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7/8

7 かわいい泥棒猫

※ここから短編版にはない新作になります。

前半は王妃視点、後半はアラン視点です。

「なんで来ないの」

植物園の中にあるテラス。横に控えている侍女に聞いた。


「わたくしどもには、さっぱり…」

困りきった顔で侍女が答える。


「今日は二人で植物園に来るはずよね? その情報は確かなのよね?」

目立たないように奥に控えていた、側近の女性官僚に聞いた。


「はい、しかし、今入った情報によりますと、どうもお二人は、急遽、行先を湖に変えたようです」


「なんで!?」


◇◇◇


「また空振りだったんだって?」

王宮内の執務室。予算の確認をしていたら、息子である第一王子のレオンが、からかうように声をかけてきた。


「何よ面白がって。こっちはちっとも面白くないわ。これで三回目よ! 信じられない!」

私はプンプンしながら言った。


「もう、こっそり会いに行くのはあきらめればいいのに。事前に前触れを送った時は会えたんでしょう?」


「会えたけど…なんか、かしこまってたんだもの…」


レオンは吹き出した。

「そりゃ王妃様に会うんだから、かしこまるのは当たり前じゃないですか」


「そうかもしれないけど…私は普段のクラウディアちゃんが見たいのよ~!」

私はテーブルを両手でぱんと叩き、天を振り仰いで叫んだ。


「だってあのアランよ? あの、何に対しても冷静で、たんたんと王子教育をこなし、つまんなそーに生きてたアランが、急にキラキラして『結婚したくなった』って言いだしたのよ? どんな女性か気になるのは当たり前じゃない!」


「たしかに。あの容姿だから、昔から女性に囲まれていたけど、そのせいで早々に女性の嫌な部分を見せられて、女性嫌いになってた節がありましたもんね」


「そうよそうなのよ! でもそのクールなとこがまたかっこよくて! なんとか王太子にできないものかと、ずっと画策していたのに!」


「長男の私に向かってよくそういうことを言えますね。母上は、昔からアラン推しでしたものね」レオンが笑いながら言う。


「ごめんね、レオンもカインも優秀だし、国王にふさわしい資質を備えていると思ってる! でも、でも…!」


「顔が好みなんですよね」

「そうなの!」

ブハッ。即答したら、レオンがまた吹き出した。


「レオンもカインも素敵よ。でも私似なんだもの。夫の若い頃の生き写しみたいな、アランの顔が好きなのはしょうがないと思うの」


「まあ気持ちはわかりますが、嫁イビリみたいなことはしないでくださいよ」

苦笑いしながら、レオンは執務室を出て行った。


嫁イビリなんてするわけないじゃない。腐っても王妃だし! そんな狭量な女じゃないし!


ただ、アランを王太子にできなかったとしても、いつでも会えるように、王宮にはいてほしかった。どうにかして役職でもつけて、手元に置きたいと思ってたのに、伯爵家の婿に入るっていうのよ! そんな泥棒猫みたいな真似されたら、やっぱりこう、文句のひとつも言いたいというか。嫌味のひとつも言いたいというか。どれほどのもんか見定めてやりたいというか。


そうよ、母親として、息子を幸せにできる女かどうか、確認したいだけなのよ。

そのためには、外面じゃなくて内面を探る必要があるのよ!

だから次こそ、息子の婚約者をこっそり観察して、彼女の性根を暴いてみせる!


◇◇◇


「アラン様、あれおいしそうです」


今日はクラウディアと市中へ食べ歩きに来ている。あちこちの屋台を見て目を輝かせるクラウディアを微笑ましく思いながら、私は訝しさを感じていた。

私たちの後方、数十メートル先に、王妃御一行がいたからである。


私の母親である王妃が、なんとかしてクラウディアとのデート現場を覗きに来ようとしていたのはわかっていた。どれだけデートの日時や場所を隠そうとしても、一国の王子が出歩くためには護衛が必要なので、必ずどこからかバレてしまう。だからデート現場を知られることは不思議ではない。


でも、王妃に見つかることは、今までに一度もなかった。


というのも、王妃が待ち伏せしてる時は、必ずクラウディアが「気が変わったから予定変更」を望むからだ。「新しくできたという宝石の店がどうしても気になる」「急に湖のボートに乗りたくなった」などの理由で行先を変えた結果、神業のように王妃の襲来を避けていたのだ。


(なんで今日は避けなかったんだろう? 何かあるのか?)


