log.43 lovely wars!
私は私が好きだ。
パッチリした深紅の目も、艶がある綺麗な緋色の髪だって惜しみなく伸ばして、背丈はちょっと納得いってないけど、それが可愛いの。
メイクだって大好きよ。
ただでさえ可愛い私がもっともっともぉっと可愛くなれちゃうんだから、嫌いになれるはずがないわ。
それに、唯一可愛くない腫れた涙袋も隠してくれるし、首に残った罪の痕だってなかったことにしてくれるから。
今日はどんな服を着ようかな。
進める駒がない時まであんな真っ黒けの服を着てる訳じゃないもん。嫌いじゃないけど、私の好みはまた別。フリルとかはないけど、地面スレスレになるくらい長いスカートのドレス、オッドもそれに合わせてゴシックな格好をしてくれるから大好きよ。
私はオッドが大好き。
オッドのことが大好きな私が大好き。
永い間ずぅっと彼を一途に想ってる私のことが好き。
永い間ずっとずうっとずうっとずうっと彼のことが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで堪らない。
愛してる。
殺してあげる。
ねぇ、オッド、
今日も私。貴方に恋してるのよ。
きょ日もあナタの隣で、笑ッてられル化しla。
愛してる貴方の左腕と私の右腕組んでエスコートして、日傘差して白い肌が焼けることもないくらいに守って、何も言わないけれどつまらないことはない、そんなデートに…
「ねぇ、早く行こうよ」
貴方がいるから、私は今も幸せよ。
「あぁ、行こうか」
仮面の下の貴方の顔が世界で一番
―――――――――――――――――――――
少女は悩んでいた。
それはそれは大層に悩んで悩んで、顎に手を当て、悩みの種をまじまじと見つめながら立ち往生する程の大悩みをしていた。
(…どっち?どっちの方がいいの?)
より鮮烈な赤色か、それともワインレッドくらいのアダルトなやつ?
正解が分からない。
こんなことなら普段から最近の流行りくらい抑えておけば、さっき行った本屋でそういうのを買っておけばと後悔する。
なんで気になってる小説と追いかけてる漫画を買って満足しちゃったんだ私のバカ!って感じで。
折角の夏休み、折角の部活もないお休みの日だからとショッピングモールまで買い物に出たまでは良かった。
元から欲しかった物を真っ先に買いに行ったのも良かった。
ちょっと目に付いた小物を見て、気に入ったのを買ったのも良かった。
だけれども、オシャレ関連のものが無い。まるで無い。これがいけない。
彼女だって華の女子高生ってやつで、青春ってものに縁なんてないって思っていても、青春真っ盛りな訳で。
こういった部類に興味がてんでないなんてことはなく、寧ろある種の憧れのようになっているのだ。
(相川さんも綾小路さんもすっごくキレイで可愛いのに、私だけ地味だからどうにかしたいんだけど…)
考えながらポップに載ったモデルの顔をチラリと覗き、小さな鏡に映った自分の顔と見比べてみる。
(いやいやいや!ムリ!絶対ムリ!私じゃいくらお化粧してもこんな風になんてなれないもん!)
頭を抱えてしまう。
店員が必死に「お、お客様…?」と声をかけてくれているのにも気付けなくなるくらいには頭の中はぐーるぐる。
ついでに目まで回ってきた気がする。
(だって絶対似合わないもん。モデルの人は多分身長も鼻も高くて整った顔立ちしてるし、大人の雰囲気があるけど、私の方は身長ギリギリ150cmあるかないかくらいだし、鼻だって高くない!いきなりお化粧しても子供の背伸びにしか見えないもん!)
