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異世界ギャル『異世界召喚されたのは勇者じゃなくてギャル五人でした ~魔族に荒らされた世界、でもウチらが来たからもう暗いままじゃ終わらせない~』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第58話 村のいいもの、ちゃんと並べるだけで見え方が変わる

次の日の朝、ハイレン村の空気は、ほんの少しだけ違っていた。


 劇的ではない。

 昨日までと同じように畑は広く、風は静かで、人は黙って働いている。

 でも、“何ならできるかを考える人間”が村の中に少しだけ生まれたあとの空気は、やっぱり少し違う。


 それは大きな笑い声ではないし、目に見える活気でもない。

 ただ、視線の置き方が違う。


 保存食の棚を見た時に、「これを出すならどうする」と一瞬でも考える目。

 畑の野菜を見た時に、「どれが今年いちばんいいか」と比べる目。

 その小さな変化が、るなにはちゃんと見えた。


「……来てるね」

 るなが集会小屋の前で言った。


「うん」

 みうが頷く。

「まだ小さいけど」

「でも昨日までの“どうせ無理”だけではなくなってる」

 えれなが言う。

「“少しなら”がある」

「それ、でかい」

 ももかが腕を組んだまま笑う。

「今日はその“少しなら”を、ちゃんと形にする日だね」

「うん」

 ジェシカが短く言った。

「見せ方」

「来た」

 ももかが言う。

「本職」

「誰が」

 るなが聞く。

「ギャル」

「雑」

「でも本質」

 えれなが言う。

「今回の“見せ方”はルクレツィアと違うけどね」

「うん」

 みうも頷く。

「派手にするんじゃなくて」

「素朴なものを、ちゃんと素朴に見せる」

 ジェシカが言った。

「そう」

 るなは笑う。

「今日はそこ」


     ◆


 最初に集まったのは、保存食の小屋だった。


 サラと、年配の女たちがすでに中にいる。

 棚には果実の小瓶、干し野菜、豆、焼き菓子、籠に入れられた木の実。

 昨日まではただ“しまわれているもの”にしか見えなかったそれらが、今日は少しだけ違う意味を帯びて見えた。


「おはよう」

 みうが声をかける。

「おはようございます」

 サラが返す。

 その表情はまだ半信半疑だが、完全に閉じてはいない。

「本当にやるんですね」

「やる」

 るなが頷く。

「ただし、大げさにはしない」

「うん」

 えれなが補足する。

「今日やるのは、“どう並べたら見え方が変わるか”の確認」

「並べるだけ?」

 サラが聞く。

「まずはね」

 ももかが答える。

「でも、“並べるだけ”が意外とでかい」

「……」

「昨日も言いましたけど」

 サラは棚を見る。

「これ、見せるようなものじゃ」

「そこ」

 るなが言う。

「その“見せるようなものじゃ”を一回ほどく」

「……」


 ももかは早速、棚の前にしゃがみ込んだ。


「ねえ、これさ」

「うん」

「全部“保存のための並び”なんだよね」

「保存のため」

 みうが繰り返す。

「うん。

 取りやすくて、しまいやすくて、無駄がない」

「それは正しい」

 えれなが言う。

「でも、“見ていいもの”の並びではない」

「そう」

 ももかが頷く。

「だから今日は、“保存の棚”じゃなくて“今年の村の棚”にする」

「……」

 サラは少しだけ目を丸くした。

「今年の村」

「うん」

「今ここにあるものって、全部“今年この村で残したもの”じゃん」

「……」

「だったら、それが見える並びにした方がいい」

「……」


 年配の女が、豆を分ける手を止めずに言う。


「そんなことして、何が変わるのさ」

「見え方」

 ももかが即答する。

「それだけ?」

「それがでかい」

 るなが言う。

「今のこの村、それがずっと足りてないから」


     ◆


 まずは果実の小瓶からだった。


 今までは同じ種類ごとに奥から順に並べられている。

 保存には向いている。

 でも、“今年の果実がどうきれいか”は見えない。


「これ、前に出すの三つだけでいい」

 ジェシカが言った。

「三つ」

 サラが聞き返す。

「うん。全部出すと、全部ただの数になる」

「……」

「見せたい顔を決める」

「顔」

「今年の果実の顔」

「……」


 るなは小瓶を三つ選び、光の入る場所へ少しだけ角度をつけて置いた。

 その横に、干した果実を少しだけ添える。

 そして、瓶の後ろには布を一枚。

 派手な色ではない。村で織られた落ち着いた生成り色だ。


「……」

 サラが思わず息を止める。

「どう」

 みうが聞く。

「……」

「変?」

 ももかが聞く。

「変っていうか」

 サラは少し戸惑った顔で答える。

「なんか……」

「うん」

「ちゃんと見てしまう」

「それ」

 るなが言う。

「それが大事」

「今までは?」

「“保存の棚”としてしか見てなかった」

「うん」

「でも今のは、“今年の果実”って感じがする」

「……」

「来た」

 ももかが言う。

「今の、かなり来た」

「果実の色が見えるようになった」

 みうも言う。