(あっ、もしかして、「抜き打ち査定の危険度」より、「抜き打ちを避けすぎて王妃に疑惑を持たれる危険度」が勝ったってことなのか?)


と考えながら歩いていると、クラウディアが、急にまじめな顔になって「アラン様、あの黒いシャツの男を追ってくださいませ」と言った。


「え?」クラウディアが見ている方向に目を向けると、たしかに黒いシャツの男がいた。いかにも怪しい風体だ。裏通りに入っていく。


「気づかれないように、家が知りたいのです」


どういうことだ? しかしクラウディアがこう言っているのだ。追わないわけにはいかない。

しかし王妃御一行までぞろぞろついてこられたら目立つので、護衛に耳打ちして王妃に伝言を頼む。


建物の陰に隠れながら追うと、男はあたりを見回してから、一軒のボロ屋に入った。


「家に入ったぞ」と言うと、クラウディアは


「その家には、ちいさな子がいるはずなんです。様子を見てきてもらえませんか」

というのである。


「なんだって?」

驚いたが、クラウディアの顔は真剣だ。急いで王妃の護衛にも加勢を頼む。


クラウディアは「え? 護衛さんってこんなにいたんですか?」と目を丸くして「えっそんな大勢で?」とうろたえていたが、説明は後だ。

護衛と従者で家の周りを取り囲んで突入した。


はたして家の中には、手足を縛られ頭から布袋をかぶせられた、7~10歳ぐらいの子供が4人いた。

売り飛ばすために集められていたのだろう。この国では奴隷制度は厳しく取り締まられているというのに。家の中には黒シャツの男を含め、全部で3人の男がいたので、全て拘束した。


家の中の危険は去ったと見て、クラウディアを呼んだ。


「クラウディア、君のおかげで子供たちは助かったよ!」と言うと「子供たち?」と不思議そうな顔になって、救出された子供たちを見て「えっ!?」と驚いていた。なぜ驚く。


そして部屋の中をきょろきょろと見回し、「猫ちゃんいた!」と言って、家の隅に走って行った。

クラウディアが抱えていたのは小さな子猫だった。えっ、もしかして…。


「『ちいさい子』って、その猫のことだったの?」


「はい。その人の黒いシャツに、子猫の毛がいっぱいついてたから、虐待でもされてるんじゃないかって心配になっちゃって」


「それで、見てきてほしいって…」


「そうなんです。まさかこんなひどいことしてたなんて…」クラウディアが眉をひそめた。


まじか。ここにさらわれた子供がいたのは、偶然だったってことなのか。

まあ、きっかけはどうあれ、子供たちも猫も助かったのは事実だし、結果オーライってやつだよな。


乗り込んだ護衛達と一緒に家の外に出ると、王妃御一行が待っていた。


「クラウディア嬢、お手柄でしたわね」


腕の中の猫を見ていたクラウディアは、王妃の声を聞いて、顔を上げた。そして一瞬で固まった。


「クラウディア」と声をかけると、ハッとしてあわてて礼を執ろうとした。でも猫を抱えているのでできなくて、ぺたんと座り込んだ。


「すっすみません! あのその、猫がその!」とおろおろする彼女に、母は「まあかわいい!」と近寄った。そして「いきなり来てごめんなさいね。あなたも猫が好きなのね? わたくしもよ」と微笑んだ。


かちーん。クラウディアがまた固まってる。この子は本当に面白いなあ。

でも母の、彼女を見る目が、ことのほか優しいのがわかった。

どうやら合格をもらえたようだ。


そして私は理解した。

今日に限って、なぜ母の襲撃を避けなかったのか。


たぶん母は、抜き打ちで彼女の品定めをするまで、何度失敗してもあきらめないだろう。

それを避け続けたら不審に思われてしまう。だからその前に、クラウディアは母に会う必要があった。

そして、会うとしたら、今日はまさに絶好の機会だったのだ。


なぜなら、私の母は、子供の奴隷制度を何よりも忌み嫌っていて、さらに子猫が大好きだから!


その母の目の前で、子供を救出した上に、子猫まで見せたら、そりゃもう陥落するに決まっている。


(おそらく、今まで避けてたのも、今日だけ避けなかったのも、無意識なんだよな…。強運のひとことで片付けていいものなのかな…)


すごすぎる…とつぶやきそうになったが、「そうだ、こういう時は!」と思い直し、マチルダに教わった通り、「さすクラ」と心の中で拍手を送った。

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さすクラがすぎる! そして連載うれしいです、楽しみ~!
連載助かります。 楽しみが増えました!
さすクラが連載になってる!嬉しい!
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