが訝しげにブリジットをみ、ギルベルトは嫌そうに言った。


「ええ、こちらが勝手に知り合ってます。お兄様!いい商人に性格のいい人などいません」


 ブリジットはキッパリとひどいことを言う。


「商人に無駄に恨まれるのも嫌だし。そうだ!検問も一緒に通ることにしません?その際、品物もあらためれるし早く通れるし一石二鳥じゃありません?」

 ブリジットは今思いついたと言わんばかりに手を叩く。


「まあ、ブリジットが欲しいなら。何でも買うよ」


 ギルベルトは購買意欲だけやる気満々だった。


 煌びやかな指輪をはめ派手なスカーフを巻いたホーガースがブリジットに深々とお辞儀をする。


「この度は数ある商人の中から我がホーガースをお選びありがとうございます。お嬢様ならこの宝石がおすすめです。この品物の中で一番価値があります」


『一番』浮かぶ言葉。嘘。


「ふふふ、ありがとう。でももう決めてるの。あの大きな絵画を3枚買います。厳重に封がされて価値が高そうだもの」


 にこやかに笑い、ブリジットは価値を知らないお嬢様のふりをして絵画の購入を伝えた。


「あ、あれはくだらない駄作です。名画ではないのですが水彩画なので水で絵の具が落ちるので厳重なんです」


『駄作』『名画ではない』浮かぶ言葉。嘘。


ホーガースが焦ったように話す。


「まあ、そうなの。私ったらてっきり名画かとおもってしまって。でも家にちょうどあのくらいの大きさの絵画が欲しかったの。あれをちょうだい!」


 ブリジットは尚も価値を知らずわがままお嬢様のふりをした。


「それはそれは。しかし駄作なので1つだけにしてはどうですか。絵を見てから決めましょう」


 ホーガースが急いで包装をとり3つの絵画を並べた。全て王都の風景画だ。

 朝日が差し込む王都、夜の王都、そして広場を中心とした楽しい祭の情景を描いた王都。素人目に見ても大した作品ではない。


「どうですか?どれもお嬢様が欲しがる素晴らしい絵ではないでしょう?まあ強いていうならおすすめは祭りの情景を書いた王都でしょうか?」


『素晴らしい絵ではない』浮かぶ言葉。嘘。


 ブリジットは確信する。



 3つの絵で少なくとも1つは名画が混じっている。彼は高額な関税をのがれるため価値のない下手な絵として偽装している。


「下手な絵だな、ブリジット。下手な絵が欲しいのか?なんでも買うよ」


 ギルベルトが興味なさそうに絵画の感想を述べる。下手な絵の発言のところでホーガースが大きく頷く。


「そうですね」

ブリジットはホーガースをチラリと見た。ホーガースは絵の説明をし始めた。


「駄作なので申し訳ない。一番高値は王都の祭りを描いた絵で、二番目は朝の王都、三番目は夜の王都です」


 ホーガースが提案した値段は駄作にしてはほんの少し高めだ。ブリジットは思案する。



 大体貴族は舐められるのを侮辱と捉えるのでこの場合は一番高いのを買う。だからホーガースは私たちに祭りの絵を買わせたいはず。祭りの絵は名画ではない。


 ブリジットは人差し指を口に当てる。



 それにしても、このホーガース、私たちを舐めてるわね。少し吹っかけてる。でも警備がいるから少しだけ。名画並みの値段をつけたら警備が検品をあらためるものね。ふふふ。


 無邪気にブリジットは兄の意見を聞くふりをした。


「お兄様、王都の朝か夜にしようかと思うの。お兄様どちらがいい?」


 ホーガースが目をきょどきょどと泳ぐ。ブリジットは心の中でほくそ笑む。


「そうだな。朝の王都でいいんじゃないか?一番値段が低いのを買うのは悪いし」


ホーガースがギルベルトの主張に便乗する。


「さすが。お目が高い!朝の王都も十分にいい作品ですぞ!」


『お目が高い』

『朝の王都も十分にいい作品』浮かぶ言葉。嘘!



 朝の王都も十分に?

 ブリジットの口元がゆるやかに上がる。



 かかった!夜の王都だ!

 価値のあるのは夜の王都だ!!


