9 魅力全振り女が現れた!
新キャラ視点と侍女視点です。
誤字報告ありがとうございます!
そんな字を使うなんて知らなかったです!(大きい声で言うことじゃない)
人生がちょろかった。
生まれた時からちやほやされていた。
産婆に、母親に、父親に、兄に、姉に、親戚に、通りすがりの他人に、
「こんなかわいい子は見た事がない」と言われて育った。
平民の生まれだったので、子供の時から家事や親の手伝いをするのが当たり前の環境だった。だから私も、掃除を手伝おうとしたり、お皿を洗おうとしたりしたが、「メイベルがお手伝いしてくれてる! なにこれ尊すぎる!」「偉いね偉いねありがとう! でももういいよ! メイベルのかわいい手が荒れたら困るから、あとは私がやる!」とほとんど何もしていない。
ドレスの仕立屋である両親を手伝おうと、針仕事を覚えようとしたが、「うわー見て! メイベルが針と糸を持ってる!」「なんてかわいいの! 見てるだけで癒される!」「気持ちはわかるけど、みんなが見とれてたら仕事にならないでしょう!」と、すぐに仕事部屋から追い出された。
どうも私は、「お人形のように部屋の中で座ってる」だけで、家族を幸せにする存在らしかった。
そのうち、町でも「天使のようにかわいい子がいる」と噂になり、私をさらおうとする奴が現れた。
しかし家の中でも外でも、必ず誰かが「なんてかわいいんだ」とぽーっとなって見つめているので、たいていは「何してるんだお前!」と見とがめられ、さらう隙がなかった。
それでも、止めようとする人間を振り切って、無理矢理さらおうとする奴はいたが、「おじちゃん、いたいことしないで」と泣きそうな顔で言うと「お、俺が悪かったあああああ」と改心してくれた。
さすがに「人さらいを改心させるほどのかわいさっておかしくない?」と疑問を抱いた時に、思い出した。
私は転生者だった。
そして、「転生チート」として能力を割り振れる時に、「魅力」に全振りした。
「そうか、だから私の魅力って桁違いだったのか」と納得した。
運とかにも振っておけば、貴族に生まれたのだろう。でも、この魅力さえあれば、平民出身でもなんとでもなりそうな気がした。
「文字、覚えたいな…」と文官ぽい人の前で言えば、「じゃあ字を覚えるための絵札を作ってあげる! 僕で良ければいくらでも教えるよ!」と大喜びで教えに来た。
「マナー、知りたいな」と貴族の奥様ぽい人の前で言えば、「まあ、あなたみたいなかわいらしい子に、教えられるのは幸せだわ! いつでも私の屋敷にいらっしゃい」と誘ってもらえた。
みんな「あなたと関われるだけで至上の喜び」とばかり、なんでもしてくれた。あたしゃ神様か。
でもおかげで、勉学もマナーもそれなりに身に付けることができたので、平民だけど王立学園への入学を許された。こうなったらあとは、最上の嫁入り先を見つけてみせる! 狙うは貴族! 大穴で王族!
そう思って入学したが、目当ての王族は、私と入れ違いに卒業した後だった。
残念だったけど、まだ望みはあった。第三王子は卒業してしまったが、その婚約者が、まだこの学園に在籍していたからである。
(ということは、婚約者の卒業パーティーに第三王子が来るはず! その時に懸ける!)
婚約者の顔を見に行ったら、「キレイだけど、あんまり賢そうじゃない」人だった。
これなら、勝てるんじゃない? とにかく一目だけでも私を見たら、きっとその魅力にメロメロになるはず。これなら、卒業式に瞬殺、できるんじゃない?
そう思ったので、1年間、学園中の人間(男子女子教師問わず)に、すれ違うたびに見とれられ、「かわいい」「美しい」「素敵な女性」と言われ続けたが、特定の男性とは親しくならないように気を付けた。王族狙うんだから、純真でいないとね。
◇◇◇
そしてついに、卒業パーティーの日がやってきた。
いた! アラン第三王子殿下! 婚約者のアーノルド伯爵令嬢をエスコートしてる!
