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虚の機繰  作者: 浮海海月
満天の曇り空を彩る星痕
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log.47 Nolimit hottest summer beach

 寂れてるか寂れてないかで訊かれたら間違いなく「寂れてる」って答える。

 前方を海、後方を山に囲まれた自然の城塞に築き上げられたちっぽけな住宅街って印象を受ける。観光地らしい観光名所のない隠れた宿泊にもってこいの場所、それが干鯵だった。

 ま、そんなことたかだか高校生の彼らにとっては些細なことで、寄り道なんてしないで目的の海辺のコテージにちゃっちゃっと全速力で向かう。


「やっと着いたー!」


「ヒャッホーゥ!」


 ビーチに着くやいなや、荷物をぜーんぶ下ろして着の身着のまま塩辛い水の塊へとまっすぐにダイブするマヌケが二匹。

 人が居ないっていうのもあるんだろうけれど、海はとても澄んでいて、鮮やかな青に彩られている。ゴミもない、人もごった返してない。その上眺めもいいと来た。

 これはここが隠れた名所ってやつだったのかもしれない、と先程の自分を省みる。


「そこのバカ二人はせめて水着にぐらい着替えてから飛び込みなさいよ」


 木製のコテージ、その玄関の前からバカに目掛けてそうは言うが、肝心の奴らには届いてないご様子。

 透馬の目には若干髪が逆立って見えたけれど、ほんの一瞬のことだったしと見て見ぬ振りをする。


「ま、いいか。洗濯なんてあいつらにさせればいいし」


 潮塗れ砂被りの服にたっぷり時間をかけてゴシゴシ手洗いするのは決して彼女ではない。お母さんじゃないんだから、汚した物は自分で洗えやボケの精神なのだよ、ここは。


「ったく、真っ先に突っ込んでいきやがって。誰が荷解きすんだこれ」


 浜辺にどっさりと落っこちてクレーターを形取った大量の荷物とリュックサック。

 パンパンに詰め込まれた積荷を解くのは無論持ち主の仕事なんだけれども、肝心の奴らは絶賛仕事をしなさそうなので透馬が代わりに…なんてことはない。


「女子組は中で着替えて来るから、二人にもちゃんと水着着させておいてよー」


 男組の荷物は木陰に雑に放り込んで女子は先に部屋で着替える。そのうちに男子もさっさと着替えてしまおう。


「おーい、お前らも早く着替えろよ。風呂までその服だったら風邪引くぞー」


 折角の海、二泊三日の旅行をベッドの中で過ごしていいのか、と脅しをかけた瞬間に目にも止まらぬ速さで物陰までやってくる。


「確かに、それはいけませんな。なあシュンさん」


「そうですな、誠にイカンですな。なあモミジさん」


 うんうん、と頷きあってあーだこーだと服を脱ぎ、着替え始める二人に「バカが風邪を引くかよ」とツッコミたくなる。


「バカが風邪引くかよ」


 おっと、零れちゃったみたい。

 二人しておんなじ顔してこっちを見てくるんだからタチが悪い。余計に面白くなってくるからやめて欲しい。


「はぁ?!オマエが風邪引くから着替えろって言ったのにですかぁ?!」


「ワリ、あまりに思った通りに動いたもんだから…つい…ハハッ」


「この世にはねぇ!夏風邪を引くやつはバカって言葉もあるんですよぉ?!」


「ほら見ろ!バカも風邪引くじゃないっすか!…あれ、それホントにあってる?」


 バカがバカを認める様を見たせいで余計に笑みが込み上げてくる。瞬のあのポカンとした顔が忘れられなくって、また吹き出してしまいそうになるのを堪えるので精一杯。

 

