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4. "アレ"がないと生きられない男と見える嘘 後編

 

 ブリジットが二杯目の紅茶を口にしたところ、エマのおじが応接間に現れた。


 穏やかな顔をした男だった。ブリジットに深々とお辞儀をする。


「ブリジット様。ありがとうございます。助かりました」


 ブリジットは小さく肩をすくめる。エマは頬を膨らませた。


「どうして全然部屋から出てこなかったの?!」


「おや、エマ。おじさんと会ってうれしくないのかね?」


膨れっつらのエマに彼ははずんだ声で声をかける。


「嬉しいけどどうして!」


 エマはおじを腕を組みながら、じとっと睨んだ。


「そうだな。お前にもそろそろ伝えないといけないな。舞踏会にいくし。実は…」


彼は言いかけて、口を閉じた。


「なに…」


エマが促す。彼はうなずいて堪忍したように口を開いた。


「この髪はカツラなんだ。私は昔から薄毛でね」


「ええー!!そうなの?!え、でも今回のおじさまの引きこもりと何が関係あるの?」


「まだわからないか」


彼は困ったように人差し指で鼻をかき、言いよどみ、視線を逸らした。エマはたまらず叫んだ。


「白い粉は薬で、おじさまは薬中なんでしょ?!」


 ブリジットはカップを置き、静かに首を振った。


「いいえ、違うわエマ」


ブリジットは微笑んだ。


「彼が外に出られなかった理由は、粉よ」


「は?粉?」


 エマが眉をひそめる。ブリジットは肩をすくめた。


「その白い粉が、足りなかったの」


「だから、その白い粉ってなに?理髪師が渡したの?」


「答えは単純。かつら用の粉、香りをつけた上等な白粉よ。今回は小麦粉よ。

本来は専用のものを使うけれど、切らした時の代用品として小麦粉を使うこともあるの」


 ブリジットはさらりと答える。


「用意させたのは、私だけれど」


「小麦粉?それが何が関係あるの?」


「かつらに白い粉をかけて初めて正装が完了したとみなされる」


「はぁ?」


「粉がはげて地の色がみえることは威厳が剥がれ落ちた姿でひどく格好が悪いことなの」


「いやいや、粉で威厳って…」


エマは眉をひそめる。


「そんなことで引きこもってたの!?」


「そんなことではない!!これは誇りだ!」


 おじがエマに強い口調で反論する。ブリジットがおじの発言のフォローをする。


「彼は白い粉なしで外にでるのは裸を見せるくらい彼には羞恥を伴う行為なの」


「うそ!?」


「貴族だから」


ブリジットは曖昧な笑みをのせた。


「昔、粉で舞踏会で笑われたことがあるんだ…」


 おじは小さく咳払いをした。


ブリジットが手をぱんぱんと叩いた。


「それより、エマは今回の舞踏会で大掛かりなセットするんでしょ?エマも髪に粉をはたくときはきをつけなきゃ」


「ええ、まあ」


ブリジットがいたずらっこみたいに目を輝かせた。


「舞踏会晴れたらいいわね。

もし粉をたっぷりつけた状態で雨に降られると、悲惨なことになるわよ」


「どうなるの」


 エマが恐る恐る尋ねた。


ブリジットは愉快そうに笑った。


「水分を含んだ粉がドロドロのペースト状になり、たれてくるの。実質パン生地だもの」


「いやいやいや!!」


エマが叫び、青ざめ頭を抱える。




「ブリジットのいじわる」


「そんなのになったら恥ずかしくて二度と社交界には戻れないほどの屈辱よ」


ブリジットは優雅に笑った。


「頑張ってねー」


心のこもらないエールを添えて。


「ブリジットのいじわるーーでもそんな意地悪を言うブリジットも好き。もうもう」



 エマが叫び、ブリジットに抱きつこうとした。

ブリジットはすみやかに回避しエマの家を辞す。



 帰り際、馬車の中で、ブリジットは少し反省した。



少しからかいすぎたかしら。



だがすぐに口元が緩んだ。

ブリジットは窓の外を見ながら、くすりと笑った。



「雨、降らないといいわね。…いいえ、やっぱり」



ほんの少しだけ、降っても面白いけれどね。





明日更新お休みします。

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