10 【番外編】メイベルがんばる
メイベル視点です。クラウディアは出てきません。
私の妹は子供の時から親や親戚にかわいがられた。
私が放置されてたとか、きつく当たられたというわけではないのだけれど、「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」とか「妹のことを助けてあげなさい」とか、なんだかんだ「甘えられない立場」には立たされた。
そして妹は甘え上手であり、人付き合いもうまかった。男性にもモテモテで、素敵な彼氏がいた。洋服を買いに行けば店員さんに気に入られて安くしてもらったり、お惣菜を買いに行けばおまけをもらったりしていた。
姉である私は、妹と似てるし、美醜はそんなに変わらないと思うのだが、表情なのか態度なのか性格が悪いのか、全然もてないし、服を安くもされないし、おまけももらえなかった。
「まあだからっつって妹のまねしてまでモテようと思わないし、気にせんとこ」と思っていたある日、妹のストーカーに刺し殺された。「おまえのせいで妹ちゃんと結ばれない」とか言われたけど、なにそれ知らんし。妹が「家族に反対された」とでも言ったのかもしれん。理不尽。
そういうわけで死んだのだが、「可哀想だから転生させてあげる」と天の声に言われて転生した。
転生チートとして能力値を選ばせてくれるというので、「魅力」に全振りした。
(外見も、頭の程度もスタイルも、たいして変わらない妹と、あれだけ差がついたのは、きっと魅力のせい。魅力の力で、今度こそ、みんなにかわいがられる人生を送るんだ!)
そういうわけで、私は大変にちやほやされる少女時代を過ごした。
この勢いで第三王子に見初めてもらうつもりでいたが、なぜか相手にされなかった。
「殿下はきっと、バグだったのよ。普通に高位貴族なら落とせるはず」と思って公爵令息や侯爵令息に近づいた。しかしみんな、「メイベル嬢! あなたは本当にきれいな人だ」と赤くなってはくれるのだが、誰も個人的なお誘いはしてくれなかった。
『どんなに魅力があっても、さすがに平民には無理があったのか?』と思って下位貴族や将来性のありそうな平民にも近づいたが、「めっそうもない! あなたのように魅力的な女性は私などではとてもとても!」と気後れするらしく、やっぱりおつきあいまで行かない。
(どういうことなの!? みんな、私のことを神のように崇め立ててくれるのに、交際は求めてこない。私って魅力的よね? なんで求婚者が殺到しないの?)
夏季休暇、私は寮を出て実家に帰った。私の実家は、小さな仕立屋だったのだが、今では支店が5店舗もある立派な洋品店である。
「メイベル! お帰りなさい!」姉さんが出迎えてくれた。
「さっそくだけど、これ着てくれる? 新しく売り出したいドレスなの」
「うんわかった」
いつものことなので面倒だけど着替える。
「あああやっぱりかわいい。メイベルが着ると普通のドレスが最高級品に見えるから不思議だわ」
私にはわからないのだが、私が店のドレスを着て歩いただけで、飛ぶように売れるらしい。
子供の時からそうなので、「あの天使のような美少女の店」として有名になって、ここまで成長した。
靴や化粧品やアクセサリーも、店から持ち込まれて「これをつけて1日歩いてくれれば宣伝料をさしあげます」と言われ、何も買わないですむどころかお金をもらえるので、貯金は増える一方だ。
今も私が店先にいるだけで、ひとだかりができ始めている。私が着ているドレスが、ほんの20分ほどで予約注文の限界になったので締め切った。
「お疲れ様! メイベルのおかげでまた注文殺到だわ! 忙しくなるわ~!」
はりきって腕をまくる姉に「ねえ、私って魅力的よね?」と問いかける。
姉は笑いながら「もー! 自分でわかってるでしょうに! 今どれだけの人間が店先でうっとりしてたと思うの!」と答えた。
「じゃあなんで求婚者が殺到しないの?」
「え…」
「私が着たドレスにはこんなに殺到するのに! 私にはなんで男性が殺到してくれないの!?」
ちょっと泣きそうになりながら姉に吐き出した。
「そうなの? 求婚されてないの?」
私がコクンと頷くと、
「そうなの…たしかに、うちにも婚約の打診が来ないから不思議に思っていたけど…」と言う。
直接求婚する人はいないけど、家には来てるかも、と思っていたのでショック。
「たぶんね、メイベルは、神の御使いみたいに思われてるのよ」
「え?」
「たとえば動物。そうね、猫がいいかしら。ふわふわでかわいいから触りたくなるでしょ?」
「うん」
「でも、金色に発光してる猫がいたらどう思う?」
「光に反射してるんじゃなくて、発光してるの?」
「そう。ピカーって」
金色の毛並み、金の光でピカピカ光る猫。そんなのがいたら…
「怖い」
「うん、怖いよね。でもそれがメイベル、あなたなのよ」
「ええ~~」
「きれいすぎて怖いの。恐れ多いのよ。だから男性も気後れして求婚できないんだと思うわ」
「なにそれえ~~、きれいな奥さんもらうのって、男の夢なんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、結婚するってことは、あんなことやそんなことをするってことだから…女神様みたいに思ってる女性にはとてもできない!って思うんじゃないかなあ」
「あんなことやそんなこと…」そうか! あんなことやそんなことか!
