全然面子が変わらない
昼過ぎになって、夕飯の買い出しに行くついでに神竜を探しに行こうということで、俺とアリベルとソフィアは3人で街に出掛けた。
神竜って、そんなちょっとコンビニ寄るみたいな感じで探して見つかるものなんだろうか。
屋敷のすぐ近くの街は、食料品とか消耗品を買いに行く普通の街。
買い物はアリベルの仕事だけど、荷物持ちで俺も何度も来ている。
「こんなところに神竜がいるのかなぁ……」
山の隙間に現れた広い平地の、賑やかな街。
子供が楽しめるようなおもちゃ屋とか、女子が楽しめそうな服屋とか、男が喜びそうな色っぽい店まで、何でも揃っていて人が溢れていた。
休日の渋谷までは行かないけどそこそこの賑やかさで、妖怪とか宇宙人みたいな神竜が生きるには、意外すぎる生息環境だ。
「街外れの森とか、周囲の山で目撃されているらしいです」
「ふーん?じゃあ、そっちを探した方が早くないか?」
「せっかくソフィアとお買い物できるのに、文句が多いわね……ソフィア、私はちょっと聞き込みしてくるわ」
アリベルは、台車に木の実を積んで売っている商人に駆け寄った。
車椅子のソフィアや異邦人の俺と比べて、アリベルが一番怪しまれない。
アリベルは刃物を振り回さなければ可愛いし、兵士の訓練も受けていたから何かあっても自分の身は自分で守れるだろうし。
ここはアリベルに任せた方がよさそうだ。
「神竜は人間に近付いて来る個体もいるんです。だから度々目撃情報があるんですよ」
「野生の熊みたいだなぁ。なら、人間が神竜に襲われるってことは?」
「ええ、時々。でも、地域によっては神竜を高貴なものとして信仰している場合もあります」
「そうか、この街はどうだろうな」
もし、この街で神竜が神様扱いされているのなら、余所者の俺が倒すと面倒なことになりそうだ。
害獣みたいに嫌われていてくれたら、倒して有難がられることもあるだろうけど。
せっかくソフィアの危険が少ない田舎の街に避難してきたんだから、できれば住民に嫌われないように平穏に過ごしたい。
俺は色々考えていたのに、ソフィアはそんなことよりも、と急いた様子で俺の袖を引っ張った。
「ルカ君、なんだか甘い匂いがしてませんか?」
「ああ、ドーナツか?近くの店で売ってる」
「どーなつ……?」
ソフィアはドーナツを知らないみたいで、俺の言葉に首を傾げて黙った。
この無言は催促だと判断して、俺は露店に寄ってドーナツを2つ買ってソフィアに渡す。
「はい、熱いから気を付けて」
「はい!わわ……っ、熱い……甘い……!」
ソフィアは神竜の話など頭から消え去ったようで、熱いドーナツにわたわたと手間取りながら必死に食べている。
神王候補だから人目を気にしたり狙われたりして大変なんじゃないかと思ったけど、ソフィアは随分リラックスしている。
多分、田舎だからソフィアの顔はあんまり知られていないんだろう。
ソフィアがぽろぽろと零しながら食べているから、俺とソフィアの周囲に小鳥が集まっていた。
平和の象徴みたいな小鳥に囲まれながら待っていると、聞き込みを終えたアリベルが戻って来る。
「2週間くらい前、緑竜を街外れで見た人がいるって。山の方に消えて行ったって言うから、また現れる可能性は低いと思うけど……」
「そうですね。人間に寄って来る神竜だったら、そのまま街に居着くはずですから」
「でも、他の神竜もいるかもしれないし、もう少し情報収集しましょう!ソフィア、美味しそうな物を持ってるわね……」
アリベルは、俺が持っているドーナツを羨ましそうにじぃっと見つめて来る。
多分そうなるだろうと思っていたから、俺はもう1つ買った分をアリベルに渡した。
「街を周りながら探してみましょうか」
ソフィアは指先に付いた砂糖を舐めながら楽しそうに言った。
この様子だと、神竜の情報よりも、もっと美味しい物が食べられることを期待している。
「そうね!せっかくお買い物に来たんだもの。面白い物があるといいわね」
ドーナツを食べ終わったアリベルも、何だか緊張感のない様子で歩き出した。
ソフィアの車椅子を押すアリベルの横を歩いていると、裏道から出て来た女性が俺を見て足を止めた。
「狩刃くん……?」
呼ばれてそっちを見ると、ドレスを着て化粧をした女の子が俺を見て目を丸くしていた。
薄い布地で体のラインがはっきり分かる、下着が見えないギリギリの短さの赤いドレス。
派手にセットした髪の遅れ毛が、大きな胸の谷間に流れている。
色っぽい知り合いを何人か思い返したけど、こんな奴は知り合いにいない。
というか、この世界に俺の知り合いはいないだろ。
そう思って女の子を見ていて、それが誰なのか気付いた。
メイクで目が2倍くらい大きくなって、化粧でカラフルになっているけれど、顔をよく見ると同じクラスの委員長だった。
「あれ?委員長、何でいるんだ?」
「狩刃くんこそ、な、何で……?」
委員長が見開いた大きな目が、みるみる潤んで行く。
足が震えて倒れそうになった委員長を支えると、委員長が俺の腕に抱き着いて、柔らかいものが肘に押し付けられる。
委員長はいつも真面目で露出も化粧も皆無だったけど、意外にもこういう格好も似合っていた。
「誰よ。あんたの知り合い?」
背後でアリベルが警戒した声を上げた。
ソフィアの車椅子を押したまま一歩前に出て来るアリベルの目が、委員長の腕の位置を正確に捉えている。
「そう。俺と同じ世界の人間」
「それは……」
俺が答えると、ソフィアは訝し気な表情になって言葉を止めた。
委員長は俺の腕を掴んだまま泣き出してしまい、涙が零れて俺の胸を濡らしている。
「狩刃くん……良かった、あの、私、1人でこの世界に来て、全然、わかんなくて……」
「あーそうだよなぁ」
委員長は、狩刃家と違って一般人だ。
いきなり殺されかけて殺し返したりできないし、この様子だとソフィアみたいに生活の面倒を看てくれる人にも出会えなくて、1人で異世界で何とか生き抜いていたらしい。
今、生きて俺と会えただけでも奇跡みたいなものだ。いきなり異世界に連れて来られたら泣きたくなる。
でも、委員長はすぐに涙を拭って、気丈にも俺に笑顔を見せた。
「あ、でもね、最近友達ができたの。私と同じ、この世界に飛ばされて来ちゃった、みむねちゃんって子」
「へー……みむね?」
どっかで聞いたことがある名前だけど、偶然同じ名前の別人だろう。
念の為、会わないように早く立ち去ろうとしたのに、俺の背後から日本刀が振り下ろされた。
「狩刃!殺す!」
「お前は、それしか言えないのか」
続け様に首を横薙ぎに切り落とそうとしてきた刃を指先で受け止める。
また黒尽くめの格好をしているのかと振り返ってみると、眠水みむねは委員長と同じく薄くて短い青いドレスを着ていた。
しかし、圧倒的に胸の質量が足りていない。




