log.50 Ghostism
「ユウレイさんよぉ、精々成仏して逝きなぁ!」
プラスチックポールに魔力を込めて一端の武器に昇華。
足元の砂を背後にぶっ飛ばして加速、刀に見立てたそれを真っ直ぐにユウレイに振り払うが、宙に浮かんだ左腕に掴まれてしまう。
紅葉が走るよりも高くハイジャンプ。
回転を加え、彼の言うユウレイとやらの頭部に踵落とし。
ひらひらりと宙を舞うそれに足は当たらず、高く砂を舞い上がらせるだけで終い。
「モミジ、アレ本当に幽霊か?」
透馬に生じた『違和感』。
それは「紅葉の攻撃を《《防いだ》》」に加え、「霊体のくせに攻撃を避けた」という二つ。
そして元よりあった紅葉の「敵襲」という二文字。
仮にあれが本当に霊だったのなら、彼はきっと敵なんて言わない。あとあそこまで必死になって走り回ったりしない。多分「あ、出た」とか言ってぼんやりしてる。
しかし、それを訊いても彼は鳩が豆鉄砲喰らった顔をしているだけで…
「オレ『敵襲』って言わんかった?いいや、アレよく見てみ、ありゃ幽霊なんかじゃねーよ」
「浮いてる頭も腕も、マネキンに血糊つけて誤魔化してるだけだ。なんなら人魂だって爆竹入ったガチャ玉に油ぶっかけて燃やしてるだけ。激安遊園地のチープなお化け屋敷の方がまだマシレベルの子供騙しだよ」
夜の暗闇の中じゃ確かに分かりにくいけれども、それらはどこまで行こうとハリボテでしかなく、よく見ようとすればするほどにチープさが見え透いてしまう。
「出テいヶ…!」
形の変わらない口から音が発せられる。それも二人にも聞き取れるくらいの大きな声で。
そして、そう言うと同時に両手を飛翔させて紅葉の首へ。
首元に飛んでくる一本を右に身体を翻して避けるも、待ってましたとばかりに待機していたもう一本から顔面にストレートをもらう。
「図星だからってキレんなよ、ガキじゃあるめぇし」
軽いパンチで反らされた上体を起き上がらせ、即座に先の右手を鷲掴みにしてやわかい砂場に押し付ける。
そのままプラスチックポールで片腕に乱打を叩き込んでズタボロに。
(片方は潰した、あともう一個は…)
潰し終わって立ち上がれば、眼前に迫る火の玉をモロに受け、爆発の直撃を喰う。
「ヂィッ…!トーマァ!」
「分かってる!」
もう片方に横薙ぎの蹴りをしてもヒラリヒラリと躱される。
地面を蹴り、高速移動。
裏に回るではなく、上から踵を落とすと、腕はあっさりと両断する。
両断された腕は動かなくなるわけではなく、それぞれが独立して宙を舞って透馬を襲う。
乱打を叩き込まれた腕も、あたかも効いてないように紅葉へと飛んでいく。
飛んできた腕と手を組んだら握力だけでマネキンの手を粉砕。プラスチックポールをブッ刺して完全に動きを止める。
策もなしに矢鱈滅多に動いたとて無意味だと悟り、紅葉の隣まで跳躍して撤退。
いくら考えても敵のことが分からない。
恐らく、アレらを操っている人間が何処かにいるのだろうが、問題はその予測がまるでつかない。
「あの頭が本体って訳でもないだろうし、マジで意味わかんねーな」
「ひでーのはコイツらこうでもしないと止まらないことだよな。マネキンだからってこわれようが平気で動きやがってよ」
一列に並ぶ二人が眺める空飛ぶマネキンの背後、松林から現れるのは大量の火の玉。
ただぶつけるってだけでなく、しっかりと考えるだけの脳はあるらしい。
どっしりと構える二人に対し、どのタイミングで仕掛けるかと考えている。
「モミジ、お前刀は?」
「見ての通り。そういうトーマは?」
「先に同じく、だな」
瞬間、火の玉が一斉に飛ぶ。
目の前に不可視の壁を創り出し、直進する火の玉を防ぐ。
(流石に直進しか出来ない訳ねーか)
