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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第6章 水着回は6話目くらいがちょうどいい

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触っておくのが礼儀かと

 俺は手足が動かなくなったくらいで溺れて死ぬようなことはないけど、アリベルは慌てた様子で俺に向かってきた。

 潜っていた俺の足首を掴んで、陸に向かって泳ぎ出す。

 アリベルは泳げないと思っていたけど火事場のバカ力というやつだ。


「ルカ、大丈夫?!すぐに陸に着くから、がんばって!」


 全然大丈夫、と言おうとしたけどアリベルが足首を掴んでいるせいで海面に顔を出せない。

 せっかく助けてもらっていることだし黙って引き摺られていたけど、砂浜が近付いてずりずりと体が海面を擦り出して怪我をする前にアリベルに声を掛けた。


「アリベル、もう足着くから」


「あ、そっか!」


 アリベルが足を離してくれて、俺はやっと体を起こす。

 大波に巻き込まれたけど、竜石は落とさずにちゃんと握っていた。

 この前の芋虫のよりも少し大きくて片手からはみ出すくらいの緑色の竜石。

 サイズが大きいと、褒賞金の額も大きくなるのかもしれない。

 そこのところをちゃんとミリアに聞いておけばよかった。


「あ、アリベル、これ」


 俺は海に潜って探し出してきたアリベルの水着を渡した。

 やっぱり神竜が持っていたみたいで、大波で流されそうになっていたのを寸前で掴んできた。


「せっかくソフィアとお揃いなんだし、大切にしないとな」


「あ、ありがとう……」


 アリベルは水着を受け取って、しばらく黙っていた。

 何か言いたそうにして、でも何も言わなかった。


 多分ソフィアは海が嫌いだから今後誘っても来ないだろうけど。

 パラソルに戻ると、海に沈む夕日を眺めながらソフィアと委員長と小紅は揃ってラーメンを食べていた。

 俺が決死の思いで神竜を退治してきたのに、のんびりと夏の夕方を満喫している。


「なんじゃ……この食い物は味が薄いのぉ……」


「おかえり。狩刃くんも何か食べる?」


「お疲れ様です。ルカ君もアリベルも、怪我はありませんか?」


「あー……全然大丈夫。クラゲに刺されて全身痛いけど」


 特に防御もせずに突っ込んでいったせいで腕とか足以外も色々刺されていた。

 アリベルが首に下げた賢者の石を使おうとするけど、石の力を使って治してもらうほどの怪我ではない。みむねが何やら瓶を出してごそごそしているから例のアレを借りられそうだ。


「みむね、それはもしかして眠水家秘方の薬か?」


「ああ、まったくしょうがないな。可哀想な狩刃にも貸してやろう」


 多分ジャムか何かの小さな空瓶に、黒く濁った軟膏のようなものが詰まっている。

 手作り感満載だけど、前回の神竜退治で効果は折り紙付きだ。

 しかし、蓋を開けてみると中から原材料を疑うような暗黒の気配が漂ってきた。


「うわっ……なんか獣臭ぇ……」


「文句を言うな!ほら、付けてみろ!痛みも腫れもすぐに引くぞ」


 みむねに瓶を押し付けられて、吐きそうになりながら何とか受け取る。


「くそぉ……何で頑張って神竜倒したのに、こんな目に遭わないといけないんだ……」


「そんなに文句言わないの。私がつけてあげるから」


「えー……アリベルまで臭くなることないって」


「いいからいいから」


 アリベルがそう言って、触れるのも躊躇するくらい臭い軟膏を俺の体にぺたぺたと塗ってくれた。

 正面に立って見下ろすと、アリベルの胸が大きいのが気になった。

 やっぱりいつもの方がアリベルには似合っていると思うけど、これはこれで悪くない。

 俺の視線に気付いて、アリベルは誇らしそうにふふんと笑った。


「すごいでしょ!仕方ないわね。そんなに気になるならせっかくだし、触ってみる?」


「え?いいのか?」


「いいわよ。実は、風船をくっつけてるみたいに全然感覚ないのよね……」


「ふーん」


 正直、女の胸なんて仕事で飽きるほど触っているけど、小紅の能力で変化した人体がどんなものなのか興味がある。

 お言葉に甘えて俺が手を伸ばしたちょうどその時、ラーメンに胡椒を振りかけていた小紅がぶるりと尻尾を震わせる。


「へぶしッ」


 小紅がくしゃみをすると、ぽんっと音がしてアリベルの胸が元の大きさに戻った。

 俺の手がすかっと空振りして、そのままアリベルの胸に触れる。

 なるほど。ないように見えて、触ってみると確かに存在を感じる。

 一瞬で真っ赤な顔になったアリベルは、間髪入れずに俺にビンタをしてきた。

 避けられないこともなかったけど、ここは様式美かと思って大人しく殴られた。

 しかし、元軍人だけあって油断したら首が一回転しそうな勢いのビンタだ。

 防犯意識がしっかりしていて偉いと思ったけど、緑竜に刺されたことよりも今日一番の重傷になった。


「ご、ごめんなさい……!つい……」


「アリベルが触れって言ったのに」


「触れとは言ってないわよ!触っていいって言ったの!」


「同じだろ」


「全然違う!ばか!」


 アリベルがそう言い残して、海に走っていった。

 海に行くなら、せっかく俺が拾ったんだから水着を着て行くべきだろう。


「アリベル、海入るなら水着。ソフィアとお揃いの」


「あ、そうだわ!ソフィアと海に入ってない!」


 海に来た当初の目的を思い出して、アリベルは俺に胸を揉まれたショックをすぐに忘れて戻ってきた。

 ラーメンを食べ終えてお腹がいっぱいになり、眠そうな顔をしていたソフィアに駆け寄る。


「ソフィア、海に入るわよ!一緒に遊びましょう!」


「あの、私は……もう夕方ですし……」


「いいから!ルカも来て!」


「俺、臭い薬塗っちゃったよ」


「なんだと!眠水家の秘薬が海などに負けるはずないだろう!試してみろ!」


 俺はアリベルとソフィアがいちゃいちゃするのを邪魔しないように見学しているつもりだったのに、みむねがそう言って俺を海に向かって押してくる。

 しょうがないから、嫌そうな顔をしているソフィアを抱え上げてアリベルに続いて海に向かった。

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