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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第3章 楽しい新生活のススメ

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家の掃除機兼ペット

 朝、無事に一人部屋をゲットしたソフィアの部屋のドアをノックする音がすると、すぐに返事が返って来た。

 夜の間ずっと起きている気配がしたから、徹夜で何かしていたんだろう。


「ソフィア、そろそろ朝ご飯」


「はーい」


 部屋を覗くと、ソフィアはデスクに向かって何か書き物をしていた。返事はするけど手は止めない。

 目が見えないのに、読み書きができるのか?と思ったけど、まだこの世界の仕組みがわからないから尋ねないでおく。


「ソフィア、何してんだ?」


「ルカ君が色々料理を作ってくれるので、新しい調理器具ができないかと試作しているところです」


 デスクの周りには、フライパンや鍋や、木製の桶も転がっている。

 何でこれが新しい調理器具になるのかと手に取ってみると、側面に見慣れない記号が沢山書いてあった。


「何だ、これ?」


「賢者の石の力を使うための式です」


「賢者の石って、アリベルが首に下げてるやつ?」


「いいえ、神王が持っている原石の方です。アリベルが持っている欠片よりもずっと力が強いんですよ」


 ソフィアがデスクにあった分厚い小さな本を渡してくれた。


「キミア四術式という原理です。基本の116の記号を組み合わせて、石の力を操作するんです」


「ふーん、プログラミングみたいな感じか」


「似たようなものを知ってるんですね。ルカ君も何かやってみますか?」


 ソフィアに金属のペンを渡されて、俺は本に並ぶ記号を眺めた。

 基本の組み合わせが書かれていて、それを応用させて色々できるようになるらしい。

 まぁ試しだから、色々やってみよう。

 《風》を外から中に、《動》で動く機能を付けて、《知》で周囲を判断して動けるようにして、《移》で吸い込んだ物を移動させるようにして、移動場所はキッチンのゴミ箱を指定する。

 色々記号を刻んでから、木桶を逆さまにして床にそっと置くと、思った通り床の小さな埃を吸い込みながら進んで行った。

 デスクの足に当たりそうになると、ちゃんと避けて進んで行く。


「よし、成功だ」


「ルカ君、ちょっと見ただけでできるなんて凄いですね。ところで、それは何ですか?」


「ルンバ」


「るんば……?」


「俺の世界の一番可愛い家電」


「確かに可愛いですね」


「ルンバは賢いから、皿をひっくり返したり床を水浸しにしたりしないんだ」


「アリベルよりも優秀じゃないですか……」


 ソフィアが欠伸をしながら言った。

 徹夜で眠いからか、ソフィアの辛口で正直なところが出ている。


 木桶はソフィアの部屋を掃除していたのに、しばらく見守っているとパカンと音を立てて真っ二つに割れてしまった。


「あれ?失敗だった?」


「いいえ、石の力に耐え切れなかったんでしょう。賢者の石の力を受け止めるには、頑丈じゃないと駄目なんです」


「それじゃあ、人の体に刻んだりとかはできないんだな」


「そうです。使えるのは石とか金属とか、固い木の板とかですね」


「なら色々作れそうだ。この本、借りてもいい?」


「何冊か持っているので、それはルカ君にあげますよ。さ、朝ご飯にしましょう。はちみつトーストはありますか?」


「ああ。あ、今日はまだアリベルを見てないな」


「まだ寝てるんじゃないでしょうか。昨日、新しい武器が手に入ったってはしゃいでいましたから」


「武器ではしゃぐのか……」


「ええ、本当に子どもみたいに喜んでいましたよ」


 ソフィアが少し楽しそうに言った。

 アリベルのことを話す時の声のトーンが、他と少し違う。


「しょうがないなぁ……ちょっと起こして来る」


「お願いします。あと、ルカ君」


「何?」


「この前のこと。アリベルは純粋な子なんですから。あまりからかわないであげてください」


 ソフィアはそれだけ言って、さっさとダイニングへ向かってしまった。

 幼くて目が見えないのに、本当に何でもわかってる奴だ。


 俺は隣のアリベルの部屋をノックした。

 返事は返ってこない。これは、どうやら熟睡している。

 アリベルは早朝から賑やかに掃除をしている時もあるけれど、眠い時は起こさないとずっと寝ている。


「アリベル、入るぞ」


 寝てるだろうけど一声掛けてから部屋に入った。

 ベッドの上で毛布が丸く膨らんでいて、隙間から赤い髪が覗いている。

 毛布を揺すぶると、むにゃむにゃと寝ぼけた声が聞こえてきた。


「アリベル、朝ご飯だぞー」


「むにぅ……あとちょっと……あと3時間……」


「3時間はちょっとじゃないだろ」


「ソフィアの長い人生からみればちょっとでしょぉ……」


「人生観をここで語るなよ。ソフィアが待ってるから、早く」


「無理ぃ……眠いぃぃぃ……」


「ルカ君、ちょっと待ってください!」


 毛布を剥がそうとした時、車椅子のソフィアが部屋に飛び込んで来た。相変わらず、車椅子とは思えないドリフトを決めてくる。


「何で?」


「うえぇー……」


 ソフィアが答える前に、アリベルが顔を擦りながらもぞもぞと体を起こす。

 赤い髪がぼさぼさに膨らんでいるアリベルは、下着も何も着ていない全裸だった。


「ソフィア、午前中はまだ夜だよぅ……って、え……?き、きゃあああ!」


 アリベルは俺に裸を見られているのに気付いて叫んだ。

 毛布で体を隠しつつ、枕の下に手を入れて昨日手に入れたばかりだというナイフを投げつけてくる。

 寝起きなのに元気だなと思いつつナイフを避けると、新品らしく綺麗に床に突き刺さった。


「避けないでよ!」


「普通避けるだろ。枕の下から刃物を出すな」


「まだあるわ!」


 アリベルはマットレスを持ち上げて、下から斧を出していた。

 普通の女の子の部屋なのに、ベッド周りに凶器が多過ぎる。


「アリベル、斧よりもまずは服を着ましょう」


 ソフィアが床に落ちた毛布をアリベルに渡して気を逸らしている。その隙に、俺は次の武器が飛んで来る前に避難した。


 廊下に出ると、中からまだ「一生の不覚」とか「必ず仕留める」いう声が聞こえていた。

 見てないとは言えなかったけど、そこは黙っておくことにした。

 ソフィアが「あらあら」と言っているのが扉越しに聞こえる。

 新しい一日が始まった。

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