「夜の王都にします。お兄様の意見も加味して値段安いのは申し訳ないので、夜の王都を祭りの王都の値段で買います。夜の王都が急に気に入りました!」


「い、いや。お嬢様には地味すぎるのでわ。他の絵や宝飾品を買われた方がいいです」


 ホーガースが手を振って必死に訴える。


「ありがとう、ホーガース。でも気に入ったのだから仕方ないの。それに、皆さんがお勧めしない夜の王都の絵が不憫に思えて…」


「さすが、 ブリジット。絵画にも優しさをみいだすなんて。値段のことも商人にも配慮して。よし。夜の王都を買うぞ!」


 ギルベルトが即断する。


「いや。ほかのものを買いましょう!」


 ホーガースが額に汗がうかぶ。心なしか顔色も悪くなってきている。


「あら、まだ何か?夜の王都が売りたくない理由でもありまして?」


 ブリジットは素知らぬふりをしてホーガースに尋ねる。


「い、いえ。」


「そうですよね。値段もむしろ高値で買っている。貴殿も絵画売れた。何か問題でも?」


 ルカが不思議そうに問いかけ無意識に追い討ちをかける。


「ではお兄様お願いします」


「うむ。では夜の王都を購入で」


 ホーガースは渋っていたが、警備の前もありギルベルトに夜の王都を売った。そのあと、体をよろけさせながら検問を後にした。


 ホーガースを見送った後、検問は兄の握手会へと変わった。警備だけでなく、名のある商人も兄の名前をきいて挨拶に来た。

  ブリジットは買い取った夜の王都をまじまじと眺める。後ろから不思議そうにルカが声をかけた。


「なんでその絵画が欲しかったんすか?本当にただの大したことない絵ですよ。ブリジット様はギルベルト様に比べて大分確かな審美眼をお持ちのはずなのに」


「ブリジット様には崇高な考えがあるんです。はい、ブリジット様、お水です」


 メリィがルカに釘を刺しながら、ブリジットに水の入ったコップを渡す。


「ありがとう」


ブリジットは受け取った水を絵にかけた。


「ちょっ!なにしてんすか!?」

「きゃあ!!ブリジット様!!」


 ルカとメリィが叫んだ。

 ブリジットは慌てず水を布でやさしくそっと拭いた。徐々に色があらわれた。まず先に現れたのは瞳だった。慈愛に溢れた瞳。少しずつ少しずつ本来の姿が浮かび上がる。

浮かび現れた絵はキリストを抱く聖母マリアであった。その絵のマリアの瞳は深い愛情に溢れており優美さと観るものの心を惹きつけられる素晴らしい絵画だった。


「素晴らしいわ」

 ブリジットは感嘆の息を吐く。


「ああ、これは素晴らしい」

「神々しくすらあります」


 メリィとルカは絵画にとらわれたかのようにぼうと見惚れる。騒ぎを聞きつけたギルベルトと警備も絵画の素晴らしさに息を止める。


 一瞬の間の後ギルベルトが恐る恐る問いかける。


「どうなってこの絵画が現れたんだい?」


「お兄様、これは夜の王都です。本当の絵は上から水彩画でぬりつぶされていたんです。ホーガースが絵画の関税逃れのために」


「だからホーガースは売るのを渋ったのか!」


 ルカがやっと合点が言ったみたいでスッキリした顔で叫んだ。


「やっぱりあの商人、信用ならない!こんな綺麗なものを、嘘で塗り潰すなんて!」


  ブリジットは憤る。


「ところでこの名画は誰のものになるんだろうな?」


 ギルベルトは唐突に聞いた。


「「「ブリジット様でしょ」」」


 警備もメリィもルカも声を合わせた。


「で、どうする?ブリジット?」


「名画はこの地に寄付します。別に欲しかったわけではありませんもの」


「ん?」


「お兄様にわがままを言って見たかっただけですわ。それにあの商人が気に入らなかっただけですもの」


「はぁ、やっぱりブリジットかわいすぎる」


 照れたブリジットにギルベルトの目尻は蕩けそうであった。メリィが現実的な話をした。


「ブリジット様、無欲すぎません?」


 ブリジットはかぶりを振る。


「いいえ、この絵画はこの街の主要な所に置かれるでしょう。今回の話も携えて」


ブリジットはいたずらっ子のように微笑んだ。


「そうすると、今回の話を聞いてあのホーガースはさぞ悔しがるでしょうね」


 メリィは尊敬の眼差しでブリジットを称えた。


「さすがです。ブリジット様」

「えげつな!あの商人何をしてブリジット様を怒らせたんだろう。くわばらくわばら」


 ルカが身震いする。警備が呆然とし、ギルベルトが楽しそうに笑った。


が、ギルベルトの笑顔が、ほんの一瞬だけ薄れた。


「ねぇ、そんなブリジットにお願いがある。今度はお兄様のわがままも聞いてくれるかい?」


「はい。何でもいいですよ」


「大したことではないんだ。少し気になって」

『大したことではない』『少し』浮かぶ声。



 嘘。お兄様の嘘。ブリジットは眉を顰めた。



 大変めずらしい。この私にお兄様が嘘をつくなんて…。




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