ロッカの戦い
「僕には味方が少ない。正確には君しかいない」
殿下が急にこんな事を言い出した。
殿下に仕える事が決まって、はいそのまま城で生活、とはいかなかった。
一度実家に戻り、荷物をまとめエルザを連れて帝都に戻って来た。
あの会談からすでに二週間が経っている。
そして、『改めてこれからお願いします』と挨拶をした俺に返って来た言葉が、これだった。
フランツ殿下は皇位継承権こそ叔父である大公を含めて五番目と高いが、誰もが第一皇子であるヴィルヘルム殿下が皇太子に選定されると考えている。
ヴィルヘルム殿下は剣の腕も立ち魔法の才にも秀でていて、現在は皇帝陛下の補佐として外交も務めている。
よほどの事がない限り、『次期皇帝はヴィルヘルム殿下だろう』と言うのが周囲の見方だった。
「貴族は勝ち馬に乗る。ほとんどの貴族がヴィルヘルム兄さんについて、残りが第二皇子のカール兄さんについた。僕には誰もついてこなかった」
薄く笑みを浮かべながらこう話すフランツ殿下。
なんと声をかけるべきか悩んでいると、
「君が僕の初めての配下なんだ」
こちらをじっと見つめて微笑みながらこんな事を言ってきた。
背筋にぞぞぞっと悪寒が走る。
「……で、では味方を増やさなければなりませんね」
俺は話を逸らした。
「ただ話をしに行っても無駄だろう。手っ取り早いのは、何か功を挙げる事だ。君のようにね」
「功……ですか」
「幸いと言っていいかは微妙なところだけど、我らが帝国は戦場には困っていない。それに僕はまだ初陣を済ませていない。それが使えるかも知れないね」
確かに帝国は年中どこかしらと戦っている。
周囲には敵国しかないし、戦場には困らないだろう。
「ではロレアーノ王国にしますか?シュターブへの攻撃に対する報復として」
直近の出来事で言えばこれが一番丁度いいかも知れない。
ロレアーノ王国は弱兵で有名だし。
「ふむ。それは良いね。口実もある。早速父上に相談してみよう。僕の初陣にしようじゃないか」
殿下のお願いは許された。
俺と殿下は帝国の南の隣国ロレアーノ王国へと侵攻することになったのだった。
一週間ほどの準備期間を経て帝都から出発した帝国軍は、シュターブ伯爵領からロレアーノ王国領へと侵入した。
殿下率いる帝国軍は、破竹の勢いで侵攻を続けている。
小競り合いしか想定していなかったであろうロレアーノ王国は抵抗らしい抵抗もできなかった。
そしてついに帝国軍はロレアーノ王国北部のロッカを制圧するに至ったのだった。
しかしここでようやくロレアーノ王国が兵を集めて到着し、ロッカの地にて帝国軍とロレアーノ王国軍は対峙した。
今回殿下には一万の常備軍が与えられている。
対してロレアーノ王国が急遽集めた兵は二万に達していた。
数で勝るロレアーノ王国軍は、こちらを包み込まんと広く展開している。
「さて、君ならどうする?」
「中央は薄いですが、突っ込めば魔法と矢の集中砲火を受けるでしょうね」
俺はロレアーノ軍を端から端まで見渡しながら答えた。
俺の部下として付いてきているエルザは口を挟まない。
上官同士の会話に入る事は許されていない。
「……なるほど。端からか」
何やら閃いた様子の殿下。
殿下は指揮官を呼び、隊列を厚くさせた。
そしてこちらから見て左、敵の右翼に突撃させた。
「速度が命だぞ!止まるな!突き進め!突っ込めェエ!!!」
指揮官の叫びが兵を走らせ、一万の軍勢が敵右翼に食らいつく。
帝国軍の突撃は見事な物で、敵右翼はその勢いを止める事ができない。
あっという間に敵右翼は崩れた。
ロレアーノ王国軍の中央部隊がこちらを包もうと左右に広がり攻撃をしかけてきた。
だが、帝国軍の矢と魔法の雨に阻まれ、逆に数を減らしていく。
帝国軍の勢いは衰えず、右翼と中央の部隊を食い破った。
ロレアーノ王国軍の左翼が救援に来た時には、すでに数の差は逆転していた。
(勝負あったな)
すでに勝敗は決していた。
殿下は敗走するロレアーノ王国軍を深追いしなかった。
こうしてロッカの地は完全に帝国の手に渡ったのだった。
鮮やかな速攻。
(さすが戦争慣れしてるだけあって帝国の常備軍は強いな。弱兵のロレアーノ王国軍では勢いを殺しきれない)
勝鬨をあげる帝国軍を見ながら、俺は呑気にそんな事を考えていた。
「見事な策だったよ。アルバート」
殿下がよくわからない事を言って褒めてくれた。
「速度が重要だった。左翼の救援が間に合っていたら負けていたね。兵は良く応えてくれた」
確かに。もたもたしていたら包囲されて殲滅されていただろう。
「速攻は君の美学なのかい?」
「いえ、そんな事は……」
「ははは。まあ良い。初陣としてはこれ以上ない戦果だ。父上も喜んでくださるだろう」
こうしてフランツ殿下の初陣は、数年ぶりの領土拡大という大戦果を上げて幕を閉じた。
ロッカの地は第一皇子ヴィルヘルム殿下に与えられた。
ヴィルヘルム殿下が直接ロッカを統治すると言うわけではなく、誰に任せるかを決める権限を与えたと言うことだ。
「まあ。大戦果とは言えまだ一つだけだ。こんな物だろうね」
フランツ殿下は特に気にした様子はない。
「これからもっと功をあげて、誰も僕を無視できないようにする。アルバート。君が頼りだ」
「今回の戦果で多少風向きが変われば良いのですが……」
「どうだろうね。敏感な者は軽く接触してくるかも知れない。だけどまだ深く関わってこようとする者は出てこないだろうね」
貴族は勝ち馬に乗る。
今回の大戦果によってフランツ殿下の名声はあがった。
だが、ヴィルヘルム殿下を脅かすほどではない。
『ちょっと声をかけて顔を繋いでおこう』大体こんな感じになるだろう。
優しい笑顔の下に大きな野心を持ったフランツ殿下は、今日も微笑みを浮かべながら次の一手を考えている。
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