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異世界ギャル『異世界召喚されたのは勇者じゃなくてギャル五人でした ~魔族に荒らされた世界、でもウチらが来たからもう暗いままじゃ終わらせない~』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第59話 村長、浮かれるなと言う。でも目は少しだけ揺れる

その日の夕方、ハイレン村の空気は少しだけ落ち着かなかった。


 昨日までの静けさとは違う。

 笑い声が増えたわけでも、誰かが大きな声を出したわけでもない。

 でも、村の人たちの目が、ほんの少しだけ“いつもと違うもの”を見ている。


 広場の一角に仮置きされた、今年の村のもの。

 野菜。

 豆。

 保存食。

 焼き菓子。

 布。

 籠。


 それらはまだ“催し”と呼ぶほど整ってはいない。

 ただ、昨日までならしまわれるだけだったものが、今日は少しだけ外へ出ている。

 その違いを、村の人たちはちゃんと感じていた。


 感じているからこそ、少しざわついている。


「……見られてるね」

 るなが小声で言った。


「うん」

 みうが頷く。

「昨日までみたいな“変な王都の人たち”を見る目だけじゃない」

「“これ、どうなるんだろう”の目」

 えれなが言う。

「そう」

 ももかが広場の端を見る。

「特に年寄り側」

「若い人は半分面白がってる」

 ジェシカが言った。

「でも、上の世代は“余計なことになるな”の警戒が強い」

「うん」

 るなは頷いた。

「で、その真ん中にいるのが村長さん」

「今日、そこだね」

 みうが静かに言う。

「うん」

「かなり」


 村長ドミニクは、広場の少し外れに立っていた。


 昨日、仮置きされた村の品を見て、「思ったより村にいろいろありましたな」と言った。

 あの一言は大きかった。

 でも、だからといって全面的に前へ進める人ではないことも、五人はもうわかっている。


 この人は、浮かれたあとに落ちる苦さを知っている。

 村に一瞬だけ希望を入れて、それが続かずにかえって重くなる怖さも知っている。


 だからこそ、ここを越えないと先へ進まない。


     ◆


 広場の仮置きの前には、若い農夫のロアンと、サラ、それに年配の女がいた。


 サラは、自分の焼き菓子の皿の位置を少しだけ直している。

 ロアンは野菜の置き方を変えたあと、少し離れて全体を見ていた。

 それだけでも、昨日までのハイレン村にはなかった光景だ。


「サラ」

 みうが声をかける。

「あ、おはようございます」

「朝から直してるね」

「……」

 サラは少しだけ視線を泳がせた。

「昨日のままだと、焼き色が見えにくいかなって」

「うん」

 ももかが即答する。

「それ、かなり大事」

「そう、なんですね」

「うん」

「だって今それ、“どう作ったか”じゃなくて“どう見えるか”まで考えてるってことだから」

「……」

 サラは少しだけ頬を赤くした。

「別に、そこまで大げさな」

「大げさじゃない」

 るなが言う。

「でも、前より一歩進んでる」

「……」


 ロアンの方も、昨日までより明らかに動きが違った。


「それ」

 るなが野菜を見る。

「昨日よりいい」

「昨日のままだと、葉が前に出すぎる」

 ロアンが答える。

「豆が死ぬ」

「……」

 るなは一瞬黙ってから言った。

「今、“豆が死ぬ”って自然に出たね」

「……」

 ロアンが少しだけ固まる。

「出た」

 ジェシカが言う。

「見せる目線になってる」

「……」

「悪い?」

 ロアンが聞く。

「全然」

 るなが笑った。

「むしろかなりいい」

「……」

 ロアンは目をそらしたが、口元は少しだけゆるんでいた。


 その時、広場の向こうで、年配の男たちの会話が聞こえた。


「何をやってるんだ、あれは」

「若いのがまた妙なことを」

「王都の娘らに乗せられて」

「忙しい時に浮かれてる場合か」


 声は大きくない。

 でも、はっきり届く。


 サラの肩が少しだけ固くなった。

 ロアンも表情を引き締める。


「……来たね」

 ももかが小さく言う。

「うん」

 えれなが答える。

「ここが壁」

「わかりやすい」

 るなが息を吐く。

「でも、たぶん必要なやつ」


     ◆


 その空気を引き締めたまま、村長ドミニクが広場へ入ってきた。


 村の人たちの視線が自然とそこへ集まる。

 若い者も、年寄りも、五人も、全員がなんとなく「ここでどう言うか」を待っている。


 ドミニクは広場の中央で立ち止まると、仮置きされた村の品々をゆっくり見渡した。


「……」

 しばらく何も言わない。


 それが逆に重かった。


「村長さん」

 るなが先に声をかける。

「はい」

「今の、どう見える?」

「……」

 ドミニクはすぐには答えなかった。

