油で揚げれば食べられる
俺とアリベルは委員長が指差した岩場に向かった。
のんびり泳いで向かったけど、意外と沖の方で深くてなかなか到着しない。
こんな時に海の底から神竜が出てきたらまずいなぁと思っていたけど、俺の後ろのアリベルはもっと余裕がない。
浮輪にしがみ付いて、ばちゃばちゃとバタ足をしながら、俺に遅れてついてきている。
「待ってよ!もうちょっとゆっくり行ってよ!」
「浮輪なんて持ってこないで、普通に泳げばいいだろ?」
「え、だ、だって、いきなり深くなって……ふあぁぁ……!」
波に流されそうになって、アリベルが俺の頭にしがみ付いた。
完全に水中に押し込まれて、一瞬冗談抜きで溺れかける。
「今の、本気でヤバかったぞ」
「ごめん……!わざとじゃないんだけど……!」
「アリベル、確認だけど、泳げるんだよな?」
「お、およっ、泳げるわよ……!ふえぇぇぇ……」
「泳げるやつは、ふえぇって言わない」
「わわわわわ……!」
アリベルは、浮輪にしがみ付いたまま波に流されそうになっている。
この辺りは、岩場が近付いて、波が不規則に荒れているらしい。
砂浜に戻るのも今更遅いから、俺は浮輪の紐を掴んで引っ張って先に進んだ。
ごつごつした岩場に到着して足が付くようになると、アリベルはぐったりと項垂れて動かなくなった。
「あー……死ぬかと思った……」
「アリベル、何で来たんだよ。沖の方は危ないって言ったのアリベルだろ」
「だ、だって……」
「俺1人で倒せるから。とりあえず、ここで大人しくしてろよ」
「でも、ルカにばっかり頼るわけにはいかないでしょ。私だって竜騎士にならないと」
「なんで?あ、もしかして、俺が竜石を持ち逃げするんじゃないかと思ってんのか?」
「はぁ?違うわよ!そんなこと思ってないわ」
「大丈夫だって。竜騎士の肩書に憧れはあるけど、俺は余所者だしそこまで興味ないから。神王の候補者争いは勝手にやってくれよ」
「何よ、その言い方!ルカだってソフィアの陣営なんだから、ソフィアが神王になれなかった時に殺されるのは私もルカも一緒なんだからね」
「俺は、狩刃以外に殺される気はしないから、だいじょーぶ」
「もしかして、あんた1人だけ逃げるつもりじゃないわよね!た、たしかに……こっちの都合で呼び出されて巻き込まれて、悪いことしたとは思うけど……でも、それしか方法がなかったんだから、しょうがないじゃない……」
アリベルが色々言っているけれど、俺は岩場の影をフナムシが走っているのが気になっていた。
昔、こんな感じの無人島に1週間くらい置いていかれた時に、フナムシを食べた思い出がある。
そのまま食べたら全然美味しくなかったけど、料理スキルを得た今の俺なら美味しく食べられる気がする。純鉄フライパンもあることだし。
せっかくだから捕まえて帰ろう。
「ルカ!聞いてる?!」
「ああ、半分くらいは」
「ちょっと……!真面目にやりなさいよ!」
「わかったよ。ごめんごめん。俺が銀竜でも黒竜でも瞬殺できるくらい強ければ済む話だもんな」
俺が素直に謝るとアリベルは一瞬止まった。
何か言いかけて、止まって、また波の音だけが聞こえた。
「……そんな、単純な話じゃないと思うけど。まぁ、うん、強いのはいいことよね。でも銀竜を瞬殺っていうのはやり過ぎかも……」
アリベルはぶつぶつ言いながらまた海の方を向いた。アリベルの独り言が終わるのを待ちつつ、俺は虫の捕獲に戻る。
「きゃあー!」
俺が数匹フナムシを捕まえたところで、いきなりアリベルの叫び声が響いた。
振り返ると、アリベルが空中に浮いて手足をじたばたさせて暴れている。
さっきまで泳げなかったのに、飛ぶ方法は身に付けたのか。
と、思ったけど、よく見ると半透明のぶよぶよした触手が海面から何本も伸びて、アリベルの体を持ち上げていた。
「ルカー!助けてー!」
「えぇー……イカか、タコかなぁ……軟体動物っていうか、前も芋虫だったし。俺はもっとかっこいい神竜を倒したいんだけど……」
「ばかー!文句言ってないで、早く助けなさいよ!」
「はいはい」
足に隠していたナイフを抜いて、アリベルの体にまとわりついている触手を切った。
これも焼いて食べられるのかと思ったけど、タコやイカにしては手応えが全くない。
切り損ねた触手は海の中にしゅるんと戻って、切れた触手は岩場に落ちるとびしゃりと水に変わった。
「あれ……?実体はないのか?アリベル、触った感じはどうだった?」
「うぅぅ……」
俺が真面目に神竜を倒そうと思って尋ねたのに、アリベルは腕を組んで胸を隠して震えている。
何か攻撃されたのかと様子を見ると、アリベルの水着の上がなくなっていた。
「み、水着、取られた……!」
「あー……水着すら持ってきていない俺が言うのは何だけど、神竜を退治しに来たんだから、もっとそれっぽい装備で来るべきだったよな」
「ソフィアとお揃いで買ったのに……ッ」
「わかったよ。探してくる」
俺のシャツは着たまま泳いでいたから既にびしょびしょだったけど、一応絞ってからアリベルに渡す。
アリベルが着ると胸は隠れたけど、濡れて透けていたから全然役に立っていなかった。
アリベルが俺のシャツを着て、岩場に膝を抱えて座った。
水着を取られて震えているのに、泣いていないのはさすがだと思った。
でも、どことなく気の毒だったから、フナムシは捕まえるのをやめた。
「潜るの?多分今のが神竜だと思うけど、大丈夫?」
「ああ、タコだったら諦めて戻ってくる」
「いや、倒しなさいよ!」
アリベルに叱られて、俺は全然気乗りしないまま海の中に潜った。




