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22.悪意ある食卓と見える嘘①⑧犯人は

ジェフ・ラザフォード→年配の男。傲慢。

リサ・ラザフォード→ジェフの妻。

メーガン→ジェフの秘書。ジェフの不倫相手。

イブ・ラザフォード→ジェフの娘。

ハリー・ラザフォード→イブの夫。娘婿。

若者二人→ジェフに会社を潰された家の息子。ウーズリー家?


アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。

フィンバート・グレンドール→フィン、好青年、警察、アレクの知り合い

セルジュ・ノクス→フィンの相棒、鑑定官、アレクの知り合い。柴犬みたいな男。

 

 ブリジットは『薬と食の相互作用』のページをめくった。


「分厚いわね…」



 お堅い内容だわ。見慣れない単語ばかりであまり内容が入ってこないわ。あれ、でも…


だが、その中で一つの記述がふと目に引っかかる記述があった。


『体調不良時、通常は問題ない食品でも有害反応を引き起こすことがある』


 ブリジットの中で何がひっかかる。


「……体調不良のときだけ?」


 その言葉に、ふと昨晩読んだ手紙の一文が重なった。

《疲れているときに食べた牡蠣に当たったの。》


「エマ……」


 普段は平気でも、条件が重なると毒になる。その考えが、胸の奥で小さく引っかかる。


 


 ブリジットは最初から読み始め関連する項目を探した。


 そして見つけてしまった。


「あった」


『特定の薬剤は代謝酵素を阻害する』


『その結果、通常は分解される成分が体内に蓄積する』



 分解されない……

 ブリジットの頭の中でゆっくりと、思考が形を取り始める。


 もし普段は無害なものがある条件のもとでだけ毒になるとしたら?毒になるかもしれない。


 ブリジットの脳裏に、あの食卓が浮かんだ。


 チーズたっぷりのパスタ。ワイン。ありふれた食材だ。それなのに、ジェフだけが倒れた。


「…まさか」胸の鼓動が、はやく鳴る。ページをめくる手は震える。そして、その一文を見つけた。


『チラミン含有食品(チーズ、ワインなど)は、MAO阻害作用を持つ薬剤との併用に注意』


 ブリジットの手の震えが止まった。


「これ……」


点だった情報が、線になって繋がる。薬。食事。タイミング。すべてが、都合よく揃っている。


「偶然…」


 小さく呟いて、首を振る。


「いいえ……違う。仕組まれていた」



だとしたら、犯人はあの人しかいない。



 ブリジットは深いため息をついた。


 翌朝、ブリジットの屋敷にフィンが訪ねてきた。リサの体調が良くなったので、一緒に証言をききにいくためだ。


 昨日の夜にブリジットは、犯人がわかり一睡もできなかった。




 フィンが訪ねてきたので ブリジットも覚悟を決めた。犯人を明かす覚悟を。


 開店前のレストランに関係者全員を集めた。


 リサ、メーガン、イブ、ハリー、アレックス、私。


事件のあったときと同じテーブルの配置で席についた。



 フィンバートとセルジュは私の両隣に立った。


「お集まりいただき、ありがとうございます。ここに来たのは状況をもう一度確認したくてきたんです」



 ブリジットに周囲の注目があつまる。ブリジットは、顔を上げて周りを見回した。そして、犯人を指差した。






「犯人はリサ様です」


 リサは驚きの表情でブリジットを見た。


「わたし?」


ブリジットは軽く頷いた。頷き、周囲を見回す。全員驚愕の表情でブリジットを見ていた。


「支配人さん」


 ブリジットは冷静な声をだした。

指名された支配人は慌てて返事をする。


「は、はい」


「当日直前に予約されていたパスタからチーズが入ったパスタにリサ様からオーダー変更が入りましたよね」


 支配人はリサを気にしながらも事実を答えた。


「は、はい。間違い無いです。奥様からです。ご主人のジェフ様が食べたいと言ったからと」


ブリジットは支配人にさらに細かく状況を追求した。


「追加のオプションでパルメザンチーズをオーダーしたのも間違い無いですよね?」


「はい。奥様がジェフさまがすきだからと」



 ブリジットの質問に何の意味があるかわからないと思っているのか訝しげである。


ブリジットは数歩歩いてメーガンに近づいた。メーガンはブリジットが近づくたびにびくりと肩を揺らす。



「次にメーガン様。

ジェフ様は、ここのレストランのチーズ入りのトマトパスタが食べたいと言ってましたか?」


ブリジットに怯えながらもメーガンは正直に答えた。


「いいえ、言ってないわ。

私はほとんどジェフの横にいたからわかる。二人はほとんど喋ってない。喋ったのはハリーの解雇のことよ」


 イブがリサを庇い、ブリジットにくってかかった。


「どういうこと。そんなメニューのオーダー変更なんてよくあることでしょ?」

 

