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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第4章 新たな仲間(?)が加わった

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軽傷の方が大騒ぎするタイプ

 心配性のアリベルに担がれて屋敷に帰ると、夕飯の準備もさせてもらえずに病院に連れて行かれそうになった。

 今夜の夕飯は、俺にとって久々の鍋の予定だったのに。

 どうにかアリベルを振り切って、風呂に入って部屋に引っ込んだ。

 寝るには早いけど、アリベルのあの様子ではリビングでゴロゴロしていると死んでいると間違えられて葬儀屋でも呼ばれそうだ。

 怪我人らしく、大人しく早く寝ることにしよう。

 みむねに付けられた包帯を剥がしてみると、意外なことに妙な臭いは消えている。


「しかも、何か、治りが早くないか……?」


 派手な傷だったのにもう皮膚がくっついて傷が目立たなくなっていた。

 元々の俺の治癒力とかアリベルが賢者の石を使ってくれたのとかあるけども、それにしても早い。


「眠水家秘方の漢方すごいな……」


 眠水なんてただの古臭い歴史があるだけの自称殺し屋だと思っていた。これは評価を改めなくては。


「にしても、俺は殺し屋なのにボディーガードみたいなことやってるし、もっと筋肉付けた方がいいのかな」


 外でうろうろしている奴が自然な流れで話に入れるように口に出して言ったのに、部屋の外から返事は返って来ない。

 しょうがないから、ドアを開けて外を覗いた。


「アリベル、何してんだよ」


 さっきから部屋の前で入ろうかどうしようかフラフラしていたアリベルは、中に入るのを諦めて廊下の隅で膝を抱えていた。

 俺が出て来たのを見て、ビクリと震える。


「人がいると寝られないんだよ。自分の部屋に戻ったらどうだ?」


「……」


 そう言えば怒って戻って行くかと思ったのに、アリベルは立ち上がって、俯いたまま俺の前に立った。

 しかし、黙ったまま何も言わない。


「どうしたんだよ?」


 またぼんやりしているのかと思ってアリベルの顔を覗くと、黙ったまま大きな緑の瞳からボロボロと涙を流していた。


「ど……どうしたんだ?!」


「謝りたくて、怪我させちゃったから。私が飛び出したせいで……ごめんなさい」


「大丈夫だよ。もう治ったから、ほら、元気元気!」


「でも、全然、役に立たなかったし、何にもできなかったし」


「あ、みむねに言われたこと、気にしてるのか?後で俺がきつく言っておくから」


「いい。本当のことだもん……」


「そんな訳ないだろ。アリベルはいつも頑張ってるって。今日は調子が悪かっただけだ」


 何だかよくわからないけど、俺は必死になってアリベルを慰めていた。

 いつも煩いアリベルのことだから泣くときもぎゃあぎゃあ騒ぐと思っていたのに、声も出さないで震えている。

 顔をぐしゃぐしゃにして袖で拭っているのも、話の通じない園児を相手にしているみたいな気分だ。

 子供と滅多に接しない俺にはどうしたらいいのかわからない。


 慰めの言葉も尽きてどうしようかと俺も俯くと、アリベルの足元に涙が次々と落ちて床で散っていた。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


「もう治ったって言っただろ」


 どうすればいいのかわからなくて、顔を覆っているアリベルの腕を下させて、潤んだ瞳と目を合わせる。

 いつみたいに唇を合わせて、力を吹き込もうとしたけど今は必要ないかと思ってすぐに離れる。


「な、何で……?」


「なんとなく、泣き止むかなって思って」


「な、泣き止んだわ」


「それは良かった。じゃあ、おやすみ」


 アリベルの体をくるりと反転させて自室に向かうように背中を押すと、アリベルも「おやすみ」と言い残して自分の部屋に向かって行った。


 廊下に1人残って、アリベルの部屋のドアが閉まる音が聞こえるまで待つ。

 なんで自分が必死になって慰めていたのか、よくわからなかった。


「アリベル、大丈夫かな?」


 俺がまだ隠れている別の奴に聞こえるように言うと、廊下の別の影からソフィアがそっと姿を現した。


「平気ですよ。一晩寝れば元に戻りますから」


「ソフィア、盗み聞きなんて趣味が悪いな」


「違いますよ」


 ソフィアが手招きして、俺が近付くとぺとんと小さなソフィアの手が俺の体に触れた。

 治りかけの傷から熱が引いて痛みが消える。


「あらあら、もう殆ど治っていますね。ルカ君、便利な体ですねぇ」


「ソフィアほどじゃないよ。その手品みたいなの、賢者の石の力とは別なんだよな?」


「ええ、傷を治すことはできませんが、痛みを無くすことはできます」


「へー?どうやるんだ?」


「怪我が治ったわけではないので、今日はちゃんと休んでくださいね」


「術式とかで再現できる能力かな?」


「うふふ、ルカ君、勉強熱心ですね」


 ソフィアは俺の問いには答えないまま、車椅子とは思えないくらいのスピードで自分の部屋の方に戻って行った。


 ソフィアは、その力を使って俺を助けてくれるけど、俺に詳しく教える気はないらしい。

 あの飄々として素性が未だ掴めないソフィアに口を割らせるのは難しそうだ。

 さっきまで殊勝な態度だったアリベルに聞き出してしまえばよかったか。

 でも、2人の仲の良さだと、いくら泣いている時でもソフィアが隠していることをアリベルは話さないだろう。


「てかさぁ、筋力よりも、もうちょっと医学的なことを身に付けといた方がいいのかなぁ……」


 治療や人体改造は、兄貴とゆぅ兄の得意分野。

 俺は知識や技術は叩き込まれたけど、自分の体に治療をするという発想がないから絆創膏1つ貼れない。

 アリベルにまた泣かれても困るから、今後はスプラッタにならないように気を付けるか。

 

 そう考えながら部屋に戻ると、窓の外に星が出ていた。

 この世界の星は、元の世界とは並び方が違う。

 俺が来てからしばらく経ったけど、まだ慣れない。

 慣れなくていいのかもしれないけど。

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