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2.商人と見える嘘 前編

ギルベルト・エブァンス→ブリジットの兄。優秀。

ルカ→ギルベルトの従者。

メリィ→ブリジットの専属メイド。


「おかえりなさい、お兄様」


 ブリジットは応接間に急いで移動する。

 遠征から帰ってきた兄は少しくたびれてソファーに沈んでいたが、出迎えたブリジットに嬉しそうに返事をした。ブリジットと同じ藍色の目を細めている。


「ただいま、 ブリジット。俺がいない間に何が変わったことが起きなかったか?」


 ブリジットは向かいのソファーに座りニコニコと笑顔を振り撒く。


「変わったといえば変わったのかも。最近知り合いが増えました」

 

「ほう、エマの友達か。ブリジットは内向的だから友達を作るのはいい」兄は嬉しそうにブリジットの報告に相貌をくずす。


「エマとは違いますね」

 ブリジットはアレク、フィン、 セルジュを思い浮かべた。アレクとのキス未遂を思い出し顔が赤くなる。兄が焦ったように声をかける。


「も、もしかして男友達か。ダメだダメだ。 ブリジットは箱入りで純粋なんだから。メリィはなにをしていた!」


 兄がブリジットにつかえているメリィに焦ったように声をかける。


「ギルベルト様、下手な殿方に騙されるより私達監視下でまともな殿方と付き合っていただいた方が安心です」


 メリィは諭すようにギルベルトに返事を返す。


「しかも大変グッドルッキングな殿方たちで身分も問題無いです」


 メリィが追い討ちをかけるが、ギルベルトが大きく頭を振った。


「ダメだ…ブリジットの男の一番は俺じゃなきゃ!それだけは譲れない」


「「シスコン」」


  メリィがぼそっと呟いた。

 ギルベルトの従者のルカも一緒に呟いた。ルカは細い目のせいで少し胡散臭く見えるが、顔立ちは整っている。気配を消して情報を集めるのが得意な男だ。


「まあでも、お嬢様が変な輩と付き合って駆け落ちされるよりいいじゃないですか」


 ルカはギルベルトを宥める。


「駆け落ち!?もうそんなに発展しているのか!?」


 ギルベルトが焦ったように立ち上がる。


「例えばです。例えば。そうならないようにブリジット様もある程度殿方の付き合いをするのはどうでしょう?」


 ルカがどうどうとギルベルトを落ち着かせてソファーに座り直させた。

 メリィが呆れたようにギルベルトを見る。


「いい加減、妹離れしませんか?婚約者と触れ合うのをお勧めします」


「ブリジット様にうざがられますよ」ルカも頷きながらメリィに同意する。


  ブリジットは手をもじもじさせながら恥ずかしそうに答える。

「待ってメリィ、でも私も兄離れは難しそうなの」


 メリィはあっさりと手のひらを返す。


「そうですよね、ブリジット様。ギルベルト様はブリジット様より年上ですからいつ亡くなるかわかりませんもの!目一杯甘えなくては」


「お前、ブリジットと俺の対応差酷くない?でも嬉しいな。ブリジットも兄離れがまだしたくないのか。いっぱい貢ぐからな。なんでもこのお兄様に頼みなさい!」

 

