16 秋深し栗よりうまい十三里半
メイベル視点、最後アラン視点です。
ドーナツ店での運命の出会いから数週間後、私はアイゼンベルク辺境伯領にご挨拶に行った。
平民の出だから嫌がられるのでは、という懸念など、ふっとぶくらい歓迎された。
なにしろ、領地内の広場で「メイベル様歓迎祭り」が開催されていたのである。
たくさんの屋台も出て、子供たちも大喜びではしゃぎ回っていた。
馬車を降り、ギルバート様にエスコートされて広場に行くと、わあっと人が集まってきて、お祝いの言葉を……、
「若様! おめでとうご……」
「ご領主さ……」
「おめ……」
言う途中で、固まっていた。
そして、ハッとして我に返った民衆たちから、次々とお褒めの言葉をいただいた。
「あ、あまりに美しくてフリーズしてしまいました!」
「目がくらむかと思いました!」
「こんな女神様のようなかたが、未来の若奥様に?」
さすが魅力全振り。一瞬で民衆の心をつかんだらしい。
「メイベルと申します。よろしくお願いしますね」
と微笑むと、集まってた人たちがばたばたとくずおれた。泣き出した人までいる。
年寄りは「ありがたや……ありがたや……」と手をあわせている。あたしゃ神様かアゲイン。
どう収拾をつければいいのかわからず困っていたら、ギルバート様が
「歓迎をありがとう。残念だが時間が無いので私たちは家に戻るが、祭りを楽しんでくれ」
と声をかけ、私たちは辺境伯邸に戻った。
「まあ帰ってきたのねメイベルちゃん、お疲れ様、お茶はいかが? すぐ用意させるわね」
「なにか困ったことはなかったか? この地での父親代わりと思ってなんでも甘えてくれ!」
「ありがとうございます」
辺境伯夫妻のお言葉にお礼を言うと、
「お礼を言いたいのはこっちよ! メイベルちゃんのおかげで、どれだけ救われたか!」
「そうとも! 嫁に来てもらえるだけで嬉しいのに、こんなに見目麗しいご令嬢が来てくれるなんて夢のようだ! というのも、うちは代々……」
また説明が始まってしまった。
アイゼンベルク家が、結界の力を継承するために子孫を残すのは国務なのだと、ギルバート様から聞いていた。
しかし昨晩、この屋敷に到着してお目通りをいただいた時、このご夫妻にせつせつと訴えられたのだ。その能力の遺伝のせいなのか、子供ができにくいのだと。たいていは一人、多くても二人しか生まれず、ご夫妻も「ものすごく頑張った」ようなのだが、お子はギルバート様だけだったのだと。このままギルバート様が婚姻できなければ、あの努力の日々が再び? と思って震えていたと。
そういう生々しい話を聞くと、あの初対面での「俺の子供を産んでくれるのは君しかいない」というセリフも、なるほどと思う。普通の女子だったらドン引くよねえ? まあ、私も「私と子作りできる男はいないのかも」と絶望しかけてたんで、その言葉に飛びついちゃったわけだけど。あああ、思い出すと恥ずかしいわ。
「もういいだろう! その話はきのうもした!」
ギルバート様が割って入り、話を止めてくれた。ほっ。そして私に向き直り、
「もっと君と一緒にいたいのだが、急な仕事が入って出かけなくてはならないのだ。すまないが、留守の間、両親や侍女に何でもいいつけてくれ」
そう言って、あわただしく出て行った。
「部屋着にお着換えなされますか? お湯の用意もできております」
という声掛けに、ありがたく湯あみをさせてもらうことにした。
「ご用事がありましたらなんでもお声をおかけください!」
使用人のかたがたも、目をキラキラさせて命令待ちをしてくれる。嬉しいな~。
「ギルバート様の時間に余裕がある時を考えて、この時期におじゃましたつもりだったけれど、忙しい時期だったの? だったら悪いことしたわ」
着替えを手伝ってもらいながら侍女に聞くと、侍女は
「いいえ、いつもならこの時期は暇なのです。でも今年は王家から、干ばつに備えるようお触れが出たもので……。工事や整備、食料の備蓄などに大わらわなのです」
と答えた。
王家からお触れが……。なんだろう、この世界、予言師でもいるのかな?
