25.激安物件と見える嘘②安すぎる物件
アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。
フィンバート・グレンドール→フィン、好青年、警察、アレクの知り合い
セルジュ・ノクス→フィンの相棒、鑑定官、アレクの知り合い。柴犬みたいな男。
セルジュの目をつけていた物件はそこまで遠くなかった。ほんの三、四分歩いたら着いた。
立地は良い。王都の中心部からそれほど離れていない。
また、物件の近くには広い大きな公園があり、犬を散歩させたりジョギングする人がいた。
のどかである。治安も悪くない。
「いい立地ですね」
「ああ、あそこだ」
セルジュが指差した物件は三階建ての白色の建物であった。建物の白は黄ばんでいない。
「外観も綺麗で年数経っているわけではないですね」
「……だろ。だけど相場の8割くらいなんだ」
ブリジットはたじろいだ。
相場の8割。いや、この立地ならそれでも安すぎる。
「ここはむしろ相場より高くてもおかしくない。立地、建物の外観共にかなりの高ランク。 セルジュ、間違いではなくて?」
「いや。まちがいでない。激安だろ。三階の角部屋、二LDK」
ブリジットは思わずセルジュを見た。
「事故物件じゃない?」
「警察の力を利用して確認したら、殺人、自殺はなく事故物件ではなかったんです」
「職権濫用じゃない?」
ブリジットが引いたように答えた。
「なんでも使えるものは使います。事故物件確認は違反ではないんですから。臨機応変です」
セルジュは楽しそうに笑った。
「ああ、いますね」
三階の角部屋のドアの前に人が立っていた。
ブリジットとセルジュは階段を登り共用廊下を歩いてその人物に向かった。
小太りな男であった。
セルジュがブリジットにその人物を紹介する。
「こちらは大家さんです」
四十代くらいの白髪混じりの男性だ。迷惑そうな顔をして、足は小刻みに動き、苛立ちを隠しきれていない。
セルジュ、嫌がられてない?
そんな大家にセルジュは愛想良く笑う。
「こんにちは、今度は婚約者を連れてきました」
「婚約者の ブリジットです」
ブリジットは軽く会釈する。
大家はブリジットを下から上まで値踏みするように見た。そしてセルジュに視線を戻す。
「セルジュさん、実はこの物件はもう他の方に決まりました」
『他の方に決まりました』
浮かぶ声
嘘。
大家は、迷惑そうに眉を寄せてセルジュに伝える。
「こちらとしては身元のしっかりとした静かな方に住んでもらいたいので」
『静かな方に住んでもらいたい』
浮かぶ声
嘘。
セルジュは驚いた声を出す。
「え、数日前まで決まってなかったじゃないですか」
大家は薄ら笑いをうかべる。
「あの時点では、まだでした。しかし頭金を現金で出す身元のしっかりとした方に決まりました」
『頭金を現金で出す』
浮かぶ声。
嘘。
「なので、せっかくですが内覧してもお貸しすることはできません」
「そんな」
セルジュはショックを受けたようで呆然としている。
ブリジットはすかさず大家に提案した。
「あら、じゃあダーリンがどんな部屋に住んでみたいと思っているのか、
確認したいので内覧させてくださる?」
セルジュがブリジットのダーリンの呼び名にギョッとする。
「ダ、ダーリン?」
ブリジットはセルジュに近づいて腕に手を絡める。
そして、大家から見えない角度でセルジュの向こうづねを蹴った。
「いてっ」
「まあ、ダーリンどうしたの?ショックを受けたの?大丈夫、私が同じような部屋を探すわ」
ブリジットは更に近づきセルジュと目線を合わせる。
余計なこと言うんじゃないわよと目でセルジュに語る。セルジュに通じたのか、セルジュはこくこくとうなずいた。
「ダーリンに2度も足を運ばせたんだから
よほど魅力的な部屋だと思うの。今後のためにも見せてくださる?ねえ、ダーリン」
ブリジットが、セルジュに同意を求める。
「ハ、ハニー。そうだね。是非とも見せてもらおう」
セルジュがぎこちなくブリジットの演技に合わせた。
「い、いや」
大家が断ろうとした。 が、ブリジットが会話を遮った。
「ダーリンはこう見えてもエリートなの。
忙しいから、入居者が決まっていたのなら電話で教えてくれたらよかったのに。
あら、ごめんなさい。こちらは電話を持っていなかったのかしら」
電話、これは通話の魔道具だ。
一部の貴族や特殊な仕事のものが持っている。
つまり、持っているということは特別なステータスを持っているということと同義だ。
庶民は可能な限り貴族やステータス持ちには逆らわない。庶民は貴族を恐れている。
「で、電話ですか?」
大家の顔色が変わる。
ブリジットが更に畳み掛ける。
「ええ、もし借主が気分がかわった場合、我が家ブリジット・エブァンスに伝えてもらってもいいのよ」
「エブァンス家ですか?!」
大家が身震いをした。
「あら、我が家をお知り?」
「は、はい。昔からの名門貴族です」
「借主が決まってしまったのは仕方ないけど、私たちをせっかく足を運ばせたんだから今回内覧するくらいいいでしょう?」
「は、はい。こちらです」
大家は焦ったようにお尻のポケットから鍵を出した。
鍵穴に鍵を入れて扉を開けた。
セルジュは何か言いたそうな顔をしていたが、ブリジットは無視した。
ブリジットはセルジュに心の中で話しかけた。
ダーリン、だってこの男嘘をついているの。なぜ嘘をついているのか、理由が知りたいの…
なんてね。
なんだか面白そうだもの。もう少し調べさせて。




