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14 【番外編】ギルバートが真実の愛に目覚めるまで

ギルバート視点です。クラウディアの出番は無しです。

俺の初恋は、5歳の時だったと思う。


アイゼンベルク辺境伯の跡取りとして生まれたので、将来は国境と領民を守り、兵を統率する人間になるのだと、教えられて育った。


5歳から剣を習ったが、その師匠となった剣士が、初恋の相手だ。

陽に焼けた肌、鍛え上げられた胸筋、たくましい腕、キレのある動き、ぴんと伸びた背筋、揺るがない体幹。笑うとなくなる目、極太眉毛、伸ばせば顔を一周できそうなヒゲ。全てが輝いていた。


師匠に褒められたい一心で、必死に鍛錬した。師匠は「よくがんばったな!」と頭をぐしゃぐしゃとなでてくれた。嬉しくて顔が真っ赤になった。その勢いで言った。


「ししょう! ぼくは、ししょうがだいすきです!」


「はははありがとう! 俺も大好きだよ!」

軽く流された。


たまに、『師匠の奥さん』という女性がお弁当を持って来ていた。

「きれいで優しそうな人」と侍女たちは言っていたが、「女って、ぶよぶよした生き物なんだよな。師匠の隣には、もっと、びしっときりっとした、たくましい男が似合うのに」と思っていた。


結界を作る能力は、アイゼンベルクの血筋にしか受け継がれていなかったので、一人息子の俺は、「絶対に子孫を絶やすな」と言われていた。しかし、まったく女に興味が持てなかった。


「幼いうちはそういう子もいるみたいだけど、思春期になれば変わるよ」と家庭教師に言われた。

この家庭教師も、賢さが顔に出ているような美しさで、口にする言葉が的確で無駄が無いので好きだった。筋肉がないので師匠を超えるほどではなかったけれど。


しかし学園に入学する年齢になっても、女性への嫌悪感は消えなかった。


生活するには邪魔でしかないフリルやリボン、歩きにくそうなスカート、ただの石なのに高値で出回る詐欺のような宝石を、嬉しげに身に着けて、甲高い声できゃあきゃあと、どうでもいい話をえんえんとする生き物。なんでこんな生き物と愛し合わなければならないのか。なぜそうしないと子供ができないのか。神はなぜこんな苦行を男性に押し付けたのかと、本気で神を呪っていた。


騎士科に入ったので、女と関わらないですむと思っていたのに、寮の周りから学園の行き帰り、休み時間にも話しかけてくる女生徒は後を絶たず、騎士科の実習中にまで見学に来る女だらけでうんざりだった。


しかしその原因はわかっていた。騎士科の同級となった第三王子、アラン殿下の存在のせいだ。


アランは王族なので、騎士科の授業の他に学ぶことが多くあったため、実習の時くらいしか一緒にならなかったが、ほれぼれするほどいい男だった。


王族なのに驕らない、平民にも「同級生じゃないか」と気さくに話しかけ、実習中に誤ってケガを負わせて『厳罰やむなし』と真っ青になっている生徒にも「私が未熟だっただけだ、なめときゃ治る」と笑って許していた。なにより、見学している女子どもがうるさかった時に、


「教官の声が聞こえない! 静かに出来ないなら出て行ってくれ!」


と一喝した時は、カッコ良すぎて、思わずひざまずきそうになった。

しかもその後で「静かに応援してくれたら、騎士科のみんなも気合が入ると思うから、よろしくね」と微笑んだのだ。ズキューン!


見学の女性も魅了されただろうが、俺もだった。イチコロだった。


訓練服を着替えながら「王族は、民を公平に愛さなくちゃいけないんだろうが、どうも女性は苦手だな」とつぶやいているのを聞いて、思わず「俺! 俺も女性が苦手なんです! 気が合いますね殿下!」と話しかけてしまった。


「アランでいいよ。君は…ギルバートか。辺境を守ってくれてる一族だね。感謝してる、ありがとう」

そしてにっこり。


バキューン! しかも脱いだら細マッチョ! まぶしいっ!


俺は必死で感情を表に出さないように努めた。この想いが世間的には受け入れられないものであることを理解していたし、なにより、アランに嫌われたくなかったから。


騎士団の中には女性もいた。「あたしー、サバサバしてるから、男同士みたいだって言われるの! あたしのことは男と思って話しかけて!」と言いながら、ぶよぶよした胸を押し付けてくる女もいた。


「なんだその気持ちの悪い胸は! 鍛え方が足りない!」

と、訓練所に引きずっていって、

「プッシュアップ100回! ダンベルプレス100回! 休むな! まだ10回もやってないぞ! そんなんで男と呼べるか!」

と親切で鍛えてやったのに、二度と話しかけて来なくなった。


女性であることに甘えず、髪も短くしたりまとめたりして、まじめに鍛錬している女性もいた。

普通に男同士のようにつきあっていたが、「あの、好きなんです。私のことを、女性として見てもらうことはできませんか」と言われた途端、その場で吐いた。「女性と交際する」と考えただけでダメだったのだ。この女性も二度と近寄ってこなかった。


そんなこともあってか、「ギルバートの女嫌いは筋金入りだ」という噂になった。おかげさまで近寄る女がいなくなったので、毎日が平和になって良かった。「女を虫けらのように見る目がたまらない」と、遠くから見ている変態もちらほらいたようだが、近づいて来ないので被害はなかった。


