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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第6章 水着回は6話目くらいがちょうどいい

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一生に一度は誰でも願うもの

 焼き魚がまだ残っていたと文句を言うみむねと、浮輪で引き摺られて屈辱的だとぶつぶつ零しているアリベルを連れて砂浜に戻る。

 委員長はソフィアと一緒に砂で遊んでいた。

 大作になりそうな砂の城を作りながら、ソフィアは何やら不服そうな顔をしている。

 さっき砂が付くとか文句を言っていたから、嫌々委員長に付き合わされているんだろう。


「委員長、大丈夫?」


「あ、狩刃くん。ちゃんと休憩した方がいいよ。水中にいると思っている以上に体は疲れてるから」


 委員長は、相変わらず普通のことを異世界で普通に言って、俺にスポーツドリンクを差し出してきた。


「ありがとう。ところで、何かに襲われたりしなかった?」


「ううん、何にもなかったよ。でも、さっきまで岩場に何かいた気がしたんだけど、今はそこにいるみたい」


 委員長がそう言って、目の前の砂浜から続く波打ち際を指差した。

 さっきのよくわからない存在が思っていたよりも近くにいることがわかってちょっとビビったけど、それよりも得体の知れない気配が目の前に来たのに砂浜で遊んでいる委員長のマイペースさの方に恐れ入った。


「ルカ君、神竜が見つかったんですか?」


「ああ、アリベルが襲われて水着を盗られた」


「あらあら、それは許せませんね。私、こう見えて実は今手が空いていて暇なので手伝いましょうか?」


「いや、ソフィアは砂遊びを続けてくれ。アリベルは貧乳だから無傷で解放されたんだ」


「ちょっと、今はっきり『貧乳』って言ったでしょ!!」


「まあ……胸が大きい子が好きなんて、随分人間味のある神竜ですね」


「だから委員長が危ないかと思って戻ってきたんだけど、無事だったみたいだな」


 ソフィアは、アリベルを見てから委員長を見て、確かに、と頷いた。


「そ、ソフィアまで……!私だって、襲われるかもしれないでしょ!」


「いえ、あの、アリベルが無事で何よりです」


「狩刃くん、あんまり人の身体的特徴を言ったら駄目だよ」


「だよな、委員長、ごめん」


「もー!ルカは、委員長の言うことはすぐに聞くんだからー!!もう嫌い!」


 アリベルが拗ねて砂浜に転がった。

 しばらく「小は大を兼ねる」だの「小ぶりな方が結果的にはお得」だのぶつぶつと呪詛らしきものを吐いていたがすぐに動かなくなる。

 少し失礼なことを言い過ぎたからちょっと慰めておこう。


「アリベル、俺は大きいのも小さいのもそれぞれ良さがあると思う。それに、アリベルは今のままで充分魅力的だって」


「ほ、本当……?」


「狩刃は貧乳が好きなんだー!ロリコンー!捕まれー!」


 みむねが余計なことを言って、機嫌を直しかけていたアリベルはまた砂浜に突っ伏して動かなくなる。

 みむねは岩場に放置してきて良かったのに、なんで俺は持って帰ってきてしまったんだろう。


「ルカ君の女性の好みはともかく、胸が大きな女性を狙うなら巴さんに寄ってきそうですね」


「だよな。俺はよくわからないうちに海から追い出されちゃったから、どうしよっかなぁ……」


 だからと言って、委員長をオトリにするのは危険過ぎる。

 他に巨乳と言えば小紅だけど、セレブの見本みたいにサングラスをかけてサマーベッドで寝転んでいる。

 紅竜の小紅を緑竜が襲うなんて馬鹿なことはないだろうし、そもそも全然協力してくれなさそうだ。

 そう思っていたのに、俺の視線に気付いた小紅が、サングラスをずらして俺を見た。


「狩刃様が女性になればよいのでは?」


「え?小紅、そんなことできるのか?」


「ええ、小紅は永く人間を眺めていましたから。人体の見た目を少し変えるだけなら簡単なことですわ」


「つまり、女体化ができるってこと……?」


「ええ、狩刃様が望むのなら」


「やったー!」


「喜ぶんじゃない!」


 つい素ではしゃいでしまって、アリベルに後頭部を殴られた。なかなかの本気の拳だったけど、その程度で俺の好奇心は収まらない。


「アリベル、俺は本気で女になりたいって考えてるわけじゃなくて、ちょっとした興味だよ。誰だって変身願望って持ってるだろ。アリベルだって、一回くらいは男になってみたいって思ったことないか?」


「ルカはもう黙ってなさい!それよりも、小紅!ルカを女にするよりも、私の胸を大きくする方が簡単なんじゃない?」


「それもそうじゃな」


 小紅がアリベルの濡れたシャツが張り付いた胸をぺちんと叩くと、ぽわんと柔らかい音がしてアリベルの胸が委員長くらい大きくなった。

 いつものアリベルを知っている俺からすると違和感があったけど、本人は嬉しそうに自分の胸を揉んでいる。


「うわぁ……!小紅、この効果はいつまで続くの?」


「うむむ?まぁ、小紅がくしゃみをしたら勢いで解けたりするかもしれんのぉ」


「そう。一生くしゃみしないでね」


「アリベルだって楽しんでるだろ」


「いいから!ほら、私が囮になるから、早く行くわよ!」


 アリベルが胸を張って海に向かっていく。

 さっきまで泣きそうな顔で浮輪にしがみついていたのに、現金なものだと思った。

 でも、まぁ、元気そうで良かった。


 俺は神竜退治よりも、女になって一日過ごしてみたかった。

 でも、委員長は砂の城作りを再開させているし、俺に手伝いを断られたソフィアも渋々それに付き合っている。

 アリベルを囮にして俺が神竜を倒してくることが決定しているみたいだ。

 確かに、俺たち以外には海の家の店員しかいない海で女になってもつまらなそうだし、ここは大人しく働くか。

 みむねはというと、サングラスをかけ直して寝転がった小紅の腕をつんつんと突いていた。


「みむね、髪の毛すっごく長くしたい」


「今、それは関係ないじゃろ」


「おい、みむね、それは後でやってもらおう。まずは一緒に神竜退治しようぜ」


「後でね!絶対やってね!!」


 多分、何かの役に立つだろうから、奴なりの変身願望を叶えようとしているみむねも連れていった。

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