28.激安物件と見える嘘⑤大家の妻
アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。
フィンバート・グレンドール→フィン、好青年、警察、アレクの知り合い
セルジュ・ノクス→フィンの相棒、鑑定官、アレクの知り合い。柴犬みたいな男。
ブリジットは立ち上がり、ジョセフィーヌを撫でるのをやめ、フィンに尋ねた。
「フィン、お知り合い?」
「うん、犬友達なんだ。イザベルさんって言うんだ」
ポメラニアンを連れた婦人イザベルはジョセフィーヌに近づいた。
ジョセフィーヌは唸りはじめた。
「あらあら、まあまあ。やっぱりだめかー。うちのリリアンとは仲良しなのにね」
イザベルはジョセフィーヌに唸られているのは慣れているのか、ジョセフィーヌに残念そうに話しかけた。
イザベルは愛犬家らしい。ポメラニアンのリリアンの毛並みはふわふわとして綿菓子みたいだ。
ジョセフィーヌとはまた違った可愛さである。茶色の毛がほわほわしててつぶらな瞳がかわいい。
「あっそうだ。イザベルさんはセルジュがあの目をつけていた格安物件の大家さんの妻だよ」
フィンは急に思い出した情報を追加する。
「あの物件は、今日ブリジットと行ったら入居者が決まったと言われました」
セルジュが残念そうにフィンに答えた。
「えっ!そうなんだ?」
「あらまあ、セルジュさんごめんなさい。主人がもう決めてたなんて知らなくて…」
イザベルが恐縮した様に謝る。
「いやいや、いいんです。縁がなかったので」
イザベルが残念がった。
「私、セルジュさんみたいな方が住んで欲しかったわ。
募集にいらっしゃる方は、ずいぶん粗野で気の合わない人ばかりでして。
主人はお断りしていると長いこと言っていたから」
ブリジットは内覧した部屋を思い浮かべた。
たしかに。相場の八割なら、身分よりも価格を重視する者が集まるだろうな。
逆に貴族や富裕層は怪しがって敬遠する。無駄足になる可能性が高い。
セルジュのタイプは珍しいのよ。富裕層で時間のロスも厭わない。変わった人よ。
「へー、貧しい人が来てたんだ」
フィンがあっけらかんとしゃべる。 ブリジットは思わずかたまりかける。
フィン空気読んで!婦人はことばを濁してたんだから。
イザベルはフィンの話を笑顔で流した。
「ふふふ。主人があの部屋、値段はあげないの。前の住人が孤独死してしまったから縁起が悪いからって」
ブリジットは疑問を呈した。
「前の住人は女性だったんですか?」
「いいえ。
でもそのままだと寂しい部屋だからと主人が部屋を、明るくなるようインテリアを整えていると言ってましたよ」
ブリジットは嘘だらけの大家の言葉を思い出す。
やっぱり嘘。前の住人は女性でない。これは何かあるに違いない!
ブリジットは大家の嘘を指摘しないようにセルジュに目でコミュニケーションをかわした。
セルジュは了解したようでこそっとブリジットに聞こえる声量でブリジットに話した。
「大家は女っぽい趣味だな。見る目少し変わるわ」
ブリジットは思わず足を滑らせそうになる。
そ、そっち!?
違和感として捉えるのではなく、情報を今の状況に修正能力高くない!?
確かにその可能性もあるけど、違う気がするな…
*
フィンとイザベルと別れて、ブリジットとセルジュは次の安めの物件を見に行くことになった。
先手必勝?と言うことで引き続きブリジットが婚約者の役をすることになった。
なんで私が…
お詫びにセルジュが言っていたバーガー屋さんでバーガーをセルジュに奢ってもらった。
たしかにセルジュのいうとおりおいしいハンバーガーだ。
肉汁たっぷりのハンバーグ。
普通よりもふわふわと優しいパンが肉汁をしっかり包み込み、新鮮なレタスはシャキシャキとしている。
ブリジットはバーガーの美味しさに感動する。
こんな美味しいもの食べるならまた婚約者のふりしてもいいかもと思ってしまう。
うう、美味しい。
ご飯で懐柔されるなんてちょろすぎるかも、わたし。
こんどの物件は少し王都から離れたところにある。馬車で二十分。まあまあ遠い。
ブリジットと セルジュは流しの馬車にのり、目的地に向かった。
その物件は外もボロかったが中もボロかった。
おまけに耐震性に問題があるので、数年後に取り壊す予定らしい。
セルジュは引越しで金が出て行くから数年だと安いとこに住んでも意味がないと却下になった。
なんだか二人してぐったり疲れた。
そのため、馬車で帰る際、揺れを防ぐため馬車をゆっくりと走るよう御者に頼んだ。
セルジュも疲れたので車窓からの景色を眺めていた。
景色を眺めるセルジュを見ながらブリジットはふと思った。
そういえば、 セルジュのあの時の嘘の意味はまだわからないのよね。いつ聞けるかしら。
そんなことを考えながら、何気なく視線を外へ向けた。
その時だった。
ブリジットはふいに目に入った景色で気になることを発見した。
「止めてください」
御者にお願いして馬車を止めた。
「なんだ?なんだ?」訝しげに首を傾げるセルジュ。
「あそこ見てください」
ブリジットは指差した。指差した先はジェリーショップだった。
ジュエリーショップはガラス張りで、外からでも店内がよく見えた。
「チェーンのジュエリーショップだな。
割と安価で庶民に人気がある店だ。
ブリジット、欲しいのか?
ごはん奢ったから今回の件はチャラだろ」
嫌そうにいうセルジュ。
ブリジットは首を振る。
「よく見てください。大家がいます」
「へ?」
「ピンクの髪の女の人にジェリー選んでます」
大家と連れ立っているのはピンクの髪の女だった。
「ほんとだ。妻じゃないな」
「不倫ですかね?見てはいけないものを見たかもしれませんね」
ブリジットはうろんげに答えた。
「だな。これで大家に部屋をゆずってもらうよう脅すにも証拠は薄いし…見なかったことにするか」
セルジュがあっさりと結論をだす。
「そうですね。では出してください」
ブリジットもセルジュの案に乗っかることにした。
車窓からは大家の姿がどんどん遠くなっていった。ブリジットは、大家と内覧したあの部屋を思いうかべた。
広いリビング。大きなベッド。使われている痕跡。前の住人の性別の嘘。
そして今回目撃した不倫。
ブリジットは何か引っ掛かるものがあった。
何かがつながりそう… そもそもあの部屋、本当に貸すつもりなのかしら。