 プルプル震えてる透馬を見て、二人は何を思ったのだろう。

 答えは単純明快。

「笑いを堪えてるのが丸分かりだし、折角なら盛大に吐き出させてやろう」でした。


「ちょ、マジでやめ…息、いき出来ないから…」



 女子組が出て来た時、最初に目にしたのは何故か苦しそうにしている透馬を囲う、部族みたいな動きをする二人だった。

 誰か最初にそれを口にしたのかは分からないけれど、確かにみんなが同じ感想をその情景に抱いた。


「どういう状況…?」


「トーマがツボにハマって出れんくなったんよ。誰か助けてやってくれん?」


 訊いた私がバカだった、と頭を押さえる深雪がとりあえず二人を制裁して、未だツボから出れないトーマの顔を見て驚愕する。


「あんたらどんだけ笑わせたのよ?!顔真っ青になってるじゃない!」


「だって珍しかったもんな」


「なー」


 顔を合わせてそう頷き合う二人をもっぺん殴ってやろうかと思ったときには拳が出てた。

「限度を覚えなさい!限度!分かる?!」と叱ってやる。

 


「ふぅ…やっと息できる。助かった」


 心の底からそう思っていたのだろう。もう青ざめていない顔には安堵を浮かべ、胸を撫で下ろしていた。


「あー助かってよかったー。前科持ち二人もいらないもんねー」


 ほどほどに言葉が鋭利だが、「死因:笑い過ぎっていうのも中々カッコ悪いしねー」と付け加えてやることで透馬にも牙を向く。

 存外に凛の一言はHPを削ってくる。


「もうトーマのツボのことはいいでしょ。そんなことより、だよ」


 では改めまして、ここまで言及のなかった女子組の水着に触れていこうか。

 静、凛、深雪と並んだ左から順にフリルの付いた白水着、ぴっちり上まで閉められたピンクのラッシュガードに大きめの麦わら帽子、そして競泳水着。

 

「ちょっと待てや。おかしいだろ!」


「なによ、何か文句あんの?」

 