悩めば悩む程に買わない理由しか出てこない不思議。これを一体全体どう名付けようか。
ドラゴニアにおける二番目に大きな都市、盤東。
その東の方に位置する東間市のショッピングモール一階の化粧品売り場の目の前で頭を抱え込んでいる少女がポツンと一人。
本人がどう思ってるかは他所に、随分と悪目立ちしている。
本人は目立ってないって思ってるかもしれないけれど、まぁ…うん、目立ってる。
そんな少女に忍び寄る影一つ…二つ?三つ?まぁそんくらいが忍んでる訳じゃないけど近寄って来る。
少女はそんなこと気にかけてる暇も余裕もなけりゃ、そも気が付いてさえいない。簡単に接近を許してしまうって訳。
近付く影は敵意なんて欠片も微塵も、ほんのちょっとのイタズラ心を連れてやって来る。肩からかけたホルダーに一人を抱え、片手にもう一人を繋いでやって来る。
「し ず か ちゃん♪」
もう片手で掴んだビニール袋を放さないように近くに寄ってから耳元で声をかけてくるのはよく聞き慣れている声。
「◎△$♪×¥●&%#〜$#<〆!!!」
しかし、状況が状況だし、誰かに声をかけられるとか、ましてや知人に会うとか想定してなかった彼女から言わせてみれば、どんなに聞き慣れていようと、相手が誰だろうとビックリする。
ほら、今とかビックリしすぎて言語化不可能な悲鳴あげてるでしょ?
「わお、ビビった〜。ビビりすぎでしょ〜。そんな変なことしてたん?ん?変なカッコではあったか〜」
振り返ってみるとストレートの金髪を簡単に一つに結んだローポニーテールの女性?がいた。
ちなみに外見から判断出来る限りでは静の知り合いの引き出しに彼女の姿はない。一瞬(約三秒未満)の時間で引き出しの中漁りまくっては見たが、当たりはなかった。
なので声と一部視覚情報に当てはまる知り合いを検索してみる。
ヒット件数は一。もしかして:
「…綾小路さん?」
抱え込んだままの頭を声のした方へと向けてみた先にいたのは恐らく、いや多分絶対大体80%くらいで当たってると思われる、友達とはあまり繋がらない姿の友達。
(見た感じ…お夕飯はカレーなのかな?)
と、カレールーが透けて見えるビニール袋から勝手に推測する。
「当ったり〜」
…どっちが?と思ったのはここだけの話。
エメラルドグーリンの瞳を閉じて眩しい程の笑顔をぶつけて来るほぼノーメイクの彼女はやっぱり友達だったみたい。
あーしは今、猛烈に感動している…!
なんでだと思う?なんででしょ〜?分かんない?じゃあ答え合わせね。
正解は〜?静ちゃんがコスメコーナーの前にいるから!でした〜。
ずぅっとずぅっっっっと目を付けてた女の子はぜんっぜんコスメに興味ないし、どんだけこういうとこ誘っても「私は大丈夫ですから」って言って試したりもしないしで、どうやったら興味持ってくれるか作戦立てながら買い出しに行ってたら、ついに!ついに!静ちゃんが自分からコスメコーナーに行ってるのを見かけたってわけ。
苦節三ヶ月…ほんと長かった…。
「ねえちゃーん。この人だーれー…?」
おっと、この子はやっぱり人見知りしちゃうか。
でもそろそろ人慣れもして欲しいしなー。幼稚園入って友達出来ないのもかわいそうだし、いい機会だ。静ちゃんにはこの子の最初の友達になってもらおうかな。
「この人はねえちゃんの友達だよ〜。ユウタも挨拶してごらん」
こう見るとなんでかは知らんけど頭を抱え込んでしゃがんでる静ちゃんとあんまり背丈変わんないんだなー。あーしの後ろに隠れちゃってっけど。
「…おはよーござます」
いたっ。何奴?あぁ、ユウタか。さてはあーしに引っ付いたまま挨拶したな。そんであーしが膝カックンされたわけね、こりゃこの子の将来が楽しみだー。
「おはようございます。ちゃんと挨拶出来て偉いですね。私は本間静って言います、えっと…ユウタくん、で良いですか?」
静ちゃんが挨拶してる…!初めましての人相手に物怖じしないで挨拶してる…!成長したんだね。
いや、単純に子供相手だからかなー。でも目線合わせて挨拶してるのは高得点だぞー、静ちゃん。
ユウタもちょっとは怖いの無くなってくれたかな?あーしの足から離れるつもりはなさそうだけど、顔だけはひょっこり出してくれてるし。
「うん、ユウタだよ」
それだけかい。ま、いいや、挨拶出来ただけでも良しとしよっかな。
っと、そうじゃなくて、静ちゃんだよ。
「そだ、静ちゃんはここで何してんの?ついにコスメに興味とか出てきた?」
いい加減立ち上がった静ちゃんの後ろに並んでるコスメグッズを覗いてやろーっと。
…マジか。
「あ、いや、えと、ちょっと気にはなってたんですけど、結局どういうのがいいのか分かんなくって…それで…」
チョー慌てまくってるけど、必死に誤魔化そうとしてんのかな?いや、誤魔化しきれてないけど。何でこのthe大人みたいな口紅持ってんの?
