気を遣うならボッチでいい
委員長とみむねの2人は、俺と同じ世界からこの世界に招かれた異邦人。
でも、ソフィアが俺の他に異邦人を召喚したって聞いていないから、他の候補者が石の力を使って招いたんだと思う。
異邦人を召喚するのって結構大変らしいから、招いた側の人間は探しているんじゃないか。
俺もソフィアとアリベルが探してくれなかったら、あの日当たりが悪い地下牢で飽きるまで暮らすことになっていた。
異邦人ってなかなかレアっぽいし。今のところ3人揃ったから、体感的には銀のエンゼルくらいのレア度か。
「なぁ、あの2人は誰に呼ばれたのかな?」
店員に呼ばれて委員長とみむねが店内に入った隙に、ソフィアとアリベルに聞いてみた。
ソフィアの肩を突くと、ソフィアの首がかくんと傾いて目を擦る。
「ソフィア、聞いてた?」
「……聞いてました」
「いや、寝てただろ。アリベルはどう思う?」
「何が?」
アリベルからは突き放すように短い返事が返ってきた。
いつもは積極的に噛み付いて来るのに、こんな風に不機嫌100%を露わにするのは珍しい。
「何で怒ってんだ?」
「別に」
「じゃあ、こっち見ろよ」
「ヤダ」
「何だよ。怒らせるようなことしたか?」
「なによ、女の子に囲まれてデレデレしちゃって。みっともないわね」
「はぁ?普通に話してただけだろ」
「普通じゃないでしょ」
それだけ言うと、アリベルはそっぽを向いて黙ってしまった。
「ルカ君、怒らないでくださいね」
アリベルが機嫌を損ねているのを察したらしく、ソフィアがはっきりと目を覚まして俺の腕を引いた。
「俺は怒ってないけど、アリベルが怒ってんだよ」
「あの、ですね。アリベルは幼い頃から大人に混ざって軍の訓練を受けていて、あまり同世代の子と関わったことがないんです」
「へー、それで?」
「本当はルカ君が来てくれて嬉しいのに、素直になれないんです。アリベルって意地っ張りなんですよね……それで、ルカ君が自分よりも仲の良さそうな異性の友人に囲まれているのを見て、嫉妬しているんです」
「なるほど。アリベル、嫉妬しているのか?」
「うるさい!ソフィアも余計なことを言わないで!」
ソフィアに勝手に心の内を解説されて、アリベルが涙目になって怒鳴る。
聞いていた俺だって、ソフィアも案外デリカシーがないよなとは思ったけど。
「アリベル、耳まで赤いぞ」
「う、うるさい!見るな!」
「まぁどうでもいいだろ。真面目な話に戻ろう」
「良くないです。ルカ君、これも真面目な話ですよ」
「そうよ!はっきりさせなさい。あの2人とはどういう関係なの?!ただの友達?それとも、か、か……彼女、とか?!」
ソフィアが味方に付いて、アリベルもいつもの調子を取り戻していた。
2人で結託して俺に問い詰めて来るから、答えないと話が進まなさそうだ。
「だから、友達じゃないって。えーっと……この世界にも学校ってあるよな?委員長はそこで同じクラスなだけで友達じゃない」
「つまり、単なる同期の1人ってことね」
「そうそう。で、みむねは見当違いに俺を恨んでいて、殺したがってる。友達の対極にいる存在で、会うのはこれで2回目」
「そうなんですか。良かったですね、アリベル」
「ええ……って、私はこいつが女の子侍らせていても何とも思わないし!」
アリベルが赤い顔をして立ち上がった。
でも、さっきよりも機嫌を直しているみたいだし、そろそろ話を戻したい。
「俺がこの世界に呼ばれた時、みむねが傍にいたんだ。もしかして、あいつ付いて来ちゃったのか?」
「そうですね。石がルカ君を招いた時に、巻き込んでしまっただけかもしれません」
「なんだか雑な仕事だなぁ……」
「石がやることですから。それほど繊細なことはできないんですよ」
「なら、委員長も傍にいたのかな……近所だから、なくはないけど」
「どうでしょうね。もし、私がルカ君を呼ぶのに巻き込んでしまったのなら、彼女たちの生活を保障するべきだと思います……ただ、他の候補者が賢者の石を使って招いた可能性も捨てきれません」
「だよなぁ……委員長はともかく、みむねはあれでも由緒ある殺し屋だからな」
「ならば、異邦人を招くのにそれなりの犠牲を払ったはずです。彼女たちとあまり親しくすると、私が異邦人を横取りしたと思われるかもしれません」
ソフィアは俺を召喚するのと引き換えに、歩く能力をほとんど失ったらしい。
聞いたところによると、元々素質のあったソフィアだからその程度で済んでいて、本当なら異邦人を招く代わりに死ぬことだってある。
そうやって命を懸けて手に入れた異邦人を横取りすることは、候補者同士でも許されない。
俺が私兵団を殺しちゃったことを伯爵が許してくれたのは、ソフィアが招いた俺を勝手に殺そうとしたことに後ろめたく思っているから。
「まぁ、俺たちといるのが安全ってわけじゃないし。仕方ないか……」
委員長がドレスを着て男性に接客する店で働くなんて、正直全然イメージに合わないから嫌なんじゃないかと思う。
ソフィアの屋敷で一緒に暮らせれば委員長も楽だろうけど、ソフィアも候補者の1人として狙われているから、逆に危険かもしれない。
みむねに関しては、本当にどうでもいいけど。
「ルカ君。友人ではないと言っていたわりに、彼女たちのことを案じているんですね」
「そうね……なんでそんなに心配しているのかしら?殺されかけてるのに」
何が面白いのかソフィアが話を蒸し返して、アリベルの表情に不穏な暗さが戻る。
これ以上面倒くさい話にならないように店から出ようと立ち上がると、ちょうど巴とみむねがテラスに戻って来た。
「委員長、ありがとう。俺、帰るよ」
「え……あ、そうだよね」
急に言ったから少し驚いていたけど、委員長は手を振って見送ってくれた。
みむねは殺すとか死ねとか過激な言葉を封じられて、話すことがなくなったのか黙って委員長に抱き着いている。
でも、俺をひたすら睨み付けて視線だけで殺意を伝えていた。
「さあ、聞き込みに戻ろう。俺たちは忙しいんだ」
みむねに絡まれる前にソフィアの車椅子を押してさっさと店を出る。
裏通りを出て、聞き込みだか食べ歩きだかわからないけど仕事に戻ろうと思ったら、委員長が店を飛び出してきた。
「か、狩刃くん!」
「ん?委員長、何?」
「あの……時々でいいから、お店に来てくれないかな。狩刃くんといると、元の世界に戻ったみたいで、すごく安心するんだ……」
「えーっと……」
一応、ソフィアに許可をもらっておこうと窺うと、ソフィアは仕方なさそうに頷いた。
あんまり親しくしちゃ駄目だって言ってたけど、時々会うくらいなら他の候補者たちに知られて取引材料に使われることもないだろう。
「わかった。街に来たらここに寄るよ」
「ありがとう、狩刃くん!」
委員長が嬉しそうに言って、その勢いで首に抱き着いてきた。
同級生に抱き着かれるってあんまりない経験だなぁとか考えていたら、俺の後ろでアリベルがぎりぎりと唇を噛み締めている気配があった。
面倒だから気付かないフリをする。
よくわからないけど、候補者争い云々の前に、委員長とあまり親しくするとアリベルに殺されるような気がする。