 瞬の訴えたいことは紳士諸君ならご理解いただけることだろう。「折角の水着回でまともなサービスが一人だけってどうなってるんだ」、と。


「文句ってほどじゃないけど…なにその水着?!遊ぶやつじゃないでしょ!ガッチガチに泳ぐときのやつでしょ!ここになにしに来た?!」


「なにしにって…泳ぎに決まってるでしょ、海なんだから」


 さもありなん、とでも言いたいのが顔からして伺える。

 そりゃ海なんだから泳ぐのは変じゃないけれども、どっちかっていうとそれは遠泳のときに着るやつでは、とも思う瞬がおかしいのだろうか。


「モミジ幼馴染だろ?!お前からもなんとか言ってやってくれよ!」


「え、いや…水着って深雪とかアヤノが着てるやつがフツーじゃないの…?」


「お前は何がどうしたらそうなるんだよ!意味分かんねーよ!」


 説明しよう。

 紅葉が幼少の頃から仲良くしてる女子は深雪ただ一人であり、その他の水着を着る女性は母親以外にいない為、ビキニなんてまるで見たことがないのである。

 だからどっちかっていうとビキニを着てる静の方が異質で、「肌出すぎじゃね?だいじょぶなやつ?」と思っているのだ。


「だとしても漫画とかアニメとかでちょっとは見たことくらいあるだろ!」


「あんま詳しくないから知らないけど、そんなのあるんだ」


「分かった、お前がそういうの見てないのはもう分かったからいい。これ以上は俺が傷付く」


 瞬の趣味が露呈したところで次に行こう。

 関係なさそうにしてるそこの金髪ギャルだ。


「んで、綾小路さんはなんでそんなぴっちりラッシュガード閉めてんの?今日日見ないよ?JKでそこまで閉めてるの」


「いやいやー、あーしの水着とか需要ないっしょー。隠しといたほーがいいってー」


「俺の母さんと同じこと言わないでくれる?あんたまだ高一でしょ、需要で溢れまくってるでしょ」


 麦わら帽子の影になってしまったせいで、どんな表情をしていたのかは分からないけれど、「ありがとー」と言ってパラソルの用意に向かっていった。

 振り返りざまに見た彼女の笑顔に僅かな紅がかかっていたのはきっと、強い日差しのせいだ。



 なんやかんやあってみんながみんな思い思いに遊び始める頃、日差しはやや傾き始めて十四時に差し掛かる。


「紅葉ー?私ちょっとあそこの岩まで泳いでくるから」


「おー、いってらー」


 水鉄砲まで持ち出して男子組で激しい銃撃戦を繰り広げていた紅葉に「なんかあったら命綱になれ」とのお達しが出たので、浜辺で城を作っている二人のところまで歩いていく。


「タコのゲームの真似はいいのー?あれ見てるの結構おもしろかったのにー」


 汐風に麦わら帽子を揺らす凛が微笑んでそう訊くと、頭からつま先までの全身をくまなくびっしょり濡らした紅葉が砂の城の近くにどっさりと座り込んでは仏頂面。


「オレは負けまくってたからいいんですー」


「相手に切頭くんがいましたから、仕方ないですよ。分が悪いです」


 静はそう宥めるけれど、紅葉の悔しさを払拭するには至らない。

 相手に銃の扱いプロレベルの透馬がいるまではまだ許容できる。だって水鉄砲じゃ勝手が違うし、そんな大差ないと思ってたし、事実そうだったから。

 問題は戦いが始まって三分が経った頃に起きた。

「OK、大体掴めてきた」とか抜かしやがったのだ。そして瞬は速攻で手を組み、一方的な蹂躙が始まった。


「それでも負けたくないもんなんだよ」


 男っていうのはそういうもんなのだ。

 例え負けると分かりきってる勝負であろうと、一度挑んだとなれば勝ちたくなるし、負けたとなればそりゃ悔しくなるもんなのだ。

 少なくとも、凛には理解出来ない感情だったのだろうけど、「なんじゃそりゃー」と言ってクーラーボックスから取り出したジュース一本を手渡してくれた。


「それでも、ですか…」


 一言反芻するように呟いて、くすり、と小さく名前の通り、静かに笑う。

 それはとても堪えきれなくなって零れ落ちたものとか、可笑しくって堪らなくて吹き出たものでもない。

 けれども、紅葉にはそれが不思議に思えた。


「へ?オレそんな可笑しいこと言った?」


「いえ…神河くんらしいなって思って」


 本人的には今、会話の最中に自分らしさなんてものがあったようには思えなかったし、逆にカッコ悪いと思ってたくらいなもんで、「らしい」なんて言われると考えてもいなくて、ほんのりと顔をしかめてしまう。


「らしい、って…今の会話の中にオレらしさあったかなあ?」


「ありましたよ。分が悪いのに負けたくないって意地張ってるとこなんて、特に」


 尚も微笑む彼女は、その色白さも相まって水辺を漂うスイレンに見えた。

 そんな彼女の前じゃ、紅葉のしかめっ面も勝手に和らんでしまって、ふざけた様に、それでいて少しばかり困ったように自分を指差し笑うのだ。


「ナニソレ、オレ無謀ってこと?」

 

「違います!そうじゃなくって…ええと、なんて言うんでしょう」


 両手を紅葉の方に突き出して、首と一緒にぶんぶんと振ってそれを否定する。

 あまりの焦りように近くにいた二人ともどもほんのりと気圧されてしまう。こんな可愛らしい小動物に気圧されるなんて、今後あるだろうか、多分ないだろう。


「私の中の神河くんは、どんなに相手が強くって勝ち目がないように見えても、それだけで「じゃ負けてもいいや」なんて言わないんです」


「体当たりで勝ち方を身につけて、戦って、負けて、またぶつかってを繰り返して、最後には勝つ。そんな人なんです」


「だから、ええと…とにかくそこが神河くんらしいなって…」


 互いに水を撃ち合う様には見えない、透馬がによる瞬への一方的な水責めを眺めているのか、それともその奥を泳ぐ深雪に釘付けになっているのか、はたまた遥か水平の彼方を見越しているのだろうか。