「…静ちゃんには多分こういうのじゃない方が似合うと思うなー」
うん。流石にないな。こりゃみっちり教えてあげなきゃいけないなー。
「ほんとに良いんですか…?お家、お邪魔させてもらっても」
メイクのいろはの「い」の字さえも知らない静に「この子はあーしがなんとかしてあげないと」と一種の母親心が湧いてきたのか、とりあえず基本の「き」から教えてやるために凛の家まで連行している最中、静からポンと生まれてきた質問は、そんな気にしてない様子で返ってくる。
「いーのいーの。どーせ特に変わったもんとかないんだから」
「そういう問題なのかな?」と一抹の疑問を持っても、友達の家にお邪魔するなんて経験のない静にはどれくらいが普通なのかが分からないから「まあそういうものなのかな」と、自分を納得させて着いて行くことに決めた。
「あ、でも気を付けてね。多分静ちゃんすぐに負けちゃうから」
改めて凛の格好をよく見てもやっぱり普段学校で見ている姿と今の姿が結び付かない。
本人が「そだ、よく分かったねー、見た目完全に別人だったでしょー。あ、声?確かに声は変わってないかー」って笑ってたくらいには別人。
普段の彼女はとても煌びやかだ。
ウェーブの打った金髪をポニーテールにして、髪飾りを色んなとこにくっ付けてるし、メイクだって自分の可愛さを120%引き出す最ッ高の物だ。
それが今は…
「地味でしょー、でもこんくらいがホントは丁度いいんだよねー、楽だし。それにチビたちも怖がんないしさー」
チビたち…っていうことは恐らくこの二人以外にもまだ子供がいるんだろうか。幼稚園に入ってるか入ってないかぐらいの子と、まだ生まれて間もないくらいの赤ちゃん以外にも。
ここで静の脳内にさまざまな憶測が飛び交う。「ヤングケアラー?若年妊娠?悪い男に捕まった?」とかなんだとか、一般的に良しとはされないようなものばっかりが。
「綾小路さん、私、なんにでも力を貸しますから!」
「フンスッ」と鼻から息を出して意気込んでも、当の本人はてんで要領を得てないみたいで、しばらくぼんやりと息巻いてる静のことを見つめた後ににへらと笑った。
「…?まじー?助かるわー。じゃ早速借りちゃおっかなー」
今度は静がポカンとする番みたいだが、目の前に指し示された「綾小路」の標札と、中から少し漏れてるドタバタと何かが走り回ったりぶつかったりしてる音がポカンとする暇を与えてくれず、寧ろ目を丸くしてしまう。
(綾小路さんのお家に一体何が…?)