見れば見るほど素敵! 殿下ー! こっち向いて! 私を見て!
あああ平民はこれ以上前に出られないし! ここにファンサうちわがないのが悲しい!
どうにかして注目してもらうには…会場に音楽がかかった。
ダンスタイム! これよこれだわ! 殿下たちがダンスでこっちに近づいた時に…
ガシャン! 持っていたグラスを落とした。
「あああごめんなさい! 殿下が近くにいると思ったら緊張して、私ったら」
「メイベル嬢! ケガはない?」「メイベル! 大丈夫?」「こっち! すぐ片付けて!」
クラスメイトがわらわらと集まってくる。あっやばいやめて、殿下から見えなくなっちゃう!
あっでも、殿下と伯爵令嬢がダンスをやめてこっちに来た! やったチャンス!
私は殿下たちの前に進み出て、平伏して謝った。
「申し訳ありません! グラスを落としてしまいました!」
「いや、そんな、怒りに来たわけではないから、頭を上げていいよ。それよりケガはない?」
うわあ麗しい上に優しい! もう好きー! もうもう絶対、結婚したいー!
私は、これまでで一番評判がよかった笑顔で言った。
「大丈夫です、ありがとうございます」
「君は…」
やった! 殿下がまぶしそうに私を見てる! そうでしょそうでしょ、まぶしいくらいかわいいでしょ! 好きになっていいのよ!
「本当にお綺麗…」アーノルド伯爵令嬢も見とれてつぶやく。そうでしょそうでしょ、あまりの美しさに、恐れをなして身を引いていいのよ?
「そうか、彼女が『千年に一人の美女』と噂の一年生か」
ええそう言われてましたわ。魅力全振りだからね。当然よね。
「あっそういえば、そんな噂を聞いたことが…あったかもです」
プッ! 殿下が吹き出す。
「君は本当に、人の噂に興味がないんだな」
「えっだって、私にとってアラン様は、一億年に一人の美男ですもの。千年に一人なんて、まだまだだなあとしか」
「君は…なんでそんなことを真顔で」殿下が赤くなって額を押さえている。きょとんとする伯爵令嬢。いやちょっと待て。何このラブコメ状態。
「まあとにかく無事ならよかった。では」
微笑んで去っていく二人。 え!? それだけ!?
見とれるほど美人だったでしょ? なんでもっと興味持たないの? 名前も聞かないの?
なんで!? なんでよー!?
◇◇◇
「高嶺の花って実在するんだな」
卒業パーティーの帰り、送りの馬車の中でアラン様がつぶやいた。
「ああ、年に一度の美女、という一年生のことですか?」クラウディア様が答える。
「いや、千年…、まあいいか、うん。あの子は一生結婚できないんじゃないかな」
「えっ!? 男性はみんな、美しい人が好きなのではないのですか?」
「好きだけど限度があるよ。あそこまで綺麗だと、神聖不可侵というか、怖気づいて手を出せないよ」
「よくわかりません」
「うーん、例えばさあ、野に咲くバラをきれいだと思ったら、『手折りたい』とか『持って帰りたい』とか思うでしょ」
「そうですね」
「でもそれが、ダイヤモンドみたいに透明でキラキラしたバラだったら、『手折ったりしたら神の怒りに触れそう』で、怖くて近寄れないと思うんだよ」
「はあ~、なるほど」
「そんな存在だから、誰も彼女に一定以上近づけない気がするんだ」
「それでいくと、一億年に一人の美男に近づいてる私は、恐れ知らずの幸せ者ですねえ」
と、クラウディア様がにこにこして言うと、アラン様は目に見えて赤くなった。
「またそういうことをさらっと! クラウディア、君は本当に…私の…花より宝石よりずっと上の…太陽だな!」
「ま、まあ、アラン様ったら」
こうして、花満開カップルが嬉し気に恥じらいあうのを、侍女マチルダはなまぬるい目で見守るのであった。




