1.変わった料理と見える嘘 前編
エマ・コールマン→ブリジットの一番の友達
避暑地から帰ってきたエマはさっそくブリジットの自宅に遊びにきた。
突然の訪問にメリィが気合いを入れてティールームを整える。
いつ誰がきてもいいくらい綺麗にしているが、久しぶりのエマの訪問にメリィの気合いが入る。
「ブリジットお嬢様とエマ様をイメージして花を生けました」とメリィが言っていた。
花瓶には白とピンクのグラデーションがみごとなバラがいけられていた。
ブリジットは花瓶のバラに近づき匂いをかぐ。
ああ、いいにおい。
バラは綺麗。やっぱり花は癒されるわ。
エマは可愛い印象があるのでピンクのイメージなのかしら。
じゃあ私は白のイメージなのかな。清純、無垢、穢れがないなどが白の印象よね。
いやん、自分でいってて恥ずかしい。
そうこうしているうちにエマの来訪の知らせが入った。このままティールームに通すよう伝えた。
ブリジットはソファーに座り穏やかな笑顔でエマを迎えた。
エマはブリジットの横に勢いよく座りティーカップが小さく揺れた。そして、矢継ぎばやに話をはじめた。
「ねぇ。 ブリジット。聞いて!
帰ってきたら家のコックの料理の味が変わってたの!!こんなことってある?」
急なエマの発言に穏やかな貴族の笑顔が剥がれかけるブリジット。
エマ近くない?ふつうは向かいに座らない?
まあ、エマの距離感バグってるからエマらしと言えばエマらしいか。
ブリジットはエマに落ち着くよう紅茶を飲むよう促した。
「おかえりエマ。エマがいないうちに、コックが変わったんではないかしら?」
エマは、 紅茶を一口飲み、記憶をたどるように視線を泳がせた。
「それはないの。コックの妻は私のハウスメイドで二人してやめていないもの。ハウスメイドは旦那が最近性格まで変わったって言ってるの」
「どんなふうに?」
「穏やかだったのに常にイライラするようになったって」
「へぇ」
エマは勢いよく椅子に座り、身を乗り出した。頬は興奮でほんのり赤い。
「きっとコックは別人に変わったのよ。
きっと双子の兄か弟がこっそりこのコックにとってかわられたのよ」
ブリジットはまばたきをする。
エマの想像力はいつも豊かだが、話が飛躍しすぎる。
ブリジットがエマに冷静につっこむ。
「双子はそんなに近くいないでしょ」
エマは首を横に振った。ブリジットのつっこみをむしして自分の予想を話してメイドを悲観する。
「かわいそうなのはハウスメイドよ。
彼女、コックの子供を妊娠してるの。別人の夫をこのまま夫にしないといけないのよ」
ブリジットは軽く息を吐いた。
「まあまあ、エマ落ち着いて。
あなたがお土産で持ってきてくれたエッグタルトでも食べて落ち着いて」
「ああ、このエッグタルトはブリジットのおみやげとしてピッタリだと思ったのよ」
『このエッグタルトはブリジットのおみやげとしてピッタリだ』
浮かぶ声
嘘。
ブリジットはエッグタルトを見て思案した。
小さいクリーム入りタルト。
表面は焦げ茶の焼き色がつき素朴な味のお菓子。一つ一つが小さく食べやすい。お茶請けにちょうどいい大きさだ。
ブリジットはエッグタルトを一口食べた。
カスタードの味がちょうどよく甘くて美味しい。でもエマはお土産として選んだのではない。
なぜ、嘘を…。わからない…
ブリジットは小さく首を振った。
でもまずはコックの話からかたをつけよう。
エマは思案するブリジットにお構いなしにはなしつづける。
「でね、別人と思うのはまだあるの。
そのコックはハウスメイドと寝室を分けようと提案してきたんだって。
理由もはっきり言わなかったらしいの。
だから別人だから一緒にいたらぼろがでるからよ」
ブリジットは一拍遅れてエマを見た。
コックが別人。双子。妊娠。エマは話が飛躍しすぎである。まずは基本的な情報から…
「そのハウスメイドって妊娠何ヶ月くらい?」
エマは紅茶を飲むのを止めて考える。
「たしか、妊娠四ヶ月よ」
「じゃあ妊娠中期ね。そのハウスメイドとコックは通い?」
「そうなの。二人は一緒に住んでるの。
私の家はまだ新興貴族だから家が小さいの。
土地がなかなかあかないのよね。使用人用の部屋はごく一部だから」
ブリジットは一瞬思案した後、手元の紅茶を一気にのんだ。
そしてブリジットはエマに「わかったわ」とにっこりと微笑みながら告げた。




