免許証の偽造は有印公文書偽造罪
夕方まで街を回って色々話を聞いても、神竜に関する情報はそれ以上得られなかった。
昨日の夜に家の裏がうるさかったから神竜だと思う、とか、家には昔銀竜が住み着いていたって口伝が残ってる、とか。
妄想や都市伝説に近い情報。胡散臭い雑誌の投稿コーナーを読んでる気分になる。
夕食の買い出しをして、買ってきた菓子パンを食べながら帰路に就いた。
「結局収穫なしかぁ……そういや、神竜って形が決まってないのに、どうやって神竜だってわかるんだ?」
「あんた、そんなことも知らずに何を調べてたのよ。神竜には竜石が付いているから見ればすぐにわかるでしょ」
「でも、ちょっと見ただけでそこまで確認できないだろ?目撃情報ってのは、そんな至近距離で見るばかりじゃないし」
「それは……なにか変わった生き物がいたり、何となく不思議な現象が起きたら、多分神竜だろうなぁって、そういうことになってるのよ」
「適当だなぁ。それならさ、その辺で巨大な獣を倒して神竜を倒したって言えないかな?」
「あんまり失礼なことを言わないの!神竜はこの世界では神聖な生き物だと決まってるのよ……まぁ、今時祈りを捧げるのはおじいちゃんおばあちゃんくらいだけど」
「なるほど、古臭い習慣として残ってるのか」
「それに、神竜を倒したことを認められるには、竜石を神殿に持って行かなくちゃいけないの。ちゃんと認められれば、竜騎士候補としてライセンス登録される」
「ふーん、なんか、そういうのいいなぁ。俺、免許証も偽造のしか持ってなかったし、倒したら登録しようかな」
「登録は義務じゃないし、好きにすれば。でも、わざわざ首都の神殿まで行くの?」
「あー……馬車で結構かかったし……面倒かも……それに、今日だって全然見つかんなかったし……」
「ええ、でも襲われなかっただけ良かったですね。危険な神竜がいないとわかっただけでも充分な収穫です」
「なんだよ。もしかして、今日いきなり神竜が襲って来る可能性があったのかよ?」
「はい。神王は民はもちろんのこと、神竜をも司る存在です。ほとんどの神竜は神王に従いますが、稀に神王に逆らう神竜もいます」
「へー?従うのが嫌だから、神王や神王候補者を殺そうとして来るってこと?」
「ええ、だから竜騎士の位が高いんです。神王を守り、民を守るために。緑竜や蒼竜ならともかく、黒竜や銀竜が神王に逆らうと国を滅ぼすこともあり得ますから」
「ふーん、色々大変だ。アリベルは竜と戦ったことがあるんだっけ?どんな形をしてた?」
「……」
アリベルは、巴とみむねと別れてから妙に無口だった。
今も何かずっと考え事をしていて、俺が尋ねたのに気付いていない。
「アリベル、どうした?」
「あ……えっと、何でもないわ。何?」
「今日は怒ったりぼーっとしたり忙しいな。どうしたんだよ?何か気になってんのか?」
「あの……同期って言ってたけど、巴とルカはどういう関係なの?」
「え?ああ、『委員長』って言葉の意味がわからなかったのか?委員長は、クラスをまとめてくれる役職だ。俺との関係っていうと……俺がイジメられてる時に庇ったり、俺が悪い事をしたら駄目って言う役目かな」
「な……!あの小娘、あんたよりも強いの?!」
「俺にも色々事情があるんだよ。でも、さっきから友達でもないって言ってるだろ。何をそんなに知りたがってるんだ?」
「友達でもない人間と抱き着いたりしない」
アリベルが頬を膨らませて、俺と目を合わせないで言った。
またソフィアがアリベルの気持ちを丁寧に解説してくれないかと期待したけど、ソフィアは難しい顔をして1人で頷いていた。
ソフィアは多分、アリベルがもやもやしているのを観察して若干楽しんでいる。
「なんだよ……?あーわかった」
試しにアリベルの体を引き寄せて、首に腕を回してみた。
アリベルは小柄だけど、鍛えているだけあって体はしっかりしている。
そして胸もささやかだし、背中にも腰にも脇にも武器を仕込んでいるから色々と固い。
「な……?!」
「ほら、これで俺とも友達。良かったな」
「ば、バカー!!」
アリベルは大きく叫ぶと、俺にビンタをしようと手を大きく振った。
俺が避けると、姿勢を崩してそのままの勢いで屋敷に駆け込んで行った。
屋敷の中からドタドタと足音と「きゃあ!」という声が聞こえてきた。多分また廊下の角に何かをぶつけたようだ。
「あれ?やっぱり怒ってんなぁ……」
「ルカ君、何をしたんですか?」
「ああ、委員長がして来たのと同じように、アリベルに抱き着いた」
「それは、どのような判断で……?」
ソフィアに尋ねられて、俺はさっきのお返しの意味もあってアリベルのことを説明する。
「アリベルは、友達がいないんだろう」
「うっ……まぁ……」
「今まで大変だったみたいだし、正直キツイ性格してるし、まぁ仕方ない。だから、一般的に友達とは何をすべきか知らない」
多分、アリベルは戦友とか同僚はいるけれど、仕事が関わらない普通の友達はソフィア以外いない。
いや、ソフィアも普通の友人というには向けている愛情が重すぎる気がするけど。
だから、普通の友達は何をすればいいのか知りたくて、俺と委員長のことを色々気にしているんだ。
「俺はアリベルが本当は優しいいい奴だってわかってる。軍人っていっても普通の子だよな」
「そうですね……」
「一緒にいる間は、俺が友達の練習相手になってやるよ。アリベルにはこれから沢山友達できるだろうから、その時に困らないようにさ」
「うーん……」
「って言ってもさ、俺も友達いないからよくわかんないんだけど」
ソフィアは少しだけ笑った。
目が見えないのに、笑うと表情がわかる。
「ルカ君も、友達がいないんですか」
「ああ。仕事ばっかりだったから」
「……そうですか」
ソフィアはそれ以上何も言わなかった。
でも、さっきより少し顔が柔らかくなっていた気がした。
委員長はともかく、みむねは悪い手本だ。
いきなり切りかかって来る奴は友人ではない。アリベルが真似をしないように気を付けないと。
「頑張って、くださいね……」
「ああ、友達100人目指そう!」
俺が力強く言うと、なぜかソフィアが頭を抱えている。
俺の解釈が間違っていたのかと思ったけど、アリベルに友達が100人できるのはいいことだし、今のところ影も形もわからない神竜を探すよりも現実的だ。




