19 立太子の儀(だけど王太子の出番なし)
アラン視点です。
「兄上の婚約が決まったよ」
「まあ! カイン殿下の? それは良かったです!」
アーノルド伯爵家の食堂。クラウディアと昼食の後のお茶をいただきながら報告すると、本当に嬉しそうに顔がほころぶクラウディア。はあかわいい。
「お相手はどんなかたなんですか?」
「それがね、護衛騎士をしていた女性なんだ」
「あら!」
私はクラウディアに説明した。
名前はファリス・ランドルフ。
もともと優秀な騎士を輩出している伯爵家の令嬢で、兄たちに憧れて女性騎士になったこと。
年齢がひとつ上だが、逆に頼もしくもあって利点になっていること。
身分的にも問題がないし、なにより兄が一目惚れに近い状態であること。
「その、一目惚れの理由がね…大学いもだったらしいよ」
「大学いも……」
隣国の王女が我が国にお忍びで訪問した際に、
「今我が国で流行っているデザートなんですよ」
と大学いもをお出ししたらしい。
その後、プーという音とともに、王女の様子がおかしくなったのだが、その時に
「申し訳ありません! 王女様の御前であるにも関わらず! 粗相をいたしてしまいました!」
と名乗りをあげたのが、護衛として後ろに控えていたファリス嬢だったのだそうだ。
兄上はこのあいだの茶会で「淑女がどれほどガス抜きを恥ずかしがるか」を知っている。
それなのに何の躊躇もなく「自分がやった」と宣言する姿に、見惚れたのだそうだ。
「まあ…私が王女様の立場でも、惚れてしまいそうですね、それは」
「うん。私も会わせてもらったけど、さっぱりして感じのいい女性だったよ」
「私もぜひ仲良くしていただきたいです…!」
胸の前で両手をあわせて目を輝かせるクラウディア。うん、きっと仲良くなれそうだ。
「それでね、婚約の報告をいつにするか考えて、延び延びになっていた立太子の儀をすることになったんだ」
「まあ、いよいよですね」
もともと、長子であるレオンが王太子になることは暗黙の了解であったのだが、アランを手元に置きたい王妃が「王子三人のお相手が決まってから判断したい」と言い出して、今まで確定させていなかった。しかしこれで三人とも婚約(長子はすでに婚姻済み)となったので、順当にレオンの立太子を告知することになったのだ。
「それで、その式典なんだけど、いつがいいと思う?」
「えー、そんな、いつになろうと、王家のかたがたの決めた日時に従いますわ」
と笑うが、私としてはクラウディアに決めてほしいので、さらに聞いた。
「とりあえずみんなの希望を聞いてみたいから。君の希望は?」
「うーん、希望を言っていいなら、やっぱり春がいいですよね。4月の…15日くらいかしら」
私と侍女マチルダに緊張が走る。いきなりピンポイントな日時!
これは! この日に何かあるってことか!?
「あっ、その頃、みゆちゃんは卒業してる!」
ハッとしたようにそう言って、
「う~~~ん、みゆちゃん、アイゼンベルク辺境伯のおうちに行ってしまってますよね。せっかくのイベントだからみゆちゃんにも会いたいし…。辺境伯領地のそばで身内だけの式をして、大々的なお披露目会は、その後王都でってわけにはいきませんかね?」
私の様子を窺うように、もじもじしながら聞いてきた。
辺境伯領地のそばで! 身内だけで式典を!?
そして、みゆちゃんこと『魅力全振りカリスマ女性(現世での名前はメイベル)』が必要な事態!?
もうこれは! 隣国が戦争をしかけてくるとしか思えない!
私は急いで各国の内偵に動向を調べさせ、戦争をしかけてきそうな国にあたりをつけた。
そして、事前に打てる手は打っておいた。
並びに、辺境伯領地の近くの神殿でやる予定の式典のことは内密にして、王都でのお披露目会についてだけ、使者を出して告知した。
◇◇◇
4月15日、攻め入ってきた隣国の兵たちは、こちらの兵力のすさまじさに恐れをなして、早々に白旗をあげた。
1か月後に王都で行われるお披露目会に向けて、手薄になっていると思っていたのだろうが、こちらには式典に参加するための王族や重鎮が集まっているため、指令はすぐに出せるし、護衛騎士だけでも相当な数だ。さらに今日に向けて兵の数を3倍に増やして待機していたので、楽に返り討ちにすることができた。
加えて、捕らえられた敵将や兵に対して、メイベルが姿を現し
「戦争はだめです。争うのはやめて」
と一言言っただけで、涙を流して
「すみませんでした! 女神のお心のままに!」
とひれ伏した。ちょろすぎて怖い。
1日延期して翌日に行われた立太子の儀はつつがなく進み、隣国とは平和協定を交わした。
私とクラウディアは、式典前後の期間、辺境伯次期当主であるギルバートにお世話になることにしたので、彼の屋敷でくつろいでいる。
そして、この平和の立役者二人はというと、いつものように言い争っていた。
「コンビニデザートならロールケーキ!」
「どらもっち!」
またまったく意味不明なことを話しているので、参加できなくて、ギルバートと顔を見合わせて苦笑した。
でも、今日の所は、心ゆくまで会話を楽しんでもらおうと思った。
誤字報告ありがとうございます! ぺこり。