少なくとも静の家で鳴ることは今後もないであろう音に戸惑いを隠せない。
だって知らないもん。
「ただいまー、お昼作るからオモチャ片してねー。お客さん来たからみんなのいい子っぷり見せつけてやれー」
ここまで来て「やっぱり帰ります…」とか一番失礼だと思うし、流石にあの綾小路さんのお家に新人戦の時に見た魔物みたいなのがいるとは思えないし、うん、お邪魔させてもらおう。
とかなんとか考えてる間に凛は玄関に鍵を差して、扉もガチャリと開いていた。
何もかもが早い、生きてるスピード感が全然違う。もうちょっとゆっくりしててもバチは当たらないんじゃないかな?とさえ思う。
「静ちゃーん?外暑いでしょー?早く中入りなってー」
あぁまたこうして考えてる間に凛はもうとっくに靴を脱ぎ、エプロン姿になっているというのに。
いややっぱ凛が変だ、なんだそのスピードは。紅葉より早いぞ。
「あ、はい…!お邪魔します…」
ハッとしたように静も玄関をくぐり、靴を丁寧に揃えてお邪魔させてもらう。
「わーオキャクサンだー」という小さな女の子によるお出迎えを受けるが、リビングへの案内はなかったので取り敢えず凛の声がする方へと足を運んでみる。
足の小指にまあまあな鈍痛が走る。
多分この先がリビングだと思う扉を開けた瞬間、「ブーン!」って声と同時に静の足へと襲いかかってきたのはまさかのオモチャのパトカー。
お願いだからちゃんと取り締まって欲しい、特に運転手を。
「ハヤトー?オモチャ片してって言ったでしょー?おねえちゃん痛い痛いだから、ちゃんとごめんなさいしなー」
バツの悪そうな顔をした幼い顔つきの男の子は「ごめんなさーい」って謝ったのに「大丈夫ですよ」って返してあげた瞬間にまたパトカーを走らせて行った。お願いだから取り締まって欲しい。
「凛ねぇー?洗濯物、アレでいい?」
凛とさほど歳の離れていなさそうで、静よりも背の高い女の子が、絶賛人参ジャガイモ豚肉を鍋に入れ煮込んでいる凛の元へと向かい、リビングにポンと置かれた畳まれた衣服を指差して確認を促す。
すれ違いざまには素っ気なく「こんちは」と挨拶してくれた。
「畳んでくれたのー?ちょー助かるわー。ありがとねー」
きっと聡明な人々はもうとっくに気付いていることだとは思うが、この家に入ってからぜんっぜん喋らせてもらえない、喋る暇も与えてくれない。
今目に入るだけでもかなりの数の子どもがいて、それぞれがそれぞれで全く別の会話をしたり、独自の世界を広げていたりするし、走り回ってもいる。
おかげでもう静の目はぐーるぐる。
「どこでもゆっくりしてていいよー」とは言ってくれたけれど、肝心のゆっくり出来そうな場所はどこなんだろう。
何気なくカレーまでご馳走になって、沢山の子どもたちに構われながらもリビングでメイクのお勉強を始める。
凛の持ってるメイク道具で静に似合いそうなのをピックしてくれるみたいで本当に助かる。
…ただし、あれこれとどんどんどんどん出てくるからどのくらい叩き込まれるかが気になって仕方ない。あとしれーっと膝に乗っかってる子も気になる。
「…綾小路さんって何人兄弟なんですか?」
まだコスメ道具を引っ張り出してる凛に訊いてみる。
いや、数えればすぐなんだけどそれが出来たら苦労はしない。気まぐれに動く子どもの数を数えるのはだいぶ至難の業だから。
「んー?あーし入れて八ー。双子とかもちょいちょいいてさー。もー大変だよー」
大変さ加減はさっきまでの凛の様子を見ていれば分かる。
料理の片手間にまだ小さな子どもが泣き出したら即座に「オムツねー、はいはーい」と手際良くオムツを替え、元気が有り余ってる子には「こらー、あんま暴れてるとお昼ごはん減らしちゃうぞー」と嗜めて、それでもまだ元気が引っ込んでくれず結局すっ転んだりしたら「ショウ?お願いしてもいーい?」と絆創膏と消毒液を手渡して対応してもらう。
