第7話:狂気の追跡者
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チェーンソーの耳を劈く咆哮がキャド湖の濃い霧の層を切り裂き、死水の水面の上に残酷に響き渡った。その鋭い音は後方から確実に、そして刻一刻と接近しており、圧倒的なパニックの渦を引き起こしていた。息詰まる恐怖の重圧の下、5人の仲間は必死にカヌーを漕ぎ進めた。しかし、湖面を覆い尽くす8月の濃霧が彼らの視界を極限まで奪っていた。さらに、どれも完全に均一で酷似した形状を持つ巨大なイトスギ(サイプレス)の迷路が、東西南北の感覚を狂わせる。
ウィリアム・カーターが2艇目のカヌーに大声で警告を発しようとした瞬間、巨大な古木の幹の黒い影が突如として彼らの視界を遮った。激しく波立つ水流と極限に達したパニックにより、2艇のカヌーは暗黒の死水の迷宮の中で一本の分岐を互いに誤って進み、一瞬にして散り散りになってしまった。
1艇目のカヌーでは、ウィリアムと吉田千佳が完全に方向を見失っていた。濃い霧は彼らの視界をわずか2メートル以内に閉じ込めていた。押し寄せる木々の不気味な影の中で行く当てもなく漕ぎ続けた後、彼らのカヌーの先端がついに、ひっそりと隔離された一本の陸地の岸辺へと衝突した。チェーンソーの追撃から逃れ、救助を求めるため、ウィリアムはカヌーを繋ぎ止める決断を下した。アメリカ人の青年は、すでに身体を激しく震わせている千佳の手を強く握りしめた。千佳のツンデレな性格は完全に崩壊していた。彼女はウィリアムのジャケットの袖をちぎれんばかりの力で掴み、その両の目は恐怖の涙で溢れていた。二人は鬱蒼と茂る陸地の森の闇の中へと足を踏み入れていった。
隔離された奥地の森の静寂の中で、二人は突如として、かすかに光の漏れる古い二階建ての木造建築を見つけた。家の正面のドアがゆっくりと開き、ランプの薄暗い黄色い光が漏れ出してきた。家の中から姿を現したのは、このサイコパス家族の家長である、大柄で逞しい中年男だった。彼は血の生臭い臭いが漂う、乾燥してこびりついた濃い茶色の染みだらけの古い革のエプロンを身に纏っていた。しかし、男は彼らをわざとらしい親しげな笑みで迎え入れた。それがむしろ、この上なく恐ろしいコントラストを作り出していた。
男はウィリアムと千佳を見つめると、得意の静かな、しかしひどく冷酷に刺すようなテキサス奥地訛り(サザン・ドロール)で話し始めた。
「Well, look what the swamp dragged in. Y'all lost out there in the fog, ain't ya? Come on inside, chill'n. It ain't safe out on the water tonight.」
「おやおや、沼が何を運んできたかと思えば。お前ら、外の霧の中で迷子になっちまったんだな? 中に入りな、子供たち。今夜の水の上は安全じゃねぇからな」と、男はしゃがれた重い声で言った。
千佳はその言葉の意味を理解できなかったが、彼女の女性としての本能が、その大柄な男の笑顔から放たれる非常に濃厚な殺気を正確に捉えていた。彼女はウィリアムの服の裾を引っ張り、恐怖に震えながら囁いた。「ウィリアム……入っちゃダメ。この人……この人、すごく奇妙で不気味よ。ここから早く離れましょう!」
しかし、ウィリアムは自分たちの背後に広がる森の闇と、立ち込める沼の濃霧を見つめた。この見知らぬ異国の地で、自分たちには他に逃げ道がないことを彼は理解していた。外のチェーンソーの脅威から恋人を守るため、ウィラーは意を決して決断を下すしかなかった。
「Thank you, sir. We really appreciate it. My girlfriend is freezing, and we lost our friends out there.」
「ありがとうございます、おじさん。本当に助かります。僕の彼女が凍えていて、外で仲間たちとはぐれてしまったんです」と、ウィリアムは本物の英語で答え、激しく高鳴る鼓動を抑えながら必死に冷静さを保った。
老男はドアを大きく広げ、二人を通すスペースを作った。「Step right in, son. Step right in. We'll take real good care of y'all.」
「中へ入りな、坊主。中へ入りな。お前たちのことは、それはもう『よく面倒を見てやる』からな」
