3."アレ"がないと生きられない男と見える嘘 前編
昼ご飯の後、部屋で兄宛の手紙を書いていたらメリィが扉をノックした。
「ブリジット様、エマ様から手紙が来ています。特急の魔法で」
メリィから手紙を渡された。
特急の魔法は、速やかに物を届ける魔法だ。普通郵便の6倍郵送にお金がかかる。
「めずらしいわね。特急便をつかうなんて。何のようかしら?」
ブリジットはエマからの手紙を一読した。
《親愛なるブリジットへ
ブリジット、私は今とても困っているの助けて!!
後もう数日で始まる舞踏会に、遠縁のおじさんと出席予定で、遠縁のおじさんが屋敷にきて今たいざいしてるんだけど、そのおじさんがおかしいの。
お願いブリジット助けに来て!私の屋敷に来て!
エマより》
ブリジットは手紙を読んで「どういう状況?」と困惑した。
エマの手紙から状況は全くわからない。エマが助けを求めていることはわかった。私が行っても解決しないと思うんだけどな…
ブリジットは近場で待機していたメリィに馬車の準備をするよう指示した。
「とりあえずエマの屋敷に向かいます。エマが困っているみたいだから」
*
ブリジットは手紙を読んだ後、速やかにエマの屋敷に向かったのでわりとすぐに到着した。
「ブリジットありがとう、きてくれて」
エマが走って玄関まで向かいに来て、ブリジットに抱きついた。
ブリジットは抱きついてきたエマをすぐに外した。
「状況は?」
「ブリジット、もう少し抱きつかせてよ。安心したいのに」
エマがぶちぶちと愚痴を言い始める。そんなエマにブリジットが冷静に切り返す。
「私を抱きしめても問題は解決しないわ。遠縁のおじさんがどうしたの?」
「数日前からおじさんがに来てくれたんだけど部屋から出てこないの、使用人も追い返すの。
このメイドがおじさんの部屋から漏れ出た音とかを聞いたらしいの。だけどその状況が普通と違ってたらしいの。話せる?」
ブリジットは該当のメイドの顔を見て、前のドレスのときに関わったメイドであることがわかった。
「はい。大丈夫です」
メイドは怯えながら、エマのおじについて話始めた。
「あの方は"人にに見られたら終わりだ"と呟いていました。
そして、"なんてことだ。アレが切れてしまった"と叫んでいました」メイドは声を震わせる。
「この使用人以外も…」
エマは迷ったのち、付け加える。
「おじが怪しい粉を持っていたと言っているの。そしてカチャ、カチャと小さな金属音がして、おじの部屋からわずかに独特の甘い匂いがするの」
ブリジットはエマからの視線を感じた。
「どうおもう?おじは、やく中?薬が切れたってこと?小さい頃から変わってないおじだとおもったんだけど」
ブリジットは思案を始めた。
「今はまだわからない。ちなみにおじさんはどう変わってなかったの?」
「昔から髪は白いの。でも昔会った時と同じようだから実年齢より若い印象で優しかったわ」
「へえ。本人と喋ってみないとわからないわ。しゃべれる?」
「扉ごしなら」
*
エマとブリジットはおじのいる部屋の前に移動した。エマが扉を叩く。
「おじさま、私の親友のブリジットが来てくれたの。会ってくださらない?」
おじは、すこししゃがれ気味の声であった。
「ああ、エマ。是非とも会いたいが今は無理だ。舞踏会の日には会えるから今は部屋に引きこもらせてくれ」
完全拒絶である。ブリジットはエマのおじに扉ごしに声をかけた。
「ブリジットといいます。今はだめなんですね。何かお身体に問題があるのかエマが心配されています。お身体は問題ないのでしょうか」
「ああ、ブリジット様。身体は問題ない。今は会える格好ではないんだ。舞踏会の日なら完璧に身支度は整っているからね」
声が浮かばない。身体は問題ない。
「わかりました。身支度をととのえるのに何か足らないものはありますか?」
「いや、足らないものはない」
『足らないものはない』
浮かぶ言葉。
嘘。
足りていないはずなのに。
ブリジットは目をすがめた。
「すまない。今は一人にさせてくれ。
ところで、エマ。私が呼んでいる理髪師は様子見にはくるといってくれたかい?」
「おじさまの理髪師にコンタクトとっているけど、ほかの予約が入っているから難しいそうよ。
今まで通り舞踏会前日に行くそうよ。舞踏会前日の予約をキャンセルしたら駆けつけれるかもらしいわ」
「そうか。いや、いいこのままの予約で。
あの理髪師以外はだめだ。他の者には任せられないんだ。こんなことが起きたのは私の不祥のせいだから。
エマ。舞踏会前日には会えるのを楽しみにしている。じゃあ」
エマの叔父は落胆したような沈んだ声を出した。 エマはわかったわ、私も楽しみにしてると返事を返してブリジットとともに応接間に移動した。
*
「どう?ブリジット。叔父はやく中で、理髪師が伯父に薬を提供しているのよ。薬から抜けるにはどうすれば」
エマは悲観して自分の理論を展開する。
「そうね。確かに理髪師はおじさんにあるものを提供してるみたいね」
「そうよね。理髪師の倫理的でない行為を目を瞑るべきかしら…」
「安心して。おじさまが言っていた“アレ"は薬じゃない。貴族としての体裁を保つためのものよ」
「何?」
「…エマ、想像してみて」
「へ?」
「彼は見栄で引きこもっている。正確には、見栄を保つための道具…
エマは今度の舞踏会で理髪師を呼ぶの初めて?」
「そうなの。おじの紹介の理髪師によって初めて大掛かりの髪をセットする予定。今までは侍女の手でゆいあげるだけだったから」
「舞踏会では髪を大型にセットする派とナチュラルさを意識して結い上げるだけの派がいるものね。私も結い上げるだけよ」
「ほんとは大型セットしたかったんだけど理髪師が捕まらなくて。普段から懇意にしてないと捕まらないから。でもおじさんがあんな調子で行けるのか怪しいわ」
「大丈夫よ。エマ」
ブリジットは使用人にあるものを用意してエマのおじさまに渡すようお願いした。
使用人は戸惑いながらもかしこまりましたと返事をして去った。
ブリジットは応接間にある紅茶を優雅に飲んだ。エマからの視線を感じたが、無視した。
エマは気づくかしら。
おじさまもエマには教えたくないみたいだし、私からは言えないわ。
ただこれだけは言える。彼は貴族特有の見栄によって引きこもっている。
ブリジットは嘆息しながらエマが用意したスコーンを食べた。甘い苺ジャムとクロテッドクリームをたっぷりのせて。
貴族の見栄というのは、案外厄介なものね。
ブリジットはエマに困ったように笑った。
「大丈夫よ、エマ。エマのおじさまに会うのはもう少し待って」