ブリジットは首を振った。


「はい。しかしジェフ様が食べたいといったわけではないのに

あえて、リサ様はチーズ入りのトマトパスタをだした。そして、メーガン様」


「は、はい」メーガンが動揺する。

「リサ様はあなたが白ワインを提供すると直前で知ったんですよね?」


「間違いないわ」


「でも、ママはパパが飲むのを止めたわ」


イブがなおもブリジットにくってかかった。


「そうそこです。

一度お酒をのむのを止めたのに、リサ様は次のときに赤ワインを飲むことをお勧めした」


「ワインが何よ。

パパはいつもワインを飲んでいたしパスタやチーズを食べたからと言ってなにもなかったわよ」


イブはかんしゃくをおこしたようにさけんだ。


ブリジットはイブに言い聞かせるようにゆっくりと話した。


「普段は大丈夫です。

しかしジェフ様は結核治療薬のイソニアジドを飲んでいた。


イソニアジド服用下にチラミンを多く含む飲食物を摂取した場合チラミン中毒になる」


「チラミン中毒?」


「チラミン中毒とは動悸、重篤な皮膚紅潮、結膜紅潮、頭痛、呼吸困難、頻回呼吸、発汗などが起こることです。


普段はチラミンはMAOという腸管にいる酵素よって代謝分解され、毒性を示しません。


しかし、イソニアジドはMAOを阻害します。そのためチラミンが分解されず、体内に吸収されます。

結果としてチラミン中毒が起きます」


ブリジットは確信を持ってリサを見た。


「あなたはこのことを知っていた」


リサは叫んだ。

「知らなかったわ」


『知らなかったわ』


 浮かぶ言葉


 嘘

 


「あなたには主治医から言われていたはずです。

細かいことを言う医師ならなおのこと。特に具体的にチラミンを多く含有する食品言われていたのでは」


ブリジットの眼光はリサを鋭く捉えた。


「そんな。私ではないわ」


『そんな。私ではないわ』


 浮かぶ言葉



 嘘


 ブリジットはリサに向き合って答えた。


「一つくらいなら偶然があるかもしれません。


結核治療薬下において」


ブリジットは一瞬間をおいて人差し指をたてた。


「チラミンを多く含む食品、熟成したチーズ。これはチーズ入りのパスタ、パルメザンチーズ。


あなたはあえて注文を変更した、チーズ入りのパスタへ。


そしてジェフ様がパルメザンチーズを追加させるように誘導した。


普段は食べないあなたがあえて『パルメザンをたっぷり』と言って率先することにより」


 中指を立て二つ目の指をたてた。


「次の食品はワイン。


あなたは白ワインを飲むのを止めた。反発することをわかっていたから。


そして、さらに巧妙にうまくジェフ様に赤ワインを注文させた。

希少で高級な赤ワインを取り扱っているといって」

  

 ブリジットは三つ目の指を立てた。


「そして主治医の死。


ジェフ様の死と薬を直結するのは主治医だけだった。だから主治医も殺した。


二つ重なれば疑いに。三つ重なれば殺意です」



周囲が息を呑む。ブリジットとリサの対決に。


「あなたは少しずつ少しずつ仕込んだ、ジェフ様だけにきく毒を、悪意という名の毒を。


リサ様、あなたが仕組んだ殺人です」


ブリジットは手を下ろしリサをみつめた。


「リサ様。あなたは前々から計画していたわけではなかった。


きっかけはメーガンの白ワイン。

メーガンが何も知らないことを知った。


そして、ハリーの解雇がこの殺人の引き金を引いた。


悪魔があなたに囁いた。

今なら誰にも気づかれない毒でジェフ様を殺せると。


違いますか?」


リサは深い深いため息を吐いた。


「ほんとに、鋭い子。そうよ。


私がジェフを殺したわ。ハリーを解雇してイブと別れさせると言ったのよ。

イブにはしかるべき身分の夫が必要だと言って」


リサは拳を握りしめ、


「しかるべき身分?


馬鹿馬鹿しい。そんなことになったらイブは幸せになれない。

現に私がアイツと結婚して後悔しているんだから」


虚空を見ながら喋った。


「私はジェフに縋ったわ。


縋ったけど断られたの。


その時思ったの。

こんな夫はいるのかしら」


 リサは顔を顰めた。その顔は泣く手前の顔だった。


「だから私は試したの。

夫が私の意見を聞いて白ワインをやめたらこの殺人はやめようって」


リサは泣いてはいない。ただ遠いどこかを見ていた。


「でも、やっぱり私の意見は何も通らなかった。

私は後悔していない。


いえ。少しだけ後悔しているわ、あなたを招き入れたことを」


リサの目の照準が急に戻った。

リサとブリジットだけが、静かに視線を交わしていた。





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