ウィリアムが千佳を連れて薄暗いリビングへと一歩足を踏み入れた瞬間、背後から重々しい金属の金属音が響き渡った。その分厚い木製のドアは即座に固く閉ざされ、外から別の家族の手によって巨大な南京錠で施錠されたのだった。彼らは正式に、怪物の巣窟へと閉じ込められたのだった。
一方、沼の別の区画では、エド、一ノ瀬蓮、そして宮城芽衣の乗った2艇目のカヌーが、まさに生死の境目に立たされていた。サイコパス家族の一人が操縦する小型の沼用モーターボートが、突如として霧の向こうから姿を現し、チェーンソーの金属刃の咆哮を轟かせながら猛スピードで彼らを追跡してきたのだ。
蓮の背中の後ろで芽衣がすでに恐怖のあまり泣き叫んでいるという極限の危機的状況の中、大自然の物理学(モメンタムと流体の運動)を修めるエドは、闇雲にカヌーを漕ぐようなことはしなかった。彼の戦術的な脳細胞が即座に高速で回転し始める。彼は自分たちの周囲の水流の動きと、巨大なイトスギの根本から鋭く突き出している無数の呼吸根の配置を鋭く見定めていた。
エドは脳内で瞬時に計算を弾き出した。敵のモーターボートは自分たちのカヌーよりも遥かに大きな質量と速度を持っている。それはつまり、強力な線形運動量を持っている反面、急激な旋回が不可能であることを意味していた。エドはわざと、密集して隣り合う巨大なイトスギの呼吸根の狭い隙間へとカヌーの進路を向けた。
殺人鬼のモーターボートがすぐ背後まで猛スピードで迫ったその瞬間、エドは巨大な古木の幹の背後に流体力学的に発生する「ベルヌーイの定理」と「背後渦流」の性質を巧みに利用した。
「蓮! 今すぐ左側のオールを固定して動かさんといて!」エドは非常に厳格で安定したトーンの声で叫んだ。
エドはカヌーの後方で鋭い角度の手漕ぎのターンを仕掛けた。樹木の背後に渦巻く水流の流体力学的な反発力を利用することで、彼らの軽量なカヌーは、巨大なイトスギの根元の狭い隙間を一瞬にして90度急旋回することに成功した。あまりにも猛スピードを出していた敵のモーターボートは、その大きすぎる質量の運動量のせいで、ブレーキをかけることも旋回することも不可能だった。その金属製のボートは制御を失い、凄まじい衝撃音と共にイトスギの古木の呼吸根へと正面衝突した。船体は激しく破壊され、モーターのエンジンは暗黒の中に完全に沈黙したのだった。
蓮は座席の上で完全に言葉を失い、呆然としていた。京大の若い哲学の徒は、エドの実戦的な物理学の知見が、いかに大自然の法則を飼い慣らし、冷酷な殺人鬼を出し抜いたのかをその目で克明に目撃したのだ。芽衣は残る涙の中で今にも歓声を上げそうになったが、エドが即座に静かにするようサインを送った。エドはカヌーをひどく静かに漕ぎ、濃い霧に包まれた絶対的なイトスギの闇の影の下へとカヌーを潜めさせ、隠した。
しかし、沼の静寂は長くは続かなかった。陸地の森の遥か彼方から、エド、蓮、そして芽衣の鋭い耳が、静まり返った沼の夜を引き裂く、あまりにも聞き覚えのある声をかすかに捉えた。それは、完全に極限の恐怖に達した千佳の悲鳴だった。そしてその悲鳴は、突如として無残に途切れ、絶対的な沈黙へと変わった。
エドは状況が最悪の事態へと転がったことを察知した。ウィリアムと千佳のカヌーは間違いなく陸地に辿り着き、そして今、サイコパス家族の牙城に囚われてしまったのだ。エドは非常に鋭く戦術的な眼差しを蓮と芽衣に向けた。
「蓮、芽衣……何があっても絶対にこのカヌーの中に留まって、この木陰から出んといて」エドは静かに囁いたが、その声には強力なサバイバルへの決意が満ちていた。「僕は一人で、あの陸地の森へと潜入する。ウィリアムと千佳を必ず連れ戻してくる」
エドがゆっくりとカヌーから這い出し、陸地の暗黒の泥の上に足をつけ、人間の狂気に対抗するために自らの大自然の天才的な知見だけを武器に、一人で鬱蒼とした森の闇の中へと潜入を開始したところで第7話は幕を閉じる。
第7話、最後までお読みいただき本当にありがとうございました!
エドの驚異的な物理学の知見による大逆転劇から一転、物語はウィリアムと千佳が囚われる最悪の展開へと突入しました。電波のない暗黒の森の中、エドの単独潜入ミッションが始まります!
次回の第8話では、エドが化学や植物学の知見を駆使してトラップを仕掛け、サイコパス家族の追跡を切り崩していきます。果たして二人の救出は間に合うのか?
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