しばらくは不可視の壁があることを理解してか、それともただ飽和攻撃を仕掛けるためだけか、壁を避けるように飛んできた火の玉が進行方向を変えて二人の方へ。
それらを適宜叩き落としてどうにかこうにか爆発させぬように処理していく。
捌ききれない。
あまりの量だ。二人の現状では、これら全てを落とすには圧倒的に実力が足りてない。
幸いにも威力自体はそう高くなく、魔力で身を固めておけば大したダメージには繋がらない。このまま現状維持に努める。
はずだった。
お次、いやまだ終わってないから次じゃなくて増援か、とばかりに現れたのは大量のマネキンの腕。
多分左右の数は合ってないんだろうけれど、問題はそこじゃない。
純粋に数が多い。多分二、三十くらいはあるだろう。
しかもその大群に紛れるようにしてあの頭が松林に飛んでいく。
だがそれを止めようたってこれらを相手取るのは流石に――
「俺は跳んで頭追うからお前は中入ってろ!多分だけど、敵の隠れてる位置分かった!」
「それ何パーセントぐらい?!従うかどうかはそれ次第!」
「100!」
「仰せのままに!」
パンと二人で手を叩いたら薄気味悪い手の大群の上空までに跳躍。
四分の三程が標的を透馬に絞り進路を変えるが、それらを踏み台にしてもう一度跳躍。
砂浜と異なり、威力が分散しないために加速度は先のそれを超え、松林の中腹まで後退する頭を発見すればそこまで急降下。
踵を返して砂粒を蹴り上げて走る。
どこまで行こうと手は手。紅葉のスピードには着いて来れず、着実に距離を離して余裕を持ってゴールイン。
扉に背を付け、叩きつけるように閉ざす。鍵まで閉められたら尚良しではあるが、そうするよりも前に背に衝撃が走る。
「おわっ!元気いっぱいかよ!」
奴らが扉に向かい体当たりを始めたのだ。
一切の減速などせず、勢いそのままフルパワーで突っ込んで障壁を食い破るつもりなのだろう。
足と背中に魔力を集中させ、精一杯に食いしばる。
ここを開けられればあれらに揉みくちゃにされるのは周知の事実。次第にドンドンと戸を叩く音がしても堪える。
木材の割れる音がした。
開いた穴からは磯の香りが鼻腔をくすぐり、マネキンの腕が中まで侵入して、すぐ隣の紅葉を捉えようとしている。
身を翻し、不可視の壁を扉に打ち付ける。そこからの一切の侵入を禁ずる。
壁に柱まで衝立てやればパーフェクト。奴ら如きには到底歯が立たないだろう。
疾走。
リビングに置きっぱなしになっていった鞄の真横を突っ切り、窓ガラス越しに見えた手の大群を確認したらばそこにも壁を建てる。
ありとあらゆる侵入口となり得る可能性のある箇所を大急ぎで巡り、その悉くを塞いでいく。
二階まで上っても同じように。一部屋一部屋残さずに塞いでいく。
「チッ…!」
この際女子部屋だ何だと気にしている暇はないと割り切っていたが、音の具合から最早手遅れと悟り、その部屋ごと隔離する判断を下す。
粗方の穴を塞ぎ切ったら吹き抜けに着いているシーリングファンに飛び掛かり、改めて二階の更に上を見る。
「『龍眼』!」
これの持つ効果に含まれる『魔力の可視化』を存分に発揮する。自身のぞんざいな魔力探知に頼るよりも遥かに確実だからな。
「大当たりだ」
何処かでミシミシとひしゃげる音が鳴っている。
どうせ侵入口を奪われたからと無理矢理に穴を作り出すことにした奴らの音だろうから無視する。今はそんなことよりも遥かに優先すべき事項がある。
ファンから跳躍。
天井裏となる場所に目を付け、ほんの僅かな足場にどうにか着地。
不可視の足場を創る。力いっぱいに武器を振ろうと問題の無い程のスペースを確保すれば足を肩幅よりも二回り大きく開き、腰に下げた武器に手を掛ける。
「軍用剣術・二番」
それは祖父から教わった剣術。
