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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第7章 最大のピンチは案外早く来る

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商売敵はいつも敵

「狩刃くん……大丈夫?」


 小紅を追いかけることもできずに地面に転がっていると、委員長がひょいと持ち上げてくれた。

 抱き締められて、高級ホテルのベッドよりも柔らかい感触に内心が躍る。

 でも、今ははしゃいでいる場合じゃない。


「委員長、どうしよう……」


 足だけじゃなくて口まで回らなくなっている気がする。

 これはまずい。

 こんな状態の俺をみむねに見られたら、今がチャンスとばかりに殺されるかもしれない。

 小紅に姿を変えられた瞬間を見られていただろうか。と、下まで垂れているみむねのお下げを辿って見上げると、本人が2階から飛び降りてきた。


「狩刃がちっちゃくなってる!貸して貸して!」


「委員長……!」


 離さないで、と委員長にしがみ付いたのに、委員長はあっさり俺を剥がしてみむねに渡す。


「あー!持ちやすい!小さいと狩刃でも可愛いなぁー」


「狩刃くん、服がぶかぶかになっちゃったね……ちょっと探してくる」


「い、委員長、このままだと、俺はみむねに殺される……!」


「軽ーい!運びやすーい!」


 みむねは俺をぶんぶん振り回して遊んでいるのに、委員長は服を探しに店の中に入っていってしまった。

 みむねは赤子を前にして運搬性の話をしていて、実に殺し屋らしい。

 でも、由緒正しい殺し屋とはいえ、こんなに可愛い赤子を殺すなんて酷いことはできないんじゃないか。

 そう期待したのに、みむねは一通り俺を振り回して満足すると、さて、と俺を床に下ろして背中の日本刀をスチャリと抜いた。


「今のうちに殺しておくか」


「いいのか?今俺を殺したら、委員長にバレるぞ」


「しかし、こんなに手も足も出ない狩刃を殺す機会など、今後あるかわからないからな」


「そんなことないだろ。小紅がいればいつでも小さくなれる。委員長がいない時に、また小紅に頼めばいい」


「む、うぬぬぬぅ……それもそうだな……」


 ありがたいことに単純なみむねは、それで納得して日本刀を収めた。

 何とか命を繋いだところで、委員長がシャツを持って戻ってくる。

 ぶかぶかの俺の服をすぽんと脱がすと、小さなシャツを俺に着せた。


「お店にお古だけどいいのがあったよ。あと、哺乳瓶も……」


「お腹空いてないから大丈夫」


「ちゃんと煮沸消毒したよ?」


「いや、本当に大丈夫。要らないから」


 中身は17歳なのに、哺乳瓶でミルクを飲まされるなんて恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。

 しかし、アリベルとソフィアにちょっと寄り道をしてくるとしか言っていないから、あんまり戻るのが遅くなると怪しまれる。

 でも、ボディーガードとして雇われているのに小紅の勘違いで赤子にされましたなんて、狩刃として恥ずかし過ぎる。兄貴にバレたらそのまま切腹を命じられそうな失態だ。


「小紅が帰ってくるまで店で匿ってくれないか?」


「うん、いいよ」


「狩刃、こんなに柔らかいなら高い所から落としたら破裂するかなぁ」


 何やら危険なことを呟いているみむねに抱えられて、掃除中の店に入った。

 全体的に周りの物が大きくて、いつもなら大柄な相手を前にしたって何とも思わないのに、今は思い通りに動かない体で少し不安になる。


「俺、このぐらいの時はまだ狩刃じゃなかったからなぁ……変な所無いか?普通の子供に見える?」


「みむね、普通の子供と会ったことがないからわかんない」


「あ、そう」


 眠水家も狩刃家と変わらないくらい変わった教育方法なのかもしれない。

 委員長が店のソファーを空けてくれて、みむねが俺を下した。

 掃除はサボった小紅でも、夜の営業の時間になれば店に戻ってくるだろう。

 その時までここでアリベルに見つからないようにゆっくりしていようと腰掛けたのに、埃が舞い上がってげほげほと咳が出た。


「掃除中だから、あんまり小さい子がいるのはよくないかもね」


「大丈夫だよ。ここで大人しくしてるから……」


「みむねと一緒に散歩に行くか?」


 そう言うみむねの手には、どこからか持ってきた犬用のリードが握られている。

 バカなのか冗談なのか知らないけど、俺はみむねと一緒にいたら殺される。

 赤子が1人でいたら怪しまれるから委員長と一緒にいたいのに、俺のために掃除をサボってくれるタイプじゃなかった。

 ここは自分で何とかして生き残るしかないと思っていたら、店の入口のベルが鳴った。


「失礼しまーす。ルカ、来てませんか?」


 店に入ってきたのはアリベルだった。

 情けない姿を見られないように逃げようと思ったけど、逃げる先にリードを構えたみむねがいて諦めた。

 首輪を付けられて引き摺られるくらいなら、アリベルに助けられた方がマシだ。


「委員長、ルカは来てないかしら?あれ?何、その子?」


「みむねの生き別れの妹のルカちゃん。2歳の時に養子に出されたの」


 俺を使ったままごとを始めようとしたみむねが妄言を吐く。

 アリベルは店内を見渡しつつ、話半分に聞いていた。


「へぇ、みむねの妹もルカっていうの?異邦人にはよくある名前なのね」


「みむねはずっと探していて、今日10年ぶりに運命の再会を果たした」


「年齢設定がめちゃくちゃじゃない……で、私が探してるルカは?」


 アリベルはそんなに子供が好きじゃないみたいで俺をチラリと見ただけで委員長と話を続けた。

 委員長は首を傾げて少し考えていたが、みむねから俺を抱き上げてアリベルに手渡す。


「アリベルさん、少しお世話をお願いできませんか?」


「え……いいけど、何、この子?」


「2時間くらい経てば掃除も終わりますし、小紅さんも帰ってくると思いますし」


「なんで小紅が出てくるの?まぁいいわ。大人しい子みたいだし、ルカを探すついでに時間潰してくる」


「ありがとうございます」


 小紅がどうして関係しているのか、アリベルが突っ込んで聞いてくれれば。

 それか、委員長がもう少し詳しく説明してくれれば、俺の口から説明しなくて済むところだったのに。


「はいはい。行くわよ」


 恥を忍んでもう一度説明しようとしたら、アリベルに雑に抱き上げられる。

 ごつん、とアリベルの胸に額がぶつかって、その感触に俺の家の煎餅布団を思い出した。


 失礼なことを考えていると気付いて、慌てて頭から振り払った。

 でも、アリベルは何も知らないままで、俺を普通の赤ちゃんだと思って抱き直してくれた。

 丁寧で、意外と落ち着く。

 アリベルが頼りになりそう。そう思ったのは出会ってから初めてだ。

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