 彼女はそうして手を組んだり離したりとしながら言って、最後ににへらと笑った。

 なんだか小っ恥ずかしくて、自然と目を逸らしてしまう。


「そっ、か。言われてみると確かにそうかも」


 真っ青な天を仰ぎ、自分の記憶の中の自分自身を振り返ってみると、確かにそうかもしれない。

 ぶっちゃけ気恥ずかしさを誤魔化すためだけに言ったようなもんだけど。


「あんまり自覚なさそうですけどね」


「バレたか」


 隣に腰掛けて、真っ直ぐに紅葉の方を見ながらそう言われると返す言葉があれ以外に思い浮かばなくって、ただそれだけを。


「この前のも記録撮っておけば、春頃のと見比べられたんですけどね」


「ただのケンカまで記録されちゃったら困るよぉ…」


 一歩離れていた凛が温かい目で見守っていることなんて忘れたかのように、しばらくの間二人はそうして花を咲かしていた。




 日が沈む前に火の準備だけはしとこうと、起こした火がパチパチと音を立てている。

 ごうごうと燃え盛ってはいないし、どっちかっていうとどっかのバカ共がはしゃぎまくった挙句、水までひっかけたので風前の灯火。


「これほんとに大丈夫?いける?」


「今なんとか盛り返して来たとこだからなんとかなりそうだけど…トーマ、この枝乾いてないから入れないで」


 心配そうに火の番をしている紅葉の様子を見ている深雪がそう訊くと、なんとかなりそうと答えてくれたけれど、罪滅ぼしとばかりに持って来た枝を突っ返して透馬をシュンとさせていた。


「ねーちゃんごはんまだー?」


「はいはいちょっと待っててねー。お兄ちゃんたち頑張ってるからー。ちょ、しーちゃん!しーちゃんはお願いだからチビたちの面倒見てて、ね?」


「は、はい!分かりました!」


 魚や肉、野菜などを食べやすくカットしている凛の方もそれはそれで大変なようで、いきなり大所帯になった上に、お腹を空かした子どもたちにてんやわんや。

 包丁をとんでもない形相で振り下ろす静を二度とは見たくはない、というか今はそっちに気を配ってられないので瞬と一緒にチビたちのお世話を依頼する。肩までがっしり掴んで本気でお願いする。


「兄ちゃん、オニごっこしよー」


「えー兄ちゃん足速いからなー、勝負になるかなー」


「じゃ、にーちゃんだけオニね」


 あっちの方では変に煽ったせいで「うおおおおお」とすごい顔で子どもたちとの鬼ごっこに全力で挑んでいる奴もいます。意外に子どもたちには人気みたいです。


 じっと座り込んでいる見覚えのある子どもの隣に目線を合わせる様にしゃがみ込んで優しく声をかけてみることに。


「ユーキくん、その貝がらすごく綺麗ですね」


「うん、キレーだからおねーちゃんにあげるの」


「だったらしっかり洗ってあげるともっと綺麗になってお姉さんも喜ぶと思いますよ」


「ホント?じゃそうする」


 ぼんやりとしているようでいて、その実じっと砂浜を見つめていたユーキはどうやらプレゼントになる綺麗な貝殻を探していた様で、静はそれを手伝ってあげることに。

 洗い場はどこだったっけとキョロキョロして結局コテージ内の手洗い場を使ったみたいみたいだが、選んだのは貝じゃなくて透明なイカの骨だと言うことを二人は知らない。


「アヤノー。火、もうだいじょぶそうだぞー」


「はーい!じゃ薪ちょっと分けといてくれなーい?ご飯炊くからー」


「おー、分かった」


 トングで火のついた薪を掻き分けて飯盒用に分けておくと、想像よりも大きな物がやって来て、「火力が足りねえ…トーマ!もっと枝拾いに行くぞ!深雪は火の番頼む!」と言って足りない火力を補いに行った。


「凛、お肉とかはもう焼いちゃっても大丈夫?脂にもなるし早いとこ焼いちゃいたいんだけど」


「うんだいじょぶー。そろそろあの元気なのが我慢できなくなってくるだろし、焼いちゃってー」


 凛が遠目を指差した方を見やると、言っていたように腹を空かした元気いっぱいの子どもたちと、一際体の大きな子どもがやってくるのはさながら軍の行進のようで、「早いとこ食わせてやらないと」と思わせてくる。


「モミジー言われた通り枝いっぱい拾って来たぞー」


「なんでオマエはそうしっとりしてるやつばっか選ぶんだい?!」


 ちょっと向こうの方から聞こえてくる声に吹き出し笑って前髪を焦がすところだった。「あー危ない」と、少し火から顔を離して肉を並べ始める。

 

