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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第6章 水着回は6話目くらいがちょうどいい

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水着の女の子たちで溢れているはずの海岸で、俺たちだけは別件で忙しい

 青い海、白い砂浜。

 海水浴にはまだ少し寒いけど、水着の女の子たちで溢れてそうないい雰囲気。

 でも、海岸は俺たち以外の人影はなく、閑散としている。

 多分、海の家とか屋台が並ぶ時期なんだろうけど、今は一軒だけボロボロの海の家が意地のように営業していた。

 海にいる神竜が人を襲っているというのは、どうやら本当らしい。


「海って、あんまり好きじゃないんですよね……」


 そう呟いたソフィアは、せっかく新しい水着を着ているのに、パラソルの影の下で大きなタオルを被って縮こまっている。


「べたべたするし、砂が付くし……はぁ……」


「ソフィア、若いのに覇気がないなぁ」


「あらあら、ルカ君、私のこと、何歳だと思ってます?」


「えーと……12歳くらい?1人で寝れるしおねしょしてないし」


「あらあら」


 ソフィアは、俺の答えが合っているとも外れているとも言わなかった。

 海の家で買ってきたアイスを渡すと、ソフィアはタオルの中から手を伸ばして、元気なさそうにアイスをちびちびと舐めている。


 対して、アリベルと小紅は水に入ってきゃっきゃきゃっきゃと遊んでいる。

 神竜がいるから危ないって言っているのに、浅瀬なら大丈夫だろうととりあえず遊び始めていた。

 小紅は黒くて布地がギリギリの水着を着ていて、胸も尻もほとんど見えそうになっている。

 アリベルはソフィアとお揃いということで、ヘソは出てるけどそれほど派手ではない白いレースの可愛い水着だった。

 ソフィアも同じ水着を新しく買って着させられているのに、海の中に入るのを断固拒否している。


「ルカ君も、水着を買いに行ったんじゃないですか?お小遣いあげたのに」


 ソフィアに尋ねられて、俺はよくぞ聞いてくれたと荷物を探った。

 タオルと着替えの下に大切に詰め込んだ黒く光るフライパンを取り出す。


「……なんですか?それ?」


「街に買い物に行ったら、行商人が売ってたんだ。職人が一つ一つ作り上げた純鉄フライパン」


「ええ、それが?」


「熱伝導が半端なく良いから効率的かつ均一に食材に熱を加えることができるんだ。神竜を倒したら竜石を取る前に調理してみようかな」


「つまり、水着じゃなくて、フライパンを買ってきたんですね……あの、お小遣いならいくらでもあげますから、料理じゃなくて神竜退治を優先させてください」


「俺、本当に小料理屋を始めてみようかなぁ」


「…………それは、平和でいいですね」


 いつもよりも長い沈黙の後に、ソフィアが綺麗に話を終わらせた。


 俺は新しいフライパンをタオルで包んで荷物に戻した。

 ソフィアはアイスを舐めながら、どこかを見るでもなくぼんやりしていた。

 浜辺の端まで見渡せるような雰囲気なのに、何も見えない目。

 なんとなく、もったいないと思った。


 静かに海風に吹かれていると、委員長が海の家からパラソルに戻ってきて、日焼け止めを俺に差し出した。


「狩刃くん、日焼け止め塗った方がいいよ」


「ありがとう、委員長」


 委員長は、スクール水着みたいな紺色の地味な水着を着ている。

 普通なら色気がマイナスになるところなのに、逆に委員長のスタイルの良さが際立っていた。

 もしかして委員長が日焼け止めを塗ってくれるのかなと思ったけど、委員長は日焼け止めの瓶を俺に渡すと、海にいるアリベルにも別の瓶を持っていく。


「ところで、巴さんたちは、どうして来たんでしょうか?」


「さぁ……?」


 この海岸は、意外と近くだったから小紅スピードモードではなく馬車に乗って皆で来ることができた。

 アリベルが水着を買っている時に委員長とみむねに会ったけど、危険な神竜退治だしわざわざ誘ったりしなかったらしい。

 でも、面白そうな空気を嗅ぎ付けたみむねが付いてきてしまい、ついでに委員長もみむねの監視係に来てもらうことにして、今に至る。


