変態な二人
人生はどう転ぶかわからない。
鏡に映るウエディングドレス姿の自分に、そして何よりそれを着ている自分が痩せていることに、私は何とも不思議な気持ちを抱いていた。
「よく似合っているよ、本当に美しい」
そう言って現れたのはリチャード様だ。そして彼こそ、私にこの服を着せた張本人である。
「褒めて頂けるのは嬉しいですが、本当によろしかったのですが?」
こんな所で尋ねる言葉ではないが、今の今までその時間がなかったのだから仕方がない。
なにせこんな成りをしているが、クリス様の婚約者として屋敷に戻ってからまだ4日しかたっていないのだ。
その上クリス様から正式に指輪を受け取ったのは一昨日で、結婚に必要なマリッジライセンスを取得したのも昨日である。
いくら何でも駆け足すぎる。その上てっきり簡易な結婚式かと思えば、式場もドレスも招待された人の数も、とにかくすさまじいとしか言いようがない有様だった。
「君が私の娘になるのを、ずっと待っていたんだよ。だからもう、一刻も早く君のドレス姿が見たくてね」
だから金に物を言わせたのかと呆れたが、娘にしたいと思われていたことは素直に嬉しい。
リチャード様は私にとって主であり父親のような存在だ。
「まあ、これはやりすぎですけど」
「でも早くしないとお腹も大きくなってしまうしね」
やはりこういう事は、娘さんが一番綺麗なときの方が良いんだよと笑うリチャード様。
「確かに痩せてはいますけど綺麗かどうかは……」
「綺麗だよ、昔も凄く綺麗だったが今の君も凄く素晴らしい」
坊ちゃんが私を褒めるときとよく似た言い回しに思わず笑っていると、リチャード様が私の頭を優しく撫でてくださる。
「だから少し心配だ。本当にあの変態息子で良かったのかと」
リチャード様の言葉に、私は安心してくださいと彼の手を握った。
「変態だけど、私をまっすぐに見てくれるクリス様が好きなんです」
贅肉とか脂肪とか言われてたときは、確かにムッとしていた。でも今思えば、彼のそう言う開けっぴろげなところに、卑屈な私は癒しを感じていたのだろう。そして同時に、私はあの嫌らしくも馬鹿っぽい笑顔にほだされ、そして惹かれていたのだ。
「あいつは幸せ者だな」
「ただやっぱり、変態がすぎるのでそこの所は矯正させたいですが」
「そこは大丈夫だろう。旦那は妻には逆らえない物だしね」
リチャード様はそう言って微笑むと、私の腕を取る。
そのとき唐突に部屋のドアが開いた。
身内で、ノックもない不躾な開け方をするのは彼しかいない。
「坊ちゃん、式が始まるまでここには来ないお約束ですよ」
「安心しろ、目は閉じている」
とフラフラ部屋に入ってきたのは案の定変態である。
「色々と限界なんだ。だからせめて、リナの声とにおいを摂取させてくれ」
「限界って、式まであと15分じゃないですか」
「でも今朝からリナを触ってないし見てもいないんだぞ。もう駄目だ、無理だ、限界だ」
大騒ぎする坊ちゃんはあまりに馬鹿っぽくて、私はもう怒る気にもなれい。
「こんな息子だが、本当に良いのかい?」
呆れる私にそう呟いたのはリチャード様だ。けれど私の答えは、もう決まっている。
「大丈夫です、もう慣れましたから」
喚く坊ちゃんの横に並び、私は彼の右腕を掴んだ。
「もしかして、お尻を触らせてくれるのか?」
「坊ちゃん、さすがにその発言は挙式前にどうかと思います」
「触らせてくれたら、ヴァージンロードの向こうで大人しくしているから」
「普通の男性は触らなくてもそうする物です」
「俺は普通じゃない」
だから触らせろと言う坊ちゃんに、私は仕方なく彼の腕を腰に押しつけた。
「おお、この感触だ。これが欲しかったんだ」
「相変わらずお尻が好きですね」
「前より少なくはなったが、これは貴重なリナの脂肪だからな。揉んでいると凄く落ち着くし、心の底から愛おしく思う」
こういう台詞を、無駄に甘い顔と声で言うからたちが悪い。
だが一番たちが悪いのは、そんな彼を呆れつつも愛しく思う自分だ。
たぶんこんな男にうっかり惚れた私が、一番変態なのだろう。
「坊ちゃん」
「どうした?」
「これからもお尻触らせてあげますから、ちゃんと幸せにしてくださいね」
もちろんだと笑って、坊ちゃんは相変わらずの手つきで私のお尻を愛撫する。
願わくばこの手つきを未来の子供がマネしませんようにと、私は心の中で強く祈った。
理想体重は80キロ【END】
※2/13誤字修正しました(誤字的ありがとうございました)