「ごめんねー凛ちゃん。パパが不甲斐ないばかりにみんなに迷惑までかけちゃって…」


「いいよ別にー。お父さんが子育ての経験少ないのなんてとっくに知ってるからー」


 心の臓を「子育ての経験が少ない」と書かれた矢印で貫かれたりでもしたのだろうか、「グフッ」と血を吐き出しては「ゴメンネ…ダメなパパで…」とやるせなさそうに流した涙で滝を作っていた。

 それを「ダメなんて言ってないじゃーん。みんなの為に働いてくれてる良いパパだよー。ね?ショウ?」と中学生くらいの弟にパス。「お、おう」とぎこちなく受け取ったパスを「家にも帰らずに頑張ってるしな」と鬼のようなストライクシュートで蹴り飛ばしてしまう。


「凛ちゃん、ちょっと良いですか?」


「はいはーい?どしたー?」


 具材のカットに戻った凛を静が呼ぶので顔を向けてみると、足元にもじもじしてる弟の姿を見つけたのでしゃがんであげる。


「えっとね、これ、剣みたいでカッコよくてキレイだったから…」


「一生懸命選んだんですよね?」


 しどろもどろに言葉を紡ぐユーキにそっと手を添えるように助け舟を出してあげると、こくりと小さく頷いて、澄んだ貝殻(イカの骨)を差し出す。


「ねーちゃんにくれるのー?やったー!ありぎとーユーキ!宝物にするねー」


 ギュウッと抱きしめ、まだ幼く柔らかいほっぺたに自分のほっぺたをくっつけて特大の感謝を告げるとユーキも嬉しそうに。

 「しーちゃんも、ありがとね」と伝えると、「いえ、私はただ見てただけですから」と遠慮されてしまった。




「おいシュン!それオレの肉だろ!返せ!」


「ケッケッケ…この世界は油断した奴から先に喰われていくのさぁ…喰われたくなけりゃ必死に皿でも護っておくことだなぁ!」


 魔王もさながらの顔で悪い笑みを浮かべ、煽り散らかしている男の皿に魔の手、もとい魔の箸がぬるり。


「じゃいただきッ」


「あ、ちょっ…!やられたぁぁぁ!返して俺のお肉ぅぅ!」


「油断したお前が悪い」


 泣き縋る瞬を跳ね除け奪い取った肉を頬張り咀嚼しているのを横目に、紅葉はしれっと鉄板から直取りする。


「こらー、焼いてる肉お箸で突っつかなーい。お腹壊すよー」


「だいじょぶだって、胃強い方だし」


 こう言っても呑気にだいじょだいじょぶと言って聞かないで直取りをやめないのならば、凛にだって考えがある。


「チビたちがマネするからやめてねー」


「…ウス」


 しょんぼりして大人しくトングを持つ。

 しかし、BBQの時に男子がトングを持てばそりゃ立派な焼き係。

「にいちゃん次これね」「私タンがいい」「俺そろそろ貝とかも食いたいな」とかリクエストが次々と寄せられてしまう。


(…ミイラ取りがミイラになりやがったぁ!)


 片手で顔を隠して誰が悪いか思い浮かべてるのに、不思議だ。自分の顔しか見えてこない。

 まあ仕方ない。握ったもんはやるっきゃないし、リクエストまで来てたら答えてやろう。


「神河焼いてくれるんならあーしはあっちで焼きそば作ってこよー」


 隣で良い音が弾けている。

 どう考えても美味しくなる音が盛大に鳴ってる。腹の虫も呼応するように。

 けれど、目の前でキラッキラの目でこっちを見ているこの子たちを見捨てるわけにもいかない。


「順番に焼くから、もうちょっと待っててね…」


 とは言ったものの、子どもたちからの「まだー?」の声は止まない。シュンテメー魚まだ?じゃねーんだブ放送禁止コード。

 荒ぶる紅葉の口に旨みと溢れんばかりの肉汁の塊が放り込まれ、反射的に咀嚼すればまた美味が広がる。


「ほら、食べさせてあげるから、焼いてあげな」


「ふぁんきゅー」


「食べながら喋るな。汚ったないから」


 強めのツッコミも、今だけは許せる。

 いや、美味いもの食べてるときは基本何でも許せるの間違いだろうか。


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