先の大戦において重要視された一撃で目標を屠ることに長けた、ちょこざいな小技をかなぐり捨てた威風堂々たる御技よ。
「大祓い!」
抜刀と同時に穿つは一文字。
腰の捻りを加え、手を締め、より威力を増させれば目の前の全てを切り裂いていく。
木造二階建て、築三十と余年のコテージ、その天井裏に繋がる壁が、取り払われる。
「ヒッ…!なんで…どぉして!わたしに近寄らないで!私の居場所を奪おうとしないで!」
「ここのどこにオマエの居場所があんだよ。なぁ?幽霊ごっこの居候さんよぉ!」
中にあったのはピンク一色に塗れた小狭い部屋。その中に置かれたモニターはあまりに不恰好だが、そこに映し出されている映像がより一層と気味悪さを演出している。
松林。砂浜。コテージ裏。玄関。リビング。ダイニング。床下。物置。キッチン。男子部屋。女子部屋。洗面台。トイレ。風呂。
ありとあらゆる場所が映し出されている。
全てを映すモニターの前には酷く髪の伸びた痩せぎすの女が一人、クマのぬいぐるみを抱えて座り込んでいた。
こいつは全てを見て把握していたのだ。
そして的確に『嫌がらせ』をする。少しずつ、着実に精神を削っていくような嫌がらせをして、自らに近寄る全てを追い出そうとしていたのだ。
後退り。
彼女にも、何処かで突破口が開けられた音にも臆することなく天井裏に侵入する紅葉に怯えた彼女がぬいぐるみを抱え、座り込んだまま後退る。
「ゃめて…!こっちに来ないでって言ってるの!」
脳裏を駆け巡る記憶。
「早くここから出ていけ!お願いだから出ていって!もう限界なの!あんたの顔なんてもう見たく無いわ!」
「何の役にも立たない、役に立とうともしない!そんなお前にこれ以上手を尽くしてやる事はない!早々とこの家を出ろ!」
後ろ指を刺され、笑われ、遂には実の家族にさえも見捨てられたあの記憶。
それが彼女を奮い立たせる。
「近寄らないで欲しいのはこっちの方だよ。誰がオマエみたいな陰湿でやり口も汚い奴、友だちに指一本触れて欲しくねーよ」
彼の手に握られた白刃、窓ガラス越しに入ってくる夜の仄かな灯りに照らされ妖しく光る。
縦割れの瞳孔、龍眼は彼女を見据え、一挙手一投足を逃さない。
彼は歩みを止めない。
「来るな…来るなって言ってるの!ここは私の場所なの!あんたたちなんて入れてあげないんだから!」
「だーかーら、分かんねー奴だな。オマエの居場所はどこにあんだっての、ありもしない妄想に縋り付いてんなよ」
白刃を頭の上まで運び、両手を添えて構えを取る。
切先に彼女の目線は釘付けになって、首に狙いを定めた彼と視線が交錯する。
「軍用剣術・一番」
「ぃや!いや!イヤァァァァァァァ!」
首を振り、懇願する。
手を使って後退る。
自身を追い詰める獣から逃れるように。
「頭骨砕き!」
振り下ろした刀に手当たりは無く、視界の先に彼女もいない。
代わりにあるのは割れた窓ガラスと、宙に浮かんだ白装束。
長い前髪から覗く双眸は見開かれていて、怒りを余すことなく映し出している。
「かわいそうなわたしの演技はもういいのかよ。馬鹿馬鹿しくて好きだったのに」
「これだからクソオスは嫌いなのよ。男女平等とか言って女に暴力振るう理由ばかり作って…あんたみたいなのがいるからわたしみたいな女の子が生まれるのよ!」
「ネットの男女論に脳みそ喰われた独り身の三十路女が凶暴になるってマジだったんだな。母さんがそんなんじゃなくって心底安心したよ」
宙に浮かんだ彼女の背後に控えるは人魂もどきとマネキンの腕。
それらが攻撃の瞬間を今か今かと待っている。
「どうした?早く来いよ。どうせそれぶつける以外に脳ないんだろ?」
「わたしをバカに…するなぁ!!!」
手を振り上げ、紅葉の方へと振り下ろすと一斉に全てが前進する。
