壊れる一本
「プライマル・ブースト」
湊の撥から伝わった熱いうねりが、冠一二を響かせる。
音が大きくなった。
低い弦が暴れる。手の中で、一本の線が左右へ裂けるように震えた。左手の腹で押さえた残り五本まで跳ね、胴の奥から乾いた音が返る。
次の瞬間に、鳴らした弦が切れた。
弾けたような音だった。切れた弦は行き場を失い、胴の上で暴れた。
胴のどこかが割れた。肩帯が引きつり、胸の前で木がずれる。弦が一本、高く跳ねて湊の指を打った。
湊は低い一本を鳴らした。
そして、壊した。
それだけだった。
ヴァルグの仮面は揺れない。白骨の六弦も下がらない。湊の一音は、白い領域を割らず、ヴァルグの外套にも触れず、壊れた冠一二の胴の中で暴れて終わった。
まただ。
森の溝を壊した時と同じだ。
できると思った瞬間に、道具の方を壊した。
ヴァルグが湊を見た。
初めて、エルゼではなく湊だけを見た。
湊を見ながら、白骨の六弦を短く鳴らした。
一音。
足元の白い面が跳ねた。
胸を押された。そう思った時には、体が浮いていた。湊はそのまま後ろに吹っ飛ばされた。壊れた冠一二が肩帯に引かれ、湊の肋骨を打つ。
エルゼの横をかすめる。
エルゼの手が伸びるが、届かない。
湊は肩から地面へ落ちた。
白く抜けた土と黒い土の境目を転がる。手をついて止まろうとしたが、掌の下の土も色を失いかけていて滑った。壊れた冠一二の胴が胸を打ち、息が詰まる。
何回か転がって、門柱の近くで止まった。
壊れた冠一二は、まだ肩帯につながっている。胴の割れ目から、細い木屑がこぼれていた。
湊は顔を上げた。
ヴァルグが白骨の六弦を持ち直す。
エルゼが立った。
膝が揺れている。左肩は上がりきらない。それでも、王冠胴を前へ出して湊とヴァルグの間に入る。
「まだ前に出るな」
エルゼの声は短い。
湊に向けた言葉なのか、自分に言い聞かせているのか、分からなかった。
ヴァルグの指が弦に置かれる。
エルゼが低く踏み込んだ。




