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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第6章 水着回は6話目くらいがちょうどいい

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初めてはいつでも自分が決めた時

 この辺りの水深は10mちょっとくらい。

 普通にダイビングで楽しめるくらいの深さで、カラフルな魚がのんびり泳いでいる。


 青く透き通った水の中を潜っていくと、底の方で白い布が揺れているのが見えた。触手に取られたアリベルの水着だ。

 一応周囲に警戒しながら、さらに潜って水着に近付く。

 でも、その近くに石が浮いているのに気付いて、泳ぎを止めた。

 海水の中でも緑色にキラキラ光っているのは、もしかしなくても俺が褒賞金をゲットできる竜石だ。

 石だけが沈んでいるということは、さっき触手を切っただけで倒したことになったのかもしれない。

 かっこいい戦闘シーンがないのは残念だけど、目的は達成できたんだしよしとしよう。


 とりあえず、水着は後にして、先に竜石を手に入れようと手を伸ばすと、周囲の水が突然重くなった。

 手足が動かせなくなって、指先までギリギリと締め上げられるような感覚がある。

 動けないまま竜石と向き合っていると、その感触が手足だけじゃなくて胴体にまで侵食してきた。

 腹から胸まで締め上げられて、何とか耐えようとしたけど、尋常じゃない圧力に肺の中の空気が口から漏れる。

 白い泡が目の前に広がって、代わりに口の中に入ってきた海水が喉の奥に入ってきた。

 酸素がなくなって体から力が抜けると、手足が自由になる。

 もう一度竜石に手を伸ばしたが、車が衝突するような衝撃で体を殴られて、海の外に吹っ飛ばされた。


「る、ルカ!」


 叩き付けられた先は、ありがたいことにさっきいた岩場で、すぐにアリベルが駆け寄ってきた。

 固い岩の地面に衝突したせいで骨が折れる音がしたけど、動く分には問題ない。

 それに、思い切り鳩尾を殴ってくれたおかげで、大量に飲んだ水をそのまま吐き出す。


「大丈夫?!あー!血ぃ出てる!」


 アリベルは、いつもの調子でガンガン俺の肩を掴んで振った。

 怪我人はあんまり動かさないのが基本だと思うんだけど。


「ルカ!生きてる!?」


「し……」


「し?!死んだ?!」


「神秘的……」


「……どうしたの?頭おかしくなった?」


「アリベル、海の中によくわからないものがいる」


「そう……頭から血が出てるから、あんまり興奮しない方がいいんじゃない?」


「もしまた芋虫とかタコとかイカとかダサいの相手にするんなら、今日は神竜退治なんてやめてさっさと帰ろうかと思ってたんだけど、どうやら違うみたいだ」


「そんなの許すわけないでしょ!ちゃんと倒しなさいよ」


「姿は見えないけど、何か強そうなのがいた。やっぱり異世界に来た甲斐があったよ。神竜って初めて見たけど、かっこいいんだな」


「記憶を消してるみたいだけど、ルカの初戦はあの芋虫でしょ。でも、よくわからないけど、やる気になったんならよかったわ」


「ここは本気出していくか。みむねをオトリに使おう。あいつ、どこ泳いでんだ?」


「ここー」


 みむねの声が聞こえて岩陰を覗くと、みむねがたき火を起こして魚を焼いていた。

 異世界のカラフルな魚も、串に刺されて焼かれていると普通に美味しそうな食料だ。というか、料理をするなら俺のフライパンを持ってくればよかった。


「みむね、海の中に何か怪しい気配はあったか?」


「ああ、ずっと誰かに見られているような嫌な気配がする。不気味な海だ」


 みむねはそう言いながら、その不気味な海で捕まえた魚を平気で食べている。

 俺も一回溺れかけて疲れたから、たき火の傍に座って一息ついた。


「みむねは魚を獲っていて襲われなかった?」


「全然。狩刃は襲われたのか?だっせー!」


「ふーん?魚の味方で人間を排除してるとか、この海の守護神ってわけじゃないのか」


「でも、人を引きずり込んで襲ってるということは、何か人間に恨みがあるとか……理由があるんじゃない?」


「うーん……ところで、みむねは料理はできるのか?」


「当然。眠水家は毎食一汁三菜を門下生の分も作っている。次期当主として料理の術は必須だ」


「へー、あのさ、フライパンで作る魚料理って何があるかな?」


「和洋中色々あるが、今釣って食べるなら刺身にしたらどうだ?」


「そう言いながら、何で焼き魚食べてるんだよ?」


「みむね、お魚捌くのあんまり好きくないから」


「人間とあんまり変わらないと思うけどなぁ。じゃあ、俺が何匹か卸すから……」


「どうして料理の話をしてるの?」


 アリベルが、俺が飽き始めたのを察して冷たい声で尋ねてくる。

 俺はアリベルの問いには答えず、短い沈黙を挟むことで会話をリセットした。

 俺はいつでも真面目で仕事熱心な狩刃家の三男だ。今は神竜退治に全力を注いでいる。

 新品のフライパンのことは一旦忘れよう。


「でも、アリベルは神竜に襲われても水着を盗られただけだったな」


 もう一度、神殿から貰った資料を確認した方がいいみたいだ。というか、場所だけ確認して全然読んでいない。発生場所が海だと聞いて、各々海水浴の準備を始めてしまったからだ。

 俺もアリベルも、神竜退治を舐めすぎている。

 地面の石に術式を書いて、スクリーン代わりにする。

 保存していた資料を呼び出すと、石に浮かび上がるように資料が表示された。

 ページを進めていくと、海に引きずり込まれた被害者の写真が出てきた。

 水死体を見てアリベルは小さく叫んで目を反らしたが、俺と同じ殺し屋のみむねは魚を食べながら平気な顔で眺めていた。


「全員女だなぁ。まさか、嫁にするつもりだったりして」


「年齢はバラバラだな。見境のない奴だ。狩刃と一緒」


「それは関係ないだろ。あ、でも……」


 1つ共通点を見つけて、俺はみむねを見た。

 それから、アリベルを見て、アリベルが水着だけで済んだ理由がわかる。


「みむねはオトリにならないな。それより、委員長が危ない」


「ルカ、何かわかったの?」


「被害者は全員胸がデカい。あの神竜は、巨乳が好きなんだ。だからアリベルとみむねは絶対に襲われない」


「ちょ……!絶対ってことはないわよ!」


「みむねだって、もう少ししたらナイスバディになるんだぞ!」


「そうか、じゃあ危ないな。気をつけろよ。戯言はともかく、委員長が心配だ。アリベルは絶対大丈夫だから、泳いで戻ろう」


「だから、絶対大丈夫ってことはないでしょ!」


「みむね、いつまでも食ってないで手伝ってくれ」


 俺は魚を齧っているみむねを引き摺って、アリベルに浮輪を被せて海に戻った。

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