そんなある日、アランが「気になる女性ができた」と言い出した。


ついにこの日が来たのか。俺の愛しいアランが、無駄の塊のような生き物に持っていかれてしまうのか。

無駄なドレス、無駄な宝石、無駄な脂肪、無駄なおしゃべり。あんな生き物と過ごすことは人生の無駄でしかないと思うのに、おまえも無駄の仲間入りをしてしまうのか。残念すぎる。


「ちょっと行動が面白いんだよ」と、アランはその気になる女性のことを話そうとしていたが、俺はそんな話を聞きたくなかったので「あっ、そういえば闘技場に用があった、またな」と避けていた。


『行動が面白い』か。巷では『おもしれー女』との恋愛小説が流行っているという。

アランも流行の女に惹かれたってことか。そんな男だったってことだよな。


「婚約したんだ、ぜひ会ってもらって紹介したいから、時間を取ってくれないか」と言われた時も、「すまないが、領地に行く用事もあるし、忙しい」と言って断った。どうせ、俺が会って『こんな女やめとけ』って言ったからって、やめるわけじゃないんだろ。だったら会うだけ無駄だ。


俺はそうやって、アランを避けつつ、『しょせんアランもそのへんの男と変わらない』と思い込むようにして、失恋から立ち直ろうとしていた。婚約者の顔も見たくもなかったので、卒業式は欠席した。


領地に戻って、勉強と鍛錬に励んだ。学園に行っている間に、婚約者を見つけてくることを期待していた両親は、危機感まるだしで「誰か気になる女性はいないのか」と聞いてきたが、まったくいないし、これからもいないと確信していたので「悪いけど、親父たちが今から弟か妹を作るしかないかも」と言った。


「今から…」とつぶやいて、両親はこの世の終わりのような顔になった。

そうだよなあ。母上は御年40、これから産むのは辛いだろうし、父上が愛人を作って産んでもらうというのも辛いだろう。貴族には珍しいおしどり夫婦なんだから。


申し訳ないと思うがしかたがない。子供は、そういう営みができる人に作ってもらうしかないのだ。


俺だって、なんとか女嫌いを克服しようと、努力した。

「誰もが一目で恋をする」という噂の女優が出るという芝居も観に行った。

でも「男だけの芝居のほうが良かった」と思うだけだった。

乳の柔らかさと有難さを実感するために、牛の乳しぼり体験にも行った。

牛乳はうまかったが、「変な感触」としか思わなかった。


領地に戻って半年が過ぎた頃、陛下からのお呼び出しが来た。

「見合いの話だろうな」と思ったが、陛下からのお呼びではしかたがない。


アランからも手紙に「久しぶりに会いたい」と書かれていたので、さすがにそろそろ、婚約者の顔でも拝ませてもらおうか、という心境になったので、会う予定を入れた。


そして王都に向かい、陛下にお会いして、開口一番「私は女性の話をするだけで吐き気を催します。この立派な絨毯を吐しゃ物で汚したくはないと思っておりますが、どういうお話でしょう」と言った。


陛下はしばらくぽかんとした後、たぶん見合いの釣り書きと思われる書類を、チラチラと見ていたが、「ああいや、たまにはその、顔が見たくなっただけだ。足労をかけたな」と言った。

「では私はこれで失礼させていただきます」と言ってその場を辞して、アランとの待ち合わせのカフェに向かった。


その後、俺は運命の出会いをしたのだ。


◇◇◇


王都から領地に戻ると、すでに伝令が届いていたのか、お祭り騒ぎだった。

とくに両親の喜びかたは尋常じゃなかった。そうだよな、もう少しで「愛人作ってでも子を儲けよ」って王命が来そうだったもんな。


「あのでも、彼女、平民なんだけど大丈夫かな」

と一応聞いてみたら、

「陛下がいつでも叙爵するって言ってたわ。国の危機を救った英雄ですもの当然よ」

と返された。陛下…。いや、それほどの危機だったのかも…。


「坊ちゃん~~~! おめでとう~~~!」

「乙女の心情として複雑だけど、嬉しい~~~!」

「わーん、良かったー!」


使用人も領民も泣いて喜んでいた。こんなに心配かけてたのか。申し訳ない。


それにしても、真実の愛はすごい。

メイベルはまだ学生なので、卒業したら我が領地に来てもらう約束をして別れたのだが、もう会いたい気持ちになっているのだ。こんなに劇的な変化が訪れるものなのか。


そういえば、「王太子が真実の愛に目覚めて、婚約破棄する」という小説も流行っていると聞いた。

「真実の愛を知ってしまったら、さもあらん」と、俺は王太子の行動に共感したのであった。

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― 新着の感想 ―
クラウディアの危機回避スキルさん的には、アラン殿下はかなりやばかったようですね。 そりゃ結界の消失は大問題だけど、ギルバートが生きている間は大丈夫なわけで。仮にギルバートが早死にしても父親や祖父が健…
やっぱりアランは狙われていた!?(;´Д`) 全振りって凄いな~。 さすクラ&さすメイ。
本当、お互いに良いお相手に巡り会えて良かった!
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