12 オデンの謎
アラン視点、「7 かわいい泥棒猫」の後日談です。
「ンニャアアア~~」
子猫が廊下を走ってくる。
「あっお兄様ー! その子つかまえてー!」と言いながら、妹のヘレンが走ってきた。
私は猫をひょいとつかまえると「こら、廊下は走っちゃだめだろ」と言ってヘレンに渡した。
「はあいごめんなさい」
と素直に謝る。よしよしいい子だ。
「でもこの子が悪いのよ~。じっとしていてくれないんだもの~~」
「抱き方が悪いんじゃないか? 優しくそっと触らないとだめだぞ」
「もちろん、気を付けてるよ~。ね? 痛くしてないよね? オデン」
「オデン…」
「かわいい名前でしょ?」母が衣裳部屋から顔を出した。
「母上」「お母様」
「夜会の衣装を選んでたら声が聞こえたから。いい名前よね~、オデン」
妹から猫を奪い取って愛しそうにほおずりする。オデンは嫌がって前足をつっぱっているが。
「レオン、カイン、アラン、ヘレンにオデン…母上の名づけのセンスについて、ちょっと言いたいことがあるかもしれません」
「あらどうして? 一番名前を呼ぶ回数が多いのは私なんだもの、私が呼びやすい名前をつけるのは当たり前よね?」
「それにしても、オーディンとかならまだしも、オデンとは珍妙な気がします。由来はなんですか」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました」
得意そうな顔。なんか嫌な予感がするのは、これまでの経験則だろうか。
「アラン殿下の婚約者がみつけたお猫様だから!」
「……」
「オアラ、オデン、オコンの三択で、一番呼びやすいのを選びました!」
「なんでその三択なんだ」
「いいじゃない、オデンかわいいよー」
妹も、猫を撫でながら賛成する。
「ねー」
結託する二人。まあ、飼い主が気に入ってるならいいんだけど…。
それにしても、不思議なのは、クラウディアがこの猫を手放したことだ。
「怪しい男の服に子猫の毛がついていた」というだけで、わざわざ家まで追っていってみつけた猫だ。
てっきり自分で飼うものだと思っていたのに。
あの時、母上がクラウディアに近寄って話しかけた時、クラウディアが抱いていた猫は「ニャッ!」と鳴いて母上のほうに逃げた。
『ああ、母上を見て緊張で固まってたから、手に力が入ったんだろうな』と思った。
でもそんなの今だけで、普段のクラウディアならそんなことないだろうから、飼うことに問題はないと思っていた。
でもクラウディアは「まあ、王妃様のほうが好きみたい…。王妃様、もしよろしければ、この子を飼っていただけませんか?」と言ったのである。
母はもちろん「えっ、いいの!? こんなかわいい子を!?」と大喜びで引き取った。
そこがどうにも不思議だった。
「この猫、私に飼わせてくれない?」と母が言ったのなら「王妃様の言葉だから従った」として理解できる。でも、あの時、母はそんなこと一言も口にしなかった。なのになぜ自分から。
「アランは、このあとまた伯爵邸に行くの?」
母が、思い出したように聞いてきた。
「ええ、あそこの領地経営について、まだまだ学ばなくてはいけないですからね」
「そうなのね。ちょっと残念だわ」
「何がですか」
「オデンがクラウディアちゃんちの猫だったら、『猫の様子が見たい』って口実で、おうちに伺えたのになあって」
あ…!
「まあ、うちの子になってくれたことは素直に嬉しいんだけどね。やっぱ残念。無理矢理でも時間作って、猫とアランとクラウディアちゃんと戯れたかったー!」
そうだ、この母はそういう奴だった。
実際、知り合いの公爵の家で猫が生まれた時は、生まれる前から譲渡先を見つけていたので、飼うことができなかったのだが、毎日、時間を作っては会いに行っていた。
「子猫の成長をなめちゃいけないわ! 1日であっという間に成長しちゃうのよ! この大きさを愛でられるのは今だけなのよ!」という理由で。
あの時と同じ状態になることは想像に難くない。そうか、そういうことか…!
私は今回も「さすクラ」と心の中で拍手した。
◇
余談だが、「オデン」という名前を聞いて、クラウディアが「オデン? オデンちゃんなの? 本当に!? うわー! めちゃくちゃかわいいいいい!」と大喜びしていた。
なぜそんなに喜ぶのかよくわからないが、嬉しそうなので良かった。




