最強の加護
「あの、そういう場合って、なんか能力もらえたりします?」
口にした瞬間、我ながら浅いと思った。
でも、聞かない理由もなかった。
ルミネアはじっと湊を見た。その視線は冷たくない。ただ、妙に透き通っていて、こちらの期待も浅ましさも全部見えている気がした。
「あなたには加護を授けます」
「加護って、要するに能力とかスキルみたいなものですか」
「近いです。あなたが現地で生き延びるための強い力です」
「どれくらい強い?」
「最強です」
湊は数秒、沈黙してから思わず聞き返した。
「最強?」
「はい。最強です」
「え、そんな直球で?」
「回りくどい表現が必要ですか」
「いや、要るとか要らないとかじゃなくて、最強って言い切るんだ……」
ライブ帰りに交通事故で死んだ高校生が、白い空間で女神に「最強です」と宣告されている。状況が急に雑になった気もしたが、それ以上に胸が熱くなった。
最強なんて、あまりにも気持ちのいい響きだった。異世界に行って、いきなり最強の力を持っていて、困っている人を助けて、強い敵を一撃で倒して、誰も見たことのない景色を見に行く。そんなことが、本当に自分の身に起こるのかもしれない。
さっきまで交通事故で死んだことに納得がいかなかったのに、今はもう少しだけ、悪くない交換条件に思えていた。
「ちなみにその力って、どういう系統で?」
「魔法です。あなたの世界の言い方に寄せるなら、攻撃系の加護です」
来た、と思った。
「攻撃系?」
「はい」
「やっぱり」
「あなたに授けるのは、プライマル・ブースト」
「ぷらいまる……何ですか、それ」
「世界の基音に干渉し、あらゆる現象を押し広げる魔法です」
説明はよくわからなかった。
だが「世界」「基音」「押し広げる」「最強」という、いかにも強そうな単語だけはきっちり残る。歌えないとか弾けないとか、そういう自分の弱点まで埋めてくれる力なのだと、湊は勝手に都合よく受け取った。
湊はごくりと喉を鳴らした。
「それ、俺でも使える?」
「ええ。使う資質はあります」
「失敗とかしない?」
「あなたがどう使うかによります」
「それ怖い言い方なんだけど」
ルミネアは答えず、静かに右手を差し出した。
白い指先のまわりに、淡い光が集まる。最初は霧のようだったものが、次第に円環になり、さらに幾重にも重なった音の輪のような模様へ変わっていく。鈴の音にも似た、だが耳で聞くというより骨に触れるような響きがした。
音だ、と湊は思った。光なのに、音に見えた。
「神代湊。これより加護の付与を開始します」
女神の声が、さっきまでより少しだけ近くなる。
「あなたはこの力を持って、新たな世界へ渡ります」
白い空間の奥で、何か巨大な扉のようなものが開いていく気配がした。
その向こうから、冷たい風と、土と、鉄と、遠い鐘のような匂いが流れ込んでくる。
異世界だ。本当に。
湊は唇を湿らせた。怖くないわけではない。死んだばかりだし、女神の説明は雑だし、さっきから大事なところほど曖昧だ。だが、それでも胸のどこかが高鳴っている。
客席で見上げるだけだった自分が、今度は自分の足で未知の場所へ入る。
そう思うと、身体の奥に火が入るみたいだった。
「行きます」
湊は言った。
「最強なんですよね」
「はい。現時点ではその認識で問題ありません」
「だったら、まあ。やれるだけやってみます」
ルミネアは、ほんのわずかに微笑んだように見えた。
その笑みが、祝福だったのか、憐れみだったのか、あるいはもっと別の何かだったのか。
その時の湊には、まだわからなかった。




