枕が変わっても大丈夫
アリベルが起き出しそうな気配がして、立ったまま寝ていた俺は目を覚ました。
窓から外を窺うとあの怪人は来ていないし、まだ日は高い。
日が落ちて真っ暗になる前に戻るとして、後30分くらいは休めそうだ。
「あれ?!……あ、ルカ!怪我は大丈夫?!ここどこ?!」
「山の中の道具小屋みたいな所。あのアルマジロウサギが追い掛けて来たから避難した」
「そう。この小屋を破って来ないってことは、私達のことは諦めたのかしら?」
「どうだろう。なかなかしつこかったからなぁ……ていうか、全然可愛くないだろ。なんだあの化け物」
「私も知らないわよ!アルマジロウサギって成長しても抱えられるくらいの大きさで、穏やかな性格のはずなのに……」
「個性だろ。そういうアウトローな奴がどこにでもいるんだよ。ところでアリベル、もうちょっと寝てくれないか?」
「どうして?」
何故なら、あの怪人アルマジロウサギにやられた傷が思った以上に深いからだ。
アリベルがほとんど治してくれたとはいえ、まだざっくりと傷口が開いているし、同じように切れた服を傷に詰め込んで出血を抑えている状態だ。もう少し休まないと、まともに動けそうにない。
「俺、起きてる奴がいると寝れないんだ」
「あ、そうだっけ。わかったわ!」
そう言ってアリベルは小屋の床に寝転がったけど、何度か寝返りをうってすぐに体を起こした。
「ごめん、目が覚めちゃったみたい……」
「だよなぁ……」
「あ、私、外に出てようか?」
「いいよ。危ないだろ」
本当は、こんなお願いをする前にアリベルを気絶させてしまえばよかったのだ。
普通ならそんなことは絶対にしないが、今は非常事態だから大目に見てほしい。
仕方ないからアリベルを寝かせるのを諦めて、少しでも休める体勢を探した。
まずは壁を背に床に座って、アリベルを両腕で抱き締めて胸の中に収めてみる。
これでアリベルが背後から俺を攻撃してくることはない。
万一この超至近距離から刺されたとしても、そのまま絞め殺してしまえばいいから大丈夫。
「うーん……これならギリギリ」
「こ、これなら、寝れそう?」
「無理だけど、少し休むくらいなら何とか」
「わかった。私も寝るようにするわ」
アリベルは俺の腕の中でそう言ったけど、何だかずっとそわそわしていて、寝ようとする様子がなかった。
「何?」
「な、何よ?」
「何か気になって寝れないんだろ?」
「え……あの、それもあるけど、ちょっと密着してるから……」
「じゃあ、離れるか?」
「いいえ!大丈夫!そう、聞きたいことがあったのよ。あの、みむねから聞いたんだけど……狩刃の当主を決める時、最後の一人になるまで殺し合うって本当?」
「あー本当だよ」
「それなら、ルカもあのお兄ちゃん殺さないと!」
「そうなんだよなぁ……でも、俺は家族は殺したくないし、そもそも全然勝ち目ないし」
「なら、諦めて殺されるってこと?!」
「いや、俺も死にたくないから、ソフィアが神王になったら、俺以外の狩刃を全員殺してくださいって賢者の石にお願いするんだ。そうすれば万事解決だろ」
「あぁ……最初に会った時、そんなこと言ってたわね」
「そうそう。本当は、ちゃんと自力で殺さないといけないんだろうけど」
「ふぅん……気持ちはわかるかも。私は軍を辞めてソフィアに付いたけど、隊長は育ててくれた恩があるから、今でも敵とは思えないもの」
「あー……その隊長からもらったパジャマ、破いちゃってごめんな」
「いいわよ。ルカが着てくれなかったら、どうせ捨てるつもりだったから。でも、本当に、新しい服を着て来なくてよかったわね」
アリベルはそう言って、もぞもぞと俺の胸に顔を埋めて静かになった。
必死で寝ようとしてくれているけど、後20分程度では無理だろう。
俺も仕方なく寝るのは諦めて、何とか体力回復に努めた。