「とにかく、メイベルは尊すぎるの。信奉者はいくらでも現れるけど、求婚者は現れないと思ったほうがいいかも…」
がびーん。
魅力さえあれば、結婚相手なんて選び放題だと思ったのに!
極めすぎちゃだめだったのかーー!
今更ながら、魅力に全振りしたことを後悔した。
でも今更、取り返しはつかないし…
……いや待って。
大丈夫なんじゃない?
つまり、私は魅力的すぎるのが悪いのよ。だったら、魅力を減らせばいい。どんなにきれいな人でも、メイクが下手だったり不潔だったり性格が悪かったり無作法だったりしたら、魅力は失われるものだもの!
そうやって魅力を失わせれば、普通にモテる女性になれるんじゃない?
私は寮に戻って、「幻滅されるためのリスト」を考えて書きあげた。
そして学園で実践した。
まずは頭! 寝起きのまま、ブラシも入れず、ばっさばさのぐっしゃぐしゃだ。
さらに顔は! 転生前にテレビで紹介されていた「ヤマンバギャル」! 異国のガングロファンデに白い絵の具で目元と唇をぬったくり、つけまはなかったのでまぶたに直接バサバサのまつ毛を書いた。日本でも浮いていたのに、異世界でこのメイクは、どう見てもバケモノだ。これで登校してみた。
登校中からものすごい注目。立ち止まる人も続出。みんなが驚愕の表情をしていた。
これでイメージダウンできたでしょう!…と思ったが、立ち止まった人が感極まったように叫び始めた。
「メイベル嬢…なんて斬新なメイクなんだ!」
「常にまぶしい顔立ちなのに、そんな目立つメイクをするから、直視してしまった! 目がつぶれる」
「刺激が強すぎて死ぬ! この学園の男子を殺す気かメイベル嬢は!」
「元の顔立ちがわからないくらい塗りたくってるのに、なんでこんなに魅かれてしまうの!」
逆に好評だったようだ。異世界人の感覚はわからん。失敗した。
気を取り直して、次は行儀作法だ。私は教室の椅子に座って、片足だけあぐらをかいた。
めっちゃはしたない。自分でやっといてなんだけど、恥ずかしい!
でもこんなの見たら、さすがに…
「おい見ろよ」
「まあメイベルったら…」
「あんな、まるで荒くれもののようなポーズを…!」
「ワイルドで素敵…!」
は?
「新しい魅力を発見できた!」
「メイベル嬢、究極の美女だと思っていたけど、まだ引き出しを持っていたなんて…!」
えっちょっとまってどこが素敵? 引き出しってなに!? 幻滅するとこでしょう!?
パンツ見えそうになってたのか、「だめ! メイベル! 美しすぎて目の毒よ!」と言って、隣の女生徒が股間にハンカチをかぶせてきた。
「ハンカチがまた似合う…」とため息をつく男子生徒。えええ?