 ギルベルトは呆れた目線をメリィに向けたが、嬉しそうにブリジットに胸を張る。


「なら、お兄様。私アルザス地方の名物のタルトを食べに行きたいわ」


「わかった。さあ行こう。ブリジットの願いはぜったいだ」


「さすがです、ブリジット様。貢がせ上手です」


「ギルベルト様、一応遠征あけでつかれているので家でゆっくり休みません?」


ルカだけが止めようと口を挟んだ。


「あの地方は確か近くにいい温泉がありましたね。たしかワインも美味しいと有名ですね」


「いい場所ですね。すぐいきましょう」


 メリィがボソリと呟く。ルカが急に意欲的になりだす。


「お兄様もゆっくり休めるし私も満足できる場所を探すのを頑張ったのよねー」

「そうですよねー」

 ブリジットは嬉しそうにメリィに話した。メリィは満面の笑みを浮かべた。


「それはそれは是非とも行かなくてはな!」

 ギルベルトは蕩けるような笑みを浮かべた。


「そうですね」

 ルカも静かにうなずいた。



 ブリジットはギルベルトと一緒に短い旅行に馬車でむかった。ブリジットは兄の横にピッタリと座りギルベルトの少し高めな体温にほっとする。



 今日はいっぱいお兄様と話そうっと♪


 ギルベルトは馬車でたまにお菓子を摘んでいた。お菓子の袋をポケットに忍ばせていた。アーモンドチョコだろうか。甘いチョコの香りが馬車に広がる。


「お兄様。私にもください」

 ブリジットがギルベルトにねだる。


「ダメだ。これは少しアーモンドが苦いからブリジットには合わない」


「食べてみないとわからないじゃないですか?」


「お前には甘くおいしいものだけ食べさせたいんだ。次の街でつまめる飴を買おう。おっ。これはブリジット向きだな」


 ギルベルトはポケットを探り、包み紙のついたキャラメルを取り出してブリジットに渡した。


「もう。なんのこだわりですか」


 ブリジットはもらったキャラメルの包装を開けてキャラメルを口にした。キャラメルのくせにやわらかい。


「あ、あまい。おいしい」


「だろ。そのキャラメルも最近はまってる」


「さすがお兄様。このキャラメル美味しいです」

 普通のキャラメルより柔らかく味も優しい。


「だろ。生キャラメルといって」


 ブリジットとギルベルトは甘味談義をした。



 同じくらい甘いものが好きだと、話すのが尽きないわ。やっぱりお兄様大好き。


 道中検問があり、問題なく馬車は進んだ。が、街に入る最後の検問は妙に混雑していた。馬車が止まり、御者がギルベルトに事情を説明する。


「申し訳ありません。どうやらこの先で大型の魔物が出たようです。普段は出ない地域なのですが、警備隊が討伐に向かっており、検問が滞っているようです」


 ギルベルトは眉をひそめた。


「大型魔物?」


「はい。まだ討伐できていないとかで……」


 ギルベルトはため息を吐き、剣に手をかける。


「少し退治してくる」


「では私達は馬車から降りてここらを散策してもいいですか?」


「まあ、メリィもいるし大丈夫か?メリィわかってるな」


「はっ!命に換えてもブリジット様を守ります」


「よろしい」



 おもっ。近場の森を散策するくらいなのに…



 馬車からギルベルトとルカが降りて現場に向かった。ブリジットはおくりだした後、ゆっくりと近くの散策をした。


「メリィ、あそこに小川があるわ」


「先客もいるみたいですね」


 小川が見えてきたが、メリィが先客に警戒する。メリィはこちらからはあちらが見えるが、あちらからは見えない死角になる場所にブリジットを座らせた。自分も近くに座り警戒を怠らない。

 小川のほとりにはすでに休んでいる人が何人かいた。商人の商品の荷運び傭人のようだ。 知り合いなのか、大きな声で会話をしている。ブリジットは何気なく会話を聞いた。


「お!久しぶり!お前んとこも足止めか。俺んとこもだぜ。ホーガース商人のところって金払いいいの?」

がたいのいい男たちが集まって話をし始めた。


「あんまりよくない。しかもまだ売り出し中で小規模。今回運んでいる絵画が大きいくせに価値があんまりないせいか運送費をケチられている」


「へー。どんな絵画?」


「絵画は3枚。見せてもらったんだが、下手な王都の風景画。大きくて重くてしんどい。なのに、厳重なんだ。特に雨にかからないように何重にも梱包してる。水彩画でもあるから雨厳禁なんだ」


「何でそんな絵を運んでるんだろうな」


「地方では王都の風景画が売れるらしい。あんな風景画俺ならいらないけどな」


「あっ。噂をしたらだ。ホーガースがきた」


 向こう側からホガースらしい商人がきた。ホーガースは明るい金髪に派手なスカーフを首に巻いていた。手元の指にはごつめの指輪が嵌めてあった。年は若く顔は整っており、派手な装いなのに似合っている。王都の貴族の奥様に人気が出そうだ。ただし、言動が横柄である。


「検問が開くと思うから早く用意しろ」


「へい。でも大型魔物が警備だけではとんと無理そうで時間がかかるって言ってませんでした?」

 荷運びは主人の横柄さに慣れているのか返事を返す。


「どこぞの貴族の若者が加勢したらしい」

 ホーガースはつまらなさそうに答えた。


「それはそれはお強いんですかね?」


「知らん。そんなことはどうでもいい。遠目から見たが、顔はいいが若かったからそんなに強くないだろう。あの坊ちゃんには無理だろう。警備に任せればいいのにな」


ホーガースは忌々しそうに返事を返す。


「坊ちゃんが怪我したら一時的に検問はあく。坊ちゃんを通すためにな。一時的でも検問が開いた時にどさくさに紛れて通るぞ。どうせ怪我をするに決まってる。顔に傷付けばいいのにな。俺以外に顔のいい奴は嫌いだ」


「了解しました。すぐ取りかかります」

ホーガースの不機嫌を察知して荷運びは荷物をまとめ出す。


「そうそう。絵画だが、価値がないから検問で止められることはない。扱いには慎重にしろよ。とくに水とかつけるなよ」


『価値がない』言葉が浮かんだ。



 ホーガースの嘘。


 言うだけで言ってホーガースは去った。荷運びも慌ててホーガースについていく。他の荷運びにこそっとホーガースの文句を言うのは忘れない。


「じゃあな。ホーガースはせっかちでケチだからいち早く検問を通りたいみたいだ。街でまた会おう」


「じゃあな。街で会おう」


 残った荷運び人がいなくなってからメリィが ブリジットに声をかけた。


「去ったみたいですね。それにしてもギルベルト様が酷い言われようでしたね。弱いくせにしゃしゃり出た小物みたいで」


「そうね。でも商人とっては貴族なんて裏では尊敬の念なんてないでしょう」


 ブリジットは去っていった商人の方向を呆れた目を向けながら答えた。


「ギルベルト様は強いので討伐は終わられてます。馬車に戻りましょう。あんな小物に舐められるなんて!」


 メリィが不愉快そうに顔を顰めながら、ブリジットに馬車に戻るよう促す。


「私、万人がお兄様を崇めろと思っているわけではないのよね」


「そうですか」


メリィが納得していない顔でブリジットを見た。


「でもお兄様の功績のおこぼれにあやかろうと思うなら少しは敬うべきね。あのホーガースという商人には嫌がらせをしましょう」


 ブリジットはふわりと優しげな微笑をうかべた。


「やっぱりギルベルト様を馬鹿にされて少し怒ってますよね?ブリジット様」


 メリィは嬉しそうにブリジットに問いかける。


「ふふふふ。ご想像にお任せしますわ」


ブリジットは笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。去った商人の方向へ温度のない視線を向けていた。



 ぜっっっったいに許さない!お兄様を舐めるなんて!あのホーガースに嫌がらせしてやる!!!


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