 代わりに、広場の端にいた年寄りたちの方を見る。


「皆も見ているでしょう」

「見ておるよ」

 白髪の男が言う。

「で、何ですこれは」

「若いのが、今年のものを少し出しているだけです」

 村長は答える。

「だけ?」

「はい」

「……」


 その“だけ”という言い方に、るなは少しだけ目を見張った。


 大きくしない。

 意味を盛りすぎない。

 それは、今のハイレン村ではすごく大事な言い方だった。


「村長さん」

 年配の女が小屋の前から言う。

「これは、やるのかい」

「……」

 ドミニクは少し黙った。

「まだ決めていません」

「……」

「ただ」

「ただ?」

「若い者たちが、“小さくならやれるかもしれない”と言うので、話を聞いているところです」

「……」


 その言葉に、広場の空気が少しだけ揺れた。


 否定ではない。

 全面肯定でもない。

 でも、“話を聞いている”は十分に前向きだった。


「でもさ」

 るながそこで一歩前へ出る。

「うん?」

 ドミニクが見る。

「今の村長さんの顔、まだ“だめかもしれない”の方が強いでしょ」

「……」

 村長は否定しなかった。

「そうです」

「……」

「正直だ」

 ロアンが小さく言う。

「今さら隠しても仕方ありません」

 ドミニクは答えた。


「なんで」

 みうが静かに聞く。

「なぜ、そんなに怖いんですか」

「……」

 村長は広場を見る。

 野菜。保存食。焼き菓子。布。籠。

 そこに集まる若い者たちの顔。

「浮かれるのが、怖いのです」

「……」

「一日明るくなって」

「……」

「そのあと、また何も変わらなかった時がいちばん重い」

「……」

「今年も厳しい、来年も読めない、納める分も減らせない」

「……」

「そういう現実があるのに、“楽しかったですね”だけ残ると、余計に苦い」

「……」

「だから」

 ドミニクは低く言った。

「私は、こういうことに簡単には頷けません」

「……」


 その言葉には、怒りより疲労があった。

 そして、過去に何度も似たようなことが続かなかった経験がある人の重さも。


 るなは、その本音を聞いて、かえって少し安心した。


 反対の理由が、“楽しいことが嫌いだから”じゃない。

 “その先の落差を知っているから”だとわかったからだ。


     ◆


「村長さん」

 えれなが一歩前へ出る。

「はい」

「私たちは、大きく盛り上げたいわけではありません」

「……」

「むしろ逆です」

「逆?」

「続く形だけを探しています」

「……」

「一日だけ派手にやって終わるなら、今の村には害の方が大きい」

「……」

「だから、“何なら無理なくできるか”まで落としている」

「……」


 ドミニクは黙って聞いている。


「たとえば」

 えれなが続ける。

「村の仕事の延長で出せるものだけ」

「……」

「今年の出来のいい野菜を少し」

「保存食を少し」

「焼き菓子を少し」

「布や籠も、あるなら少し」

 みうが静かに言葉を足した。

「……」

「子どもたちが札を描くくらいなら、仕事の邪魔にもなりにくい」

 ジェシカが言う。

「……」

「“大きな祭り”ではなく、“今年の村を少し見るだけ”」

「……」

「それでもだめですか」

 るながまっすぐ聞いた。


 村長はすぐには答えなかった。


 その沈黙の間に、サラがぽつりと言った。


「村長」

「……」

「私」

「なんだ」

「焼き菓子、少しなら出したいです」

「……」

 ドミニクがサラを見る。

「大げさなのは嫌です」

「……」

「でも」

「……」

「今まで、作って終わりだったから」

「……」

「一回くらい、“今年のこれ”って見て終わりたい」

「……」


 広場が静まり返る。


 サラの声は大きくない。

 でも、誰よりもまっすぐ届いた。


 それは“夢を持つ方が損”と言っていた娘が、自分の言葉で初めて“村の中でやりたいこと”を言った瞬間だったからだ。


「……」

 ロアンも少しだけ視線を上げる。

「俺も」

「……」

「野菜、一つくらいなら出せる」

「……」

「今年のやつ、ちゃんと見て終わるなら」

「……」


 エルンは黙っていた。

 だが、その沈黙は昨日までよりずっと前向きだった。


 ドミニクは、その若い顔を順に見た。


 たぶん今、この人の中でも、何かが少しずつずれている。


 “浮かれさせたくない”と、

 “それでも若い者の顔を少し変えたい”の間で。


     ◆


 しばらくして、ドミニクは低く言った。


「……浮かれるな」

「……」

 ももかが一瞬だけ身構える。

「今の村に、派手なことをする余裕はない」

「うん」

 るなが答える。

「知ってる」

「だから」

「うん」

「大きくやるのは許しません」

「しない」

「仕事を止めるのも許しません」

「止めない」

