友情にしてはデカすぎる
林の奥にある屋敷に到着すると、無人の馬車は荷物と俺達を自動で降ろして走り去っていった。
見た目は中世ヨーロッパって感じの馬車の形だったけど、荷馬車を引いている馬は銀色のブリキの人形みたいだった。
首都から田舎街まで長距離を走ったのに鳴かないし食事も休憩もしてなかったから、生き物じゃないらしい。
この異世界は、俺が知らない不思議な力でライフラインが構築されているのか。
ソフィアが家具ごと買い取ったという屋敷は、玄関から入って吹き抜けのホールと螺旋階段が2階に続いていて、その奥には屋根裏部屋に向かう梯子があった。
リビングには椅子もテーブルもあるし、各部屋には一通り生活できるだけの家具が揃っている。
万年仕事でワンルームのアパート暮らしの俺にとっては豪邸だ。
「ソフィア、本当に2階じゃなくていいの?」
俺は用心棒として雇われたみたいだし、玄関に近い部屋を陣取った。
アリベルとソフィアは、1階の奥にある広い2部屋を使うことにしたらしい。
そして、アリベルも当然のようにソフィアと同じ部屋に入ろうとして、ソフィアにやんわりと追い出されていた。
部屋割りがいつまでも決まらなくて、手伝いに来た俺は暇で部屋の隅で大人しくしていた。
「2階の方が安全だと思うけど……」
「アリベルとルカ君が守ってくれますから、この部屋で大丈夫です」
「私、ソフィアをだ……だっ、抱っこして階段上るくらい何でもないわ!」
「いえ、大丈夫です」
「それなら、私のベッドはソフィアの部屋に置いてもいーい?」
「アリベルの部屋は隣でしょう」
ソフィアに笑顔で断られて、アリベルはがっくりと項垂れていた。
この2人は仲は良いみたいだけど、アリベルからの一方的な愛が重すぎる。
「そんなに1人で寝るのが嫌なら、俺が一緒に寝てやろうか?」
「何?死にたいの?」
話が進まないから空気を和らげようとちょっとした冗談を言ったのに、アリベルは胸元からナイフを抜いて切りかかって来た。
「まぁまぁ、そんなに怒るなって。片付け手伝ってやるから、早く部屋決めてくれよ」
「私はソフィアと同じ部屋がいいの!!」
「ソフィアが嫌がってるだろ。あんまりワガママ言うなよ」
「嫌なわけじゃないんですけど……」
ナイフを指先で止めてアリベルを宥めると、ソフィアが困った顔で首を傾げた。
「いい歳なんだから、1人で寝れるようにならないとダメだぞ」
「うるさーい!私とソフィアは絶対一緒なの!」
「アリベル、1人になっても大丈夫ですか?」
ソフィアに声を掛けられると、アリベルはナイフを俺に突き付けたまま笑顔に戻る。
「しょうがないわ……私は1人でも寝られるけど、時々お泊りしてもいい?」
「いいえ、部屋割りの話ではなくて、もっと先の話です」
「ソフィアが神王になってからのこと?大丈夫よ!私は絶対に近衛兵になって、もっとソフィアの傍で守るんだから!」
「そうでなくて、私が神王になれなかった時の話です」
「な……」
アリベルの言葉が止まった。
俺はその隙にナイフを押し返そうとしたけど、一瞬の隙を突いて投げられたナイフが頬をぎりぎり掠って壁に突き刺さる。
「な、何を言ってるの?!ソフィアは絶対に神王になれるわ!大丈夫よ!」
「……アリベル」
「私がソフィアを守るんだから!神王になれるように、私が何でもするわ!」
「……」
ソフィアは変わらず笑顔だけど、無言のままだった。
大丈夫、と繰り返すアリベルに、ソフィアが何だか困っているようだ。
俺はその2人を眺めていた。
ソフィアは目が見えない、足が不自由、後ろ盾も何もない候補者。
俺はここへ来てまだ日が浅いけど、ソフィアが自分の勝ち目を薄いと思っているのはわかる。
だから俺を呼んだのかもしれないけど、ここから形勢をひっくり返す方法は、俺だってまだ何も浮かんでこない。
俺は壁からナイフを抜いてアリベルに押し返した。
「なぁ、腹減った」
「え、ええ、アリベル、そろそろご飯にしましょうか」
ソフィアがそう言って、それで一度話が終わる。
アリベルは黙ってナイフを受け取って、元気のない様子で頷いた。