ほんとに大変だと思う。
けれど、最もすごいと感じたのは一瞬も「疲れた」なんて顔をしなかったことと、今の今までこれを誰にも悟られなかったことだと思う。素直に感心する。
本人はあんまりすごいとか思ってないんだろうって言うのは今の状況が全てを物語ってる。
「やっぱり静ちゃんにはあーいうのよりカワイイ系のが似合うと思うんだよねー」
引っ張り出してきたコスメ道具の数々がローテーブルにどさりと胡座をかいて静を圧倒する。
そのどれもが鮮やかで、ラメが入ってるのもあれば、そうじゃないもの、明るいピンクだったり、オレンジだったり。
とにかく全体的に「カワイイな」って思えるような物たち。
「これが口紅、こっちはチーク、そんでアイライナーとアイシャドウでしょー。やっぱ静ちゃんまつ毛長いし活かさないとー」とツラツラと知らない単語の総攻撃を受けて「圧倒されてる場合じゃない」って気を取り返して真面目に教えてもらう。
やっぱりメイクって難しい。
「静ちゃんも顔は整ってるんだけどさー、ミッちゃんとはまたベクトルが違うじゃん?ミッちゃんは綺麗って感じでー、静ちゃんはカワイイって感じだからさー。あ、でも神河の好みがどういう系か分からんから色々試してみるのもありかもねー。ちっこい頃からミッちゃんのゲキツヨフェイス浴びて目肥えてるかもしれんしねー」
チラホラと静が見てたようなアダルトな雰囲気を纏っているのが見受けられるのはそういうことかと納得。
「そうなんですよね。ひばり先輩みたいにふんわりしてて可愛らしい感じなのか、それとも相川さんみたいにモデルさんっぽい感じの方が好きなのかとか全然分かんなくっ…て…」
ここで一旦思考がショート。
(いま、なんて…?)
頬杖をついて微笑んでる凛が小悪魔。
だんだんと紅潮してく静の顔は差し詰め林檎かな。
林檎は慌てふためて変に足をぶつけたりしないけれども。
「ちちちッ、ちちが、ちがっ、ちがっいやちが、くはないんですけど、じゃなくて!な、なんで?!どうしてですか?!わ、わた、私、誰にも…」
動揺を顔だけじゃなくて体全体で表現するタイプなんだなーと思われているだろうことはよく理解してる。
でもそんなちっぽけなことよりも遥かに優先したいことの方が脳のキャパシティのおよそ十割を占めているせいで他に何も考えられない。
「そんな慌てるー?んー、でも見たら分かると思うよー?神河に会った時は明らかに表情明るくなるし、アイツがいない間一番心配してたし、この前だって怪我治すの、距離近い切頭よりも神河の方優先したっしょ。あとミッちゃんの弁当作ってた見過ぎだし」
列挙されてみると確かに心当たりがある。けれど最初と最後の二つに関しては「嘘でしょ?!」っていう方がよっぽど大きくて、大き過ぎて中々に噛み砕けない。
中々飲み込めないそれを落ち着く為に水で流し込み、ボソリと呟くのだ。
「秘密にして下さい…」
恋を知ったばかりの乙女が頬を朱に染め、涙袋に薄く水を溜めながら可愛らしく頼み込んで来たとあらばおいそれと無碍には出来ない。
何より、凛はそういうのにめっぽう弱いんだ。
「そりゃするけどさー、どうする?色々対策とか一緒に考えてく?」
かと言って「放っておいてあげる」なんて言うつもりは全然ないようで、がっつりアドバイスはしてやるつもりらしい。
静としても断る道理がないので「考えます…」と思考を放棄したような声で返事をする。
「じゃまずは『綾小路さん』じゃなくて『凛ちゃん』って呼んでよ」
ニッと笑う凛の表情があまりにも印象的だった。




