20 女子会のあとで
クラウディア視点です
「日光写真のしくみって、知ってる?」
アイゼンベルク次期辺境伯の奥様である、みゆちゃんが聞いて来た。
今私は、辺境伯のおうちに滞在しているので、夕食後に彼女の部屋で女子会を満喫中である。
「日光写真……なんか小学校の時に実験でやったような……」
「うんうん、やりかた覚えてない?」
「うーん、キットみたいなのもらって、日に当てたってことしか覚えてないなあ」
「やっぱそうかあ」
みゆちゃんががっくりと首を垂れてため息をついた。
「なにかあったの?」
「あのね、この家って、歴代の辺境伯当主とその夫人の肖像画が飾ってあるのね」
「うんうん、立派なのがあったねえ」
「それで私も描いてもらうことになったんだけど」
「素敵じゃない」
「絵師がみんな、描けないっていうのよ……」
「描けない?」
「私の魅力を、絵にすることができないんだって」
あっ、なるほど。絵師ってのは『本物より魅力的に描く』ことが仕事だもんね。
魅力MAXをさらに魅力的に絵にするのは、確かに無理かも。
「私としては、なんとなく似てればそれでいいんだけどね。芸術家はそうはいかないみたいで、『こんなものを世に出せない!』って言って破っちゃうの。だからいっこうに肖像画が出来上がらない」
「それで、日光写真…」
「うん、もう描いてもらうのはあきらめて、写真にできないかなあと思って」
「なるほどねえ」
みゆちゃんはベッドの上に体育座りになって天井を見上げた。
「もうねえ、私の肖像画の顔のとこ、まるまる穴開けてもらっちゃおうかなと思ってる」
「穴?」
「うん。観光地とかの顔ハメ看板みたいにすんの」
と言いながら、自分の顔のまわりを人差し指でくるりと一周させる。
「なんでそんな」
私がびっくりしてると、
「だってそしたら、穴から光が差し込んで顔がピカーってなりそうじゃない。『絵にも描けない美しさ』ってことよ」
と言って笑った。
「やだもう、やけくそにならないで」
と私も笑ったが、ふと思いついた。
「ちょっと待って、それいいかも」
「ええ~? 顔ハメ看板作っちゃう?」
「いやそうじゃなくて…」
◇◇◇
翌日、私はガラス工芸の工房に連れて行ってもらった。
みゆちゃんはもちろん、ギルバート様、アラン様も一緒だ。
「なるほど、ステンドグラスで肖像画作ってもらうのかあ!」
「うん、こっちは職人さんの工芸だから、絵より技術にこだわりそうでしょ? だったらいけるんじゃない?」
「光が差し込んだら、ほんとに女神みたいになっちゃいそうだけど!」
「いいじゃないか、ベルっちにぴったりだ」
ギルバート様が賛成してくれた……けど……。ベルっち……?
「ほんとー? ギルっちがそういうなら、作ってもらおうかなー」
「ギルっち……」
アラン様もあんぐりしている。
私たちがあんぐりしてる間に、ギルバート様は工房に早速、ステンドグラスを注文していた。
作成の打ち合わせをしている間、私たちは工房の中のステンドグラスの見本を見て回った。
そして、私はみゆちゃんにこそっと尋ねた。
「あの……みゆちゃん、ベルっちって呼ばれてるの?」
「うん! ベルっちギルっちって呼び合う仲だよ! りんさんとこは? なんて呼び合ってるの?」
私とアラン様は顔を見合わせた。
「わ……私たちは名前のままだけど……」
「えー! なにそれ! せっかくつきあってるのにもったいない!」
「実は…呼び名については、常々考えていた」
アラン様が神妙な顔になってぼそりと言った。
「ええ? そうなんですか?」
初耳だったので驚いた。
「うん…クラウディアって言うの長いし…、私だけが呼ぶ呼び方があるといいなと思ってた…」
「まあ!」
アラン様だけの呼び方! 特別感があってドキドキするー!
「それで……普通は『ディア』とかかなーと思ったんだけど……」
「ディアですか! いいですね!」
「でもそれだと『さすディア』になっちゃうから…」
「さすディア???」
何の話でしょうか。
「『リンコ』と呼ぶことも考えたんだが…」
私の前世の名前! アラン様に呼ばれたらドキドキしちゃう!
「さすリンになっちゃうから……」
「さすリン???」
「殿下! ちょっと大事なお話が!」
侍女のマチルダがアラン様を工房の外に引っ張っていく。
そしてしばらく二人で何事かを話し合って、やがて戻ってきた。
「クラりん!」
クラりん……。
「私は君をクラりんと呼びたい! マチルダのアイデアなんだ! いいよねクラりん!」
アラン様がふっきれたような笑顔で言うので、
「もちろんいいです!」
と答えたけれども、
「ということは……私は、アラりん……とお呼びするのでしょうか……」
とおずおずと尋ねる。
「いや、りんはりんこのりんだから……私のことはアルと呼んでもらえないだろうか」
ちょっとほっとしながら、
「アル様」
と呼んでみると、
「様はなしで」
などと無茶なことをいうので、
「そ、そんな、アラン様を呼び捨てなんて」
と抵抗したり
「呼んでくれなきゃぐれるぞー」
なんて脅されたりして、結局
「アル」
「クラりん」
と呼び合って、二人して嬉しげに見つめあった。
そんな二人を見ながら、メイベルがぼそりとつぶやく。
「ちえー、呼び方が思いつかないなら、『アラぴっぴ』と『クラぴっぴ』を推したのになあ」
今回、「ぴっぴ呼び」という恐ろしい危機を回避したのは、マチルダであった。




