予期せぬ訪問者と修羅場一歩手前
神竜を倒したんだから大金が転がり込んで来る、と思ったけど、そんなに簡単な話ではないらしい。
神殿に申請をして色々と審査があって、俺が倒したということを証明ができて、それでやっとお金が支払われる。
一番レア度が低い緑竜だから期待したほどじゃなかったけど、でかい芋虫を倒しただけで貰えるお金としては充分過ぎる臨時収入だから絶対に欲しい。
「でも、どっちにしても、まずは首都に行かないといけないのか……」
「あんた、まだそんなこと言ってるの?」
病人用の食事を持って来てくれたアリベルが、俺の独り言に突っ込んで来る。
怪我は翌日には治っていたのに、アリベルはここ最近ずっと俺のことを怪我人扱いしている。
俺の唯一の仕事の料理もさせてくれない。
リビングでテレビを観ていると服を捲って傷を確認してくるし、風呂に入ると死んでないか外で見張っているし。
「しばらく大人しくしてなさいよ。傷口が開くでしょ」
「だから、もう治ったって。なぁ、少し休みくれよ。首都に行って登録して来るだけだから」
「あのね、田舎にいるから何とかなってるけど、あんたは異邦人。下手にフラフラしてると前みたいに捕まるわよ」
「大丈夫。今度はすぐに逃げ出して来るから」
「捕まらないようにしなさいよ!それに、一般人でも賢者の石や異邦人に否定的な人もいるの。異邦人だって知られたら襲われるわよ」
「へー?そんな奴がいるんだ。ロハス的な?」
アリベルも、術式で賢者の石の力を使うのはあんまり好きじゃないって言ってたし、案外珍しくない感覚なのか。
でも、賢者の石を持つ神王がこの世界のトップで、インフラの全てだ。
それを否定して生きるとは、どこにでも癖の強い思考の持ち主がいるものだ。
「まぁ大丈夫だよ。走って逃げるよ」
「怪我人が無茶言わないの」
「だから、もう治ったって言ってるだろ……あ、そうだ、ならさ、手合わせしようぜ」
俺は食べ終えた食器をそっと隠しつつ提案した。
アリベルは、普通の食事よりも病人用の食事は上手……とまではいかないけど、少しだけマシだ。
でも、残すと悲しそうな顔をするし、完食するとあからさまに嬉しそうな顔をして次回から量を増やしてくるし、面倒だから食器は後で隠れて片付けている。
俺が食器を隠している間、アリベルは気付いていないふりをしていた。
多分、気付いてはいるんだろうけど。
「手合わせって……私は剣の稽古でやるけど、あんたの武器は?」
「素手でいいよ。俺がどれだけ元気になったかわかるし、アリベルがどれだけ強いのか確認しておきたいし」
俺の上から目線な言い方に、アリベルは少しムッとした表情を見せる。
ありがたいことに俺の食器のことも忘れて、腰の剣に触れて元軍人らしい凛々しい立ち姿になった。
「ふーん……そこまで言うなら、元・神王近衛兵第5特別監理隊員の力を見せてあげるわ」
「な……なんだ、そのかっこいい肩書は……!?」
それに対して、俺の肩書は狩刃家三男。
俺は自分が狩刃家の三男だってことを誇りに思っているけど。
でも、この世界は狩刃の名前が知られていない。
狩刃家三男って、長男と次男に虐げられている可哀想な立場ってことを自白しているだけなんじゃないか。
「……俺の負けだよ」
「なによ!ちゃんと勝負しなさいよ!」
アリベルの肩書には勝てない。
不戦勝で終わってアリベルは不満そうだったけど、俺を首都に行かせないという目的は達成して大人しくなった。
仕方ないから、諦めてリビングでゲームでもしていよう。
この世界のゲームは操作方法が独特だけど、なぜかコントローラーは64と似ている。
そう思って部屋を出ると、玄関のブザーがびーっと鳴った。
誰か、客が来たらしい。
しかし、ソフィアやアリベルに郵便は滅多に来ないし、この屋敷に人が来ることは基本ない。
時々近所の畑から農作物を持って来てくれる爺さんがいるけど、あの人は勝手に玄関前に野菜を積んで行く。
「俺が出るよ」
ここは俺の役目だ。アリベルを下がらせて玄関に向かう。
覗き穴から窺うと、扉の前にいたのは年上の女性だった。
年は20代の後半くらいに見える。腰まで届く黒髪に、同じく真っ黒な切れ長の瞳。
小さなレンズ越しに見ても分かるくらいの美人。
しかし、一般人とは違う気配がする。
他の神王候補者に雇われた殺し屋かと疑ったが、同業者の臭いはしない。どちらかといえば、こちらに好意的な気配がする。
爆弾を体に巻いていたり、毒ガスを噴射したりはしなさそうだ。一か八か、開けてみよう。
「はい、どちら様?」
「あぁ、狩刃様!」
開けた途端に、その女性が俺に抱き着こうとしてきた。
武器を持っていないのは確認済みだけど、一応避けておく。
勢いのまま女性は床に転がったけれど、負けじと俺の足に抱き着いてきた。
「あぁ、あぁ!見間違いようのない、命の恩人……!狩刃様、心も体も全て、お好きなようにしてくださいな」
「えー……誰?アリベルの知り合い?」
床に転がったまま俺の足にしがみついている女性は、上品な見た目に似合わず全然立ち上がる気配がない。
そう尋ねて振り返ったけど、女性の言葉の後半だけ聞き取ったアリベルは何か勘違いしているようだ。
ソフィアを俺から守るようにして、既に剣に手をかけている。標的は、当然俺だ。