◇◇◇
それから10か月ほどして、卒業を半年後に控えた秋、アーノルド伯爵邸におじゃました時のこと。
「いらっしゃいメイベルさん」
「メイベル嬢、よく来てくれたね」
伯爵令嬢であるクラウディア様と、婚約者であり、伯爵領の領主代行を務めていらっしゃるアラン様が出迎えてくれた。
ギルバート様とアラン様は学園の同級だったそうで、私にもとてもよくしてくださる。陛下から叙爵を賜るための手続きも、アラン様が率先して手伝ってくださった。今はクラウディア様に、伯爵夫人の仕事を教えてもらうために、ありがたく通わせてもらっている。
「今日はね、珍しいお菓子を用意したのよ」
と言って、クラウディア様が案内してくれた部屋の、テーブルの上を見たら、そこにあるのは……!
「大学いも……」
「!!」
まぎれもない大学いもだった。からりと揚げたサツマイモに、甘いとろりとした蜜。仕上げの黒ゴマ。
「メイベルさん、大学いもを知ってるの? もしかしてあなた、日本を知ってる……!?」
クラウディア様が飛びついてきて聞いてきた。えっ! 日本!?
「日本人でした! まさか、クラウディア様も…!?」
「そうなの! メイベルさんもなの!? えーっ 嬉しい! まさか日本人に会えるなんて!」
「私も! びっくり! 日本の何時代ですか平成ですか令和ですか!」
「令和4年に死んだの!」
「私は6年! それで転生も2年遅れだったんですね!」
手を取り合ってきゃあきゃあ言う私たち。わあどうしよう! 何から話せばいいんだろう!
話したいことがありすぎるー! と興奮していると、アラン様がクラウディア様の肩をちょんちょんして、
「ご、ごめん、盛り上がってるところ悪いんだけど……、説明してもらえるだろうか……」
とおずおずと頼んできた。
「わあごめんなさいアラン様! 実は…!」
私たちは、あわてて二人で、転生前のことやらなんやらを説明したのであった。
◇◇◇
(危機回避スキルと魅力スキルMAX…なるほどね)
二人の説明を聞いて、私はこれまでのクラウディアやメイベルの言動に納得した。
天から能力を与えられた二人……その二人は今、
「アイスといったらガリガリ君でしょ!」
「ピノでしょ!」
という、わけのわからない内容で口論してるので、とてもそんな特別な存在には見えない。だが、その能力は確かなものだと、この、『大学いも』という名前のお菓子が物語っている。
去年の秋ごろ、クラウディアが言ったのだ。
「さつまいもをたくさん作って欲しい」
「さつまいも?」
と首を傾げる私に、
「なんだか来年の秋は、さつまいもを食べなくちゃいけない気がするの。さつまいもといえばゴマも必要よね。さつまいもとゴマを主要産物として、秋に大学いもを食べたい!」
と言うのである。
これはなにかある。さつまいももゴマも干ばつに強い作物だ。
もしかすると、来年の夏は水不足になるのか?
念のため「クラウディアはお米が好きだけど、お米は食べたくないの?」
と聞くと、
「ん~、あんまり。備蓄もあるし、来年は田んぼは休ませて、再来年作ればいい気がするな~」
と言うのである。
水がたくさん必要な稲は、休ませていいというのだ。来年の夏、我が国は水不足になる可能性が高い。
これは賭けだったが、私は
「私個人の資産を全部使ってもいい。干ばつの対策をするよう国中にお触れを出してくれ。できる限り貯水池や深井戸を掘り、農作物は水不足に強いものにして、備蓄も充分するように」
と陛下に直訴したのだ。
その甲斐あって、我が国は今年、数十年に一度の日照りだったにも関わらず、ほとんど被害が出なかった。王宮のみんなに「なぜわかった」と聞かれたが、「カンだ」としか答えられなかった。
とにかく、クラウディアのおかげで、この国の危機を免れたことはまちがいない。
メイベル嬢は女神のような容姿をしているが、国にとっても、私にとっても、真の女神はクラウディアだ。そして「私はなんて見る目があるのだろう」と誇らしく思いつつ、女神たちの様子を窺うと、
「ブルボンの一番はルマンド! これは譲れないわ」
「アルフォートに決まってるじゃない!」
という、あいかわらず意味不明の口論をしていた。
話に全然参加できないので、ちょっとしょんぼりしつつ、大学いもを口に入れた。
誤字報告ありがとうございます!ふかぶか。
なんか誤字いっぱいありました! どうもありがとうございます! ぺこりぺこり。
直したつもりで直ってませんでした! ほんとにすみません! 教えてくださったかたありがとうございます!