「みむね、狩刃が神竜に殺されるところ、見たいなー!」


 パラソルの下で俺のアイスを勝手に食べていたみむねが元気に言う。

 みむねは花柄の水着を着ていたけど、さつまいもみたいな幼児体型をしていた。

 みむねの年齢は聞いていないけど、この体型だと8歳とか9歳とか1桁だと思う。


「だ、そうだ」


「ルカ君、敵が多いですね……」


「殺される気はないけど、神竜を探しにいくか」


「行ってらっしゃーい!」


「みむねも来るんだよ。ここまで乗せてきてやっただろ」


 俺はみむねを小脇に抱えて海に向かった。

 普通の綺麗な透き通った青い海だ。

 ヤドカリとか魚とか、小さな生き物が普通に生息している。

 神竜が住み着いて生き物が全て消えた死の海になっている、というわけではなさそうだ。


「やだー!狩刃と入水自殺なんてしたくないー!」


「違ぇよ。神竜を退治しに行くんだって」


「どうしてみむねが手伝わないといけないんだ!」


「アイス奢ってやっただろ。後で焼きそばも買ってやるから」


「ほんとに……!?」


 みむねは静かになって、俺の腕から抜け出してぱちゃぱちゃと海を泳いでいった。

 神竜の情報は何も教えていないけど、とりあえず何かを探しに行ってくれている。

 きっと、少しは役には立つだろう。


「ルカ、神竜はいそう?」


 一通り遊んで満足したアリベルが俺に駆け寄ってきた。

 その後ろの方では、委員長が小紅に日焼け止めを渡している。

 小紅の大きな尻尾を見ながら特段驚くこともなく、この尻尾にも日焼け止めを塗った方がいいのかどうか考えていた。

 委員長には小紅が神竜だということは教えていないのに、相変わらず順応性が半端ない。✏️(「神竜だってことは教えてないのに」→「神竜だということは教えていないのに」)


「わかんねぇなぁ……もっと沖の方にいるのかも」


「沖の方……その、深いところは、ちょっと危ないわよね」


「アリベル、泳げるんだよな?」


「お、泳げるけど!でも、水中で戦うことになったら不利だし、あんまり陸から離れるのは危ないでしょ!」


「うーん……小紅にシャチとかになってもらおうか。小紅、どうだ?」


 声を掛けると、小紅は尻尾を揺らしながら近付いて、俺の背中に抱き着いてきた。

 むにゅん、と大きくて柔らかいものが俺の背中に押し付けられる。


「狩刃様、まさか緑竜を倒す程度のことに、小紅の力を使うことはないでしょう」


「え……?もしかして、手伝ってくれない感じ?」


「小紅が来たのは狩刃様と肌を合わせるためですわ。緑竜のことなど放っておきましょう」


「ダメだ……今日の小紅はセクシー担当で役に立たない」


「それなら、こんな奴は無視してさっさと倒しましょう!ルカ、行くわよ!」


 アリベルが俺の腕を掴んで小紅から引き剥がした。

 そして、ばしゃばしゃと水を蹴り上げながら、沖の方に向かっていく。


「ちょっと待てよ。当てもないのに海を探すのは無理だって」


「人を襲うんだから、人間を見つければ寄ってくるでしょ!」


「それもそうだな。委員長、危ないから砂浜に戻ってた方がいいよ」


 一般人の委員長が襲われたら危ないと思って声を掛けたけど、委員長は海を見つめてじっと立ち尽くしていた。


「委員長、どうしたの?」


「狩刃くん、あのね」


 委員長は陸から少し離れた、沖の岩場を指差した。


「あっちの方、何かいるみたい」


「何かって?」


「何だかわからないけど、何かいるみたい」


「ふーん」


 委員長が指を差す方には何も見えない。

 でも、前に神竜の居場所を突き止めたのも委員長だし、行ってみる価値はある気がする。


「委員長、前みたいに糸とか見えてる?」


「ううん……でも、何か長いのがあるかも」


「ふーん?前の神竜とは能力が違うのかな……じゃ、見てくるよ」


 委員長は少し不安そうな顔をしたけど、砂浜に戻るように言うと素直に頷いた。

 ただ、行こうとする俺の袖をちょっとだけ引いた。


「気を付けてね、狩刃くん」


「大丈夫、大丈夫」


 俺はアリベルと一緒に岩場の方へ向かった。

 委員長は砂浜で手を振っていた。

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