窓に空いた小さなの穴を通り、紅葉へと襲いかかるが、こうなって仕舞えばいくら数量が多かろうと一つ一つ打ち落とせる。
一切の問題無し。
「わっかりやすい揺動に引っかかってくれてありがとさん、バーカ」
「狙い通り」
銃声。
硝煙燻るは松林から。
小さく呟いた声は彼女にも彼にも届かず、銃声一発鳴り響いて、背に弾丸を受けてようやく彼に気付く。
先程まで松林を走っていた少年。
その手にピストルは見えないが、何かを持っているのだけは確かだ。
「この…!みんな寄ってたかってわたしをイジメて!みんなみんな死んじゃえばいいのに!」
「誘い方が分かりやすいんだよ。あんなのここから離れてくれって言ってたようなもんだろ」
数の多い人魂や腕と異なり、ただ一つだけの頭。
隠れるように、けれど確実に見つかるように遮蔽の多い林の中に逃げ込んでいく。
もしもあれが魔物の類であれば「本物だ」と考えるまでは秒読みだったことだろうが、残念なことに奴らにそこまでの知能はないし、仮に知能を持つ個体がいたんだったらもっと上手くやる。
しかし、最も大きかったのはそこでは無い。
「お前、俺らに武器ないって分かった瞬間に露骨に遠距離主体に切り替えたろ。下手な誘い込みも近づかせなきゃ勝ちだって踏んでって感じか?」
透馬の足元で砂粒が散る。
カプセルに入った爆竹が爆ぜ、透馬を襲う。
しかし、透馬のすぐそばには松林。そそくさと遮蔽の豊富な場所へと入られてしまってはてんで攻撃が出来ない。
紅葉がいるせいで魔力探知もろくに機能しない、真眼も持ってない、挙句にはお得意の監視カメラも失った。
現在、彼女は圧倒的な光量に隠れる一匹の月兎と対峙しなければならない、光を放つそれに気を配りながら。
精神がすり減っていく。
「あああ!なんで!どうしてみんなわたしをイジメるの!わたしはただ一生懸命生きてるだけなのに!」
宙をかけるは不可視の三叉槍。
中空を駆け、幽霊が如く空を飛ぶ彼女へと向かうが、たった今紅葉にけしかけた腕の群れのいくつかを貫くだけに止まってしまう。
「チッ…マジで数だけは一丁前だな」
マネキンに揉みくちゃにされる前に退散。
幸い、腕にはカメラも付いてないし周囲を感知する能力もないようで、退散する紅葉を深追いしてくることはなく、簡単に逃げられる。
人魂の雨は未だ降り止まぬ。
木を遮蔽にし続けてはいるが、そろそろ限界も近い。
(あの数の腕がこっちに向かってこないのが唯一の救いだな)
生憎、彼は多数との戦闘は得意ではない。
能力、戦闘法のどちらもがそれに向いていない。
(でもこのままって訳にもいかない。どうせ相手の実力は俺らとそう変わらないんだ、やれるだけのことをやるか)
意気込んだならば砂浜に向かって木の枝を投げ飛ばす。蹴っ飛ばす。また投げて、蹴って…繰り返し。
砂浜に入ったそれらは数フレーム遅れて攻撃を喰らって粉砕される。
だが、数が増えれば増えるほどに粉砕されるまでのラグが長くなることを彼は見逃さなかった。
「確かここの松林は大丈夫だったよ…な!」
折れかけの松の木数本を見繕い、本気の蹴りをぶちかますと、それらは宙を駆け、彼女の方へと飛んでいく。
「わたしに近寄らないでって、言ってるでしょ!」
いくら火の玉をぶつけようが松の木は簡単には消えてくれない。
先程のあの雨でも折れかけになるだけだったんだ、そりゃこの短時間で粉砕なんて出来るはずがない。
消す事を諦め、避ける方にシフトチェンジ。
飛翔する木々の合間を縫い、掠ることすらないように飛んで躱す。
「待ってました」とばかりに発砲音。
不可視の銃身から穿つは不可視の弾丸。
木の枝を掴んで着いて来ていた彼の鋭い眼光が彼女を逃さない。
「ガハッ…」