「準備のために無理をするのもだめです」

「……」

「うん」

 みうが静かに頷く。

「そこは絶対に」


 ドミニクは、広場に置かれた品をもう一度見た。


「ですが」

「……」

「小さく」

「……」

「村の仕事の延長で」

「……」

「今年の実りを少し見るだけなら」

「……」

「止める理由も、今はありません」

「……」


 一瞬、誰も動かなかった。


 その言葉の意味が広場に染みるまで、少し時間がかかった。


「……」

「来た」

 ももかが小さく言う。

「うん」

 るなも頷く。

「来たね」

「条件つき」

 ジェシカが言う。

「でも十分」

「かなり」

 えれなが答える。


 サラは、はっきりと目を見開いていた。

 ロアンも、表情は変えないまま息だけ少し深くなっている。

 年配の女たちも、口には出さないが、空気の変化を受け止めているのがわかった。


「……村長」

 みうがやわらかく言う。

「ありがとうございます」

「礼を言われることではありません」

 ドミニクはぶっきらぼうに返した。

「まだ、やるとも決めていない」

「……」

「“やれるなら”の話です」

「うん」

 るなが答える。

「でも、それで十分」

「……」


 村長はその言葉に何も返さなかった。

 けれど、その目は昨日より少しだけ揺れていた。


     ◆


 広場の空気が少しほどけたあと、年寄りたちの方からもぽつぽつ声が出始めた。


「豆は今年の粒が揃ってるやつを出すか」

「出すなら、あの棚にするか」

「子どもに札を書かせるなら、字が読めんのもいるから絵もいるか」

「……」


 るなは、そのやり取りを聞いて少し笑った。


「もう始まってる」

「うん」

 みうも嬉しそうに言う。

「“やるならどうする”になってる」

「昨日まで“やる意味ある?”だったのにね」

 ももかが言う。

「でかい」

「かなり」

 えれなが頷く。

「これが、村長が一歩動いた意味」

「うん」

 ジェシカが短く言った。


 サラが、少しだけ近づいてきた。


「……ねえ」

「うん?」

 るなが振り向く。

「さっき」

「うん」

「私、言ってしまった」

「何を」

「“出したい”って」

「うん」

「……」

「どうだった」

「……変」

「それはそう」

 ももかが言う。

「最初はみんな変」

「でも」

 みうが笑う。

「言えたの、すごく大きい」

「……」

「サラが言ったから、たぶんロアンも言えた」

「……」

 サラは少しだけ驚いた顔になる。

「そう、ですか」

「うん」

「村の中って、そういうのある」

 るなが言う。

「一人が言うと、次が少し言いやすくなる」

「……」

「だから」

「……」

「今日のサラ、かなりでかかったよ」

「……」

 サラはまた少し頬を赤くした。

「それ、まだ慣れないです」

「うん」

「でも、たぶんそのうち慣れる」

「……」


     ◆


 夕方、土手に戻った五人は、昨日までより少しだけ軽い空気で座った。


 疲れがないわけではない。

 でも今日は、ちゃんと“話が一歩進んだ日”だった。


「……村長さん、やっぱ大きかったね」

 るなが言う。


「うん」

 えれなが頷く。

「“浮かれるな”って言いながら、完全には止めなかった」

「むしろ」

 ジェシカが言った。

「怖い理由をちゃんと出した上で、一歩譲った」

「そこが大事」

 みうが言う。

「反対の理由が、“嫌だから”じゃないって、やっぱり大きい」

「うん」

 るなが空を見る。

「一日明るくなって、あとで余計暗くなるのが怖い」

「わかるもん」

 ももかが言う。

「それは正直」

「そう」

「でも、それでも若い人たちの“少しならやりたい”を見て、止めなかった」

「……」

「村長さんも、ちょっと揺れてる」

 みうが小さく言った。

「うん」

「目、少しだけ違った」

「そう」

 るなが頷く。

「今の章タイトル、そのまんまだったね」

「たしかに」

 ももかが笑う。

「浮かれるなって言ってたのに、目がちょっと揺れてた」

「うん」

 えれなが答える。

「そこが、この村の今のラインなんだと思う」

「完全に前向きではない」

「でも、完全に諦めてもいない」

 ジェシカが言った。

「……」

「だから次」

 るなが言う。

「うん」

「前夜準備かな」

「来た」

 ももかが言う。

「一番好きなやつ」

「お前はずっとそれ言ってる」

「だって好きだし」

「知ってる」


 風が、畑の上をやわらかく撫でていく。


 ハイレン村はまだ静かだ。

 でもその静けさの中に、今日はたしかに“明日どうする”が生まれた。


 それは小さい。

 でも、今の村には十分すぎるくらい大きな前進だった。

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