「そのハンカチの刺繍がまた、メイベルの美しさを引き立てている…」
パンツ隠しのハンカチが似合うってどんな女よ!? この人たちみんなおかしい!
てか魅力全振りって、どんだけ強力なの?
やけくそになった私は羞恥心を捨て、鼻くそをほじってみせた。
「おお」
「なんて気取らない姿!」
「私たちに気を許してくれてる証拠!」
立ち上がっておしりを突き出し、「おならぷー」と言ってみた。
「なんと愉快な!」
「美しい上に気さく!」
「その無邪気さが尊い!」
なんなのこれ…こうなったら、性格の悪さで幻滅させるしかないか…。
私は、クラスメイトのイリアを指さし、心の中で(あああごめんねごめんね今から私はひどいことを言うわごめんね)と詫びながら「ちょっとそこのブス!」と呼んだ。
イリアは「え!? 私のこと? ブスって、もしかして、愛称で呼んでくれたの!?」と嬉しそうな顔になった。
いやなんでイリアの愛称がブスになるんだよ! なんでブスって呼ばれて嬉しげなんだよ!
「イリアいいなあ」
「俺もブサイクって呼ばれてえ~~~!」いやなんでだよ!
「あなたのその髪飾り、手作りだって言ってたわよね」
「ええそうなの。お母様が作り方を教えてくれて、1か月かけて自分で作ったの。メイベルが覚えててくれるなんて嬉しいわ」
「それちょうだい。私が気に入ったから」
「えっ、これを…?」
クラスメイトたちがざわつく。
「あの髪飾りをちょうだいって言ったわ」
「メイベル嬢が欲しがるなんて…」
ふふふそうよね、鬼の所業よね。1か月もかけて作った作品を欲しがるなんて。胸がキリキリ痛むけど、これも幻滅させるため!
「わかったわ!」
え!
「メイベルがつけてくれるなら、この髪飾りも光栄だと思うわ! 待ってね、今外すから」
ごそごそと髪飾りを外すイリア。
「いいなあイリア」
「私も何かメイベルに欲しいって言われたい」
「メイベルの役に立てるなんて至上の喜びだもんなあ」
いやなにその恐ろしい献身精神! 私はあわててイリアを止めた。
「やめてやめて今の嘘! あなたに一番似合ってるもの! そのまま持っていて!」
「ええ~、もらって欲しかったな…」
その感覚おかしいから! 人の大事なものを欲しがったのよ? 素直に軽蔑してよ!
こんなに嫌な奴になってるのに、なんでみんな嫌がらないの!?
「今日はメイベルの新しい一面がたくさん見れたね」
「ほんと! 得しちゃった!」
「他のクラスの奴に自慢したろ」
「みんなうらやましがるだろうね!」
「いいもの見させてもらいました」という雰囲気の教室で、メイベルは一人
「そうじゃないだろ…」とつぶやいた。
とりあえず作戦を練りなおそう、と家に帰ったメイベルだが、その翌日、驚愕することになる。
女子がヤマンバメイクをしてきているのだ。
「これでいいのかな? まつげ書くのって楽しいねえ」
「なんかみんな同じような顔になってて、おもしろいねえ」
キャッキャと楽しそうにしているが、見た目は異常だ。
それだけではない。あいさつがわりに「おならぷー」とおしりを向けたり、友達を「おはようブス!」「やあブサイク!」と呼び合ってたりする。「メイベル、これもらってくれない? 私が一番大事にしてる宝物!」と貢ぎに来ようとする。
(待って待って! これ私のせい? 私の影響力ってこんなにあるの!? 私のせいで学園崩壊!?)
メイベルは必死になって「きのうの私はどうかしてたの! いつものあなたたちのほうが素敵よ!」と訴えた。変なことをするのは危険だ。メイベルがやると魅力的に見えて、流行ってしまう。
正常な学園に戻すため、メイベルは自分の身だしなみと行いを正すしかなかった。
(でもまだあきらめないわ! なにか、なにか魅力を半減させる方法があるはずよ!)
メイベルの闘いは続く。