背に走る痛み。
文字通り箱入りだった彼女にこんなもの、到底耐えられるはずもない。
一気にバランスを崩して急降下して砂浜ギリギリまで。
「軍用剣術・四番」
しくじったのは後方に気を使わなかったこと。
いきなり動きを見せた月兎に動揺し、焦り、動転してしまったがため、コテージから出て落下地点までやって来ていたもう一人の少年になんて気が付かなかった。
刀身を地面と水平に、足を前後に開いて姿勢は低めに。
肩より後ろに刀を構え、その時が来たら引き絞ったバネを迷いなく解放して穿つ。
「ヒッ…!」
咄嗟に腕を突き出し、目の前に大量の腕を集めて守りを固める。
自身の身代わりに、とマネキンの腕が集められて数を増す。集まる最中、すれ違いざまに彼に攻撃を入れるが、まるで効いていないかのように思えてしまう。
ダメ押しとばかりに放たれた弾丸は彼女へは向かわず、腕の群れに。
その中心で爆発が発生する。
「隙間は開けてやったぞ」
火の玉を彼にぶつけ、今度こそ直撃を。
更にマネキンを呼ぶ。薄くなった盾を修復するために。
しかし、間に合わない。
狙い澄ました龍眼が放つ眼光は、唯ひたすらに鋭利であった。
「刺心!」
腕たちをもろともせず、旋風を穿つ刺突が彼女の肩を貫いて吹き飛ばす。
あまりの威力に巻き込まれたマネキン腕までも吹き飛ばされて海の方まで。
波打ち際に二、三転してぐったりと倒れ込む。
痛い、痛い、なんで、どうして
それだけが彼女の脳内を埋め尽くしている。
ただひたすら、自分の居場所を奪われたくなくって、守ろうとすることがそんなにも悪いことなのかと、文句を垂れる。
チャプチャプと足音。
月明かりのない曇天の夜に白刃が妖しく。
見下ろす顔は酷く冷たい。
「わたし、そんな悪いことした?!ただわたしの場所に勝手に入ってくる奴追い出してただけなのに!こんなことされるなんておかしいと思わないの!」
足音は鳴り止まぬ。
足跡は増え続ける。
見下ろす眼にはもう、侮蔑すらも感じられない。
「それにわたしは乙女なのよ!ちょっとくらい悪いことしたって許すのがあんたら男の役目でしょ!それなのに…なんなのこの仕打ちは!」
「黙れよ」
声は低い。
自分でも驚いてる、こんな声出せたのだと。
あまりに醜い。呆れて声も出ない中、絞り出した一言。
それが彼女の心臓を貫く。
「住居不法侵入に窃盗、威力業務妨害に加えて盗撮に暴行。オマエの場合、業務妨害と暴行に能力使ってるから中度能力犯罪。これのどこをどう見たら『悪くない』なんて言えるんだよ」
彼女の犯した罪を淡々と羅列していく。
「どうせ余罪もまだまだあるんだろ」と吐き捨ててやれば涙を浮かべるから実に分かりやすい。
あぁ、本当に救い様がない。
「乙女?んなもんどこにいるんだよ。少なくとも今、オレの目の前にいるのはガリッガリの小汚ねぇババアだよ」
「あ、ああ、ああああ…」と嗚咽を漏らし、皮脂に塗れた長髪を掻きむしればフケが飛んで行く。
その様相を見ても、彼の心は動かない。
刀に両手を添え、頭頂よりも高く振り上げて構えを。
「三十路越えてヒキコモリのオマエは寄生虫の蛆虫がお似合いだろ」
「イヤァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
振り下ろすは軍用剣術・一番。
その威力に海は僅かに割れる。
女の醜い叫び声がこだまして耳に残る。
手当たりはマネキンの頭。
頸を落とした訳ではなく、一体のマネキンの頭を割って、中身の音声機器を露わにしただけ。
沖の方で爆発に近い音がした。
そちらに目をくれてやれば魔物の群れが大口を開けてこちらに向かってくるのが映る。
その遥か上空には白装束。
「ほら見ろ、真っ黒じゃねーか」




