誰でもまずは形から
ダイニングのテーブルに突っ伏して、アリベルが食事を作ってくれるのをソフィアと待っていた。
俺のお腹からきゅー……と切ない空腹の音が聞こえて来る。
「腹減ったぁ……」
思い返してみると、俺はこの世界に来てからまともに食事をしていない。
普通ならとっくにエネルギー切れで動けなくなっている。
せっかく異世界に来たのに、牢屋暮らしだし荒い馬車に揺られるし。
一緒にいるのは謎が多い少女と、愛が重すぎるメイドだし。
何だか、イマイチ異世界を満喫できてない気がする。
海外旅行なんて仕事以外じゃ行ったことないし、観光でもしようかな……って、今も一応仕事中なんだけど。
「あの……」
横に座っていたソフィアが、小さな声で話しかけてきた。
何か秘密の話かと思って、俺も同じくらいの声量で返事をしてみる。
「何?」
「ルカ君は、好き嫌いはありますか?」
「特にないかな……」
「そうですか……では、あの、料理はできますか?」
「うーん、まぁ……」
それなりに、と俺が答えようとした時、目の前に山盛りのスープのような煮込みのような物が乗った皿がドンと置かれた。
「いーい?黙って食べなさいよ」
目を合わせないで言ったアリベルは、ソフィアと自分の前には普通の一人前の量が乗った皿を置いて席に着いた。
「食い物があるってだけで充分だよ。ありがとう」
俺はアリベルに礼を言ってから、一口食べた。
そして、頭を抱える。
お前のそのフリフリロリータとクラシカルが上手く調和した白黒のメイド服は飾りか。
頭のヘッドドレスで味覚が狂わされているのか。
とか言いそうになるけど、作ってくれたアリベルが傷付かないように、最大限の配慮をして言葉を選んだ。
「……次から、俺が作ろうか?」
「……ッ、バカ!!」
悪態を吐いたアリベルだけど、自分の料理の腕を自覚しているのか涙目になっている。
俺はすぐに「美味しくないわけじゃないけど」とフォローをしようとした。
「何と言うか、咀嚼して飲み込むのが苦痛なだけで、食べられる」
「も、文句があるなら食べなくてもいいわよ……ッあんただって作れないくせに!」
「おいおい……あんまり狩刃を見くびるなよ。俺が本当の料理ってものを見せてやるよ」
ソフィアの方をちらっと見ると、申し訳なさそうな顔をしつつ、俺を止めなかった。
ソフィアの味覚は俺と同じらしい。よかった。
そう言い残して俺はキッチンに向かった。
コンロみたいなのはこれかと思ってボタンを押すと、丸い石板がすぐに熱くなる。
もしかして、この世界観でIHなのか。
棚の中を探ると缶詰はあるし、裏口から庭に出ると野菜の畑もある。
多分、毒がある植物をキッチンの近くに植えたりしないだろうから、適当に収穫して、適当に味付けしてガチャガチャ炒めてみた。
火を通せば大抵の物は食べられる。
「はい、野菜炒め的な何か」
適当に盛り付けて何となくハーブ的な緑を添えて、ダイニングのテーブルに皿を置く。
アリベルはソフィアを庇うように、皿とソフィアの間に割って入った。
「ソフィア、危険よ!絶対毒とか入ってるって」
「いえ、変な物は入っていないみたいですよ」
ソフィアはアリベルが止めるのも聞かずに、フォークを伸ばした。
「あ!美味しい……!?」
本当に驚いた声を出してしまったソフィアは、すぐに気付いてアリベルをフォローしようとした。
「いえ、あの、違うんです。アリベルが作るのも好きですよ」
「慰めてくれなくて大丈夫……」
アリベルも一口食べて俺の料理の腕を認めたらしい。
俺は狩刃家三男だ。料理くらいできて当然だ。
毒殺はゆぅ兄の得意分野だから、俺がやると殺されそうになるけど。
「アリベルは、メイドじゃないのか?」
「いいえ、軍人です。私が神王候補になったので国軍を辞めて私の世話をしてくれています」
「じゃあ、何でメイド服着てるんだよ」
「まずは雰囲気から整える子なんですよ……」
「聞こえてるっての……」
アリベルは恨みがましく言ったけれど、俺が作った名も無き野菜炒めをばくばくと食べていた。
「でも、実は私もアリベルのことは言えなくて……料理はあまりできないんです」
「そうか、壊滅的だな……」
「ええ、首都にいれば何かしら手段があったんですけど、この田舎では死活問題です」
「そ、そこまで不味くないでしょ!普通に食べられるわよ!」
「ルカ君、悪いんですけど、これから料理を作ってくれませんか?アリベルもその方がいいでしょう?」
「そうね……悔しいけど、そうしましょう。じゃあ、おかわりよろしく」
「わかったよ。じゃ、アリベルは掃除洗濯買い物その他雑務担当な」
「あんた、調子に乗らないでよ!」
アリベルがテーブルを叩いて立ち上がって、そのまま俺にナイフを投げつけて来る。
それを受け止めてから、空になった皿を持ってキッチンに向かった。
「……ねぇ、ソフィア」
洗い物をしながら聞こえてきたのは、アリベルの声だった。
声のトーンが、さっきと変わっている。
「何ですか?」
「あいつ、本当に大丈夫?傍に置いてて危なくないの?」
ソフィアはしばらく黙っていた。
「わかりません」
「え……」
「でも、ルカ君は来てくれて、ここにいます。それだけは確かです」
アリベルはそれ以上何も言わなかった。
俺もキッチンで黙って洗い物を続けた。
信用されてるのかされてないのかよくわからないけど、まぁ、それが正直なところだろうと思った。