「しかも、瓶だけじゃなくて“村の手で残したもの”って感じがする」

「……」

 年配の女がそこで小さく言った。

「布を後ろに置くのは、悪くないね」

「お」

 るなが言う。

「今の、でかい」

「いちいち騒ぐんじゃないよ」

「でも、でかいし」

「でかい」

 ジェシカが同意した。


     ◆


 次は焼き菓子だった。


 サラが作った、素朴だが“また食べたい”と言われたあの焼き菓子。

 今までは木皿へ無造作に重ねられているだけだった。


「これ、重ねない」

 ももかが言う。

「え」

「重ねると“食べ物の量”に見える」

「……」

「今日は“今年の焼き菓子”として見せたいんだから」

「……」

「少し離す」

 えれなが言う。

「全部をぎっちり置かない」

「隙間」

 ジェシカが短く言った。

「うん」

 みうも頷く。

「食べ物って、少し余白があると“ちゃんと見たくなる”ことがあるから」

「……」


 サラが、自分の菓子を一つずつ並べ直していく。


 きれいに焼けた面が見える向き。

 形の少し違うものは外す。

 木皿の端へ、果実の小片をひとつだけ添える。


 ほんのそれだけ。


 でも、驚くほど違って見えた。


「……え」

 サラが言う。

「うん」

 みうが笑う。

「どう?」

「……」

「ちゃんと、“作ったもの”に見える」

「……」

「今までも作ったものではあった」

 るなが言う。

「でも、“ただ食べるもの”から一段上がった」

「……」

「これ、めっちゃいい」

 ももかが断言する。

「普通に“今年の村のお菓子”って顔してる」

「……」

 サラの頬が少しだけ赤くなる。

「今年の村」

「うん」

「その言い方、好き」

 るなが言った。


 年配の女がぽつりと呟く。


「同じ菓子なのにね」

「うん」

 みうが返す。

「でも、見え方が変わると、作った人の気持ちも少し変わる」

「……」

 サラはその言葉に何も返さなかったが、並べ終えた皿を見る目は、昨日までと少し違っていた。


     ◆


 保存食の小屋を出た五人は、その足で畑のそばへ向かった。


 今日はエルンとロアンたちが、出来のいい野菜をいくつか集めて待っている。

 待っている、といっても、あくまで仕事の手は止めていない。

 でも、こちらのために少し見せるものを選んでいたのは確かだった。


「来た」

 ロアンが言う。

「来た」

 るなが返す。

「で、どうする」

「今日は、“畑の顔”を作る」

「顔」

 エルンが眉をひそめる。

「そう」

 ももかが頷く。

「今年の畑のいいやつを、“ああこれか”って見えるようにする」

「……」


 集められたのは、葉物、豆、少し赤みのある根菜、それに色の良い実物野菜だった。


 どれも、昨日までなら“納めるか残すか”の基準でしか見なかっただろう。

 でも今日は、それを“見せるもの”として並べる。


「全部同じ高さにしない」

 えれなが言う。

「葉物は後ろ」

「色が強い根菜は前」

 ジェシカが続ける。

「豆は?」

 ロアンが聞く。

「器に入れる」

 みうが答える。

「袋のままだと、“量”にしか見えないから」

「……」

「器」

 エルンが少し驚く。

「うん」

「今年の粒を見るなら、その方がいい」


 村にある木皿と浅い籠を使い、野菜を少しずつ置いていく。


 高低差。

 色の順。

 触りたくなる位置。

 素朴なまま、でも雑ではない配置。


「……」

 ロアンが、並べ終えた野菜を見る。

「どう」

 るなが聞く。

「……」

「変?」

「変ではない」

「うん」

「なんか」

 ロアンは言葉を探してから言った。

「今年の畑って感じがする」

「……」

 るなは思わず笑った。

「来た」

「今の、かなり来た」

 ももかが言う。

「だよね」

「うん」

 えれなも頷く。

「ただの野菜の山じゃなくなった」

「“今年の顔”になった」

 ジェシカが言った。


 エルンが、その並びを見ながらぽつりと言う。


「……いつもは、出来のいいやつから先に納めることしか考えてなかった」

「うん」

「でも、こうして見ると」

「……」

「今年、わりと悪くなかったのかもしれない」

「……」

 その一言が、るなにはたまらなく大きく聞こえた。


 今年、わりと悪くなかった。


 それは、ハイレン村の若い農夫の口から、久しぶりに出た“今年を認める言葉”だったからだ。


     ◆


 午後には、布と籠も少しだけ集まった。


 村娘たちが作る手織りの布。

 年配の者が編む籠。

 どちらも派手ではない。

 でも、木の机へ並べてみると、想像以上に“村の手の仕事”として立ち上がってくる。


「……」

 サラが布を持って立ち尽くす。

「どうした」

 るなが聞く。

「これ」

「うん」

「今まで、使うものって感じしかしなかった」

「うん」

「でも、今ここに出すと」

「……」

「“作ったもの”になる」

「……」

「そう」

 みうが微笑んだ。

「そこが、たぶん今日の一番大事なところ」

「使うものでも、作ったものでもある」

 えれなが言う。

「その後者の見え方が、この村にはずっと薄かった」

「……」

「だから」

 ジェシカが言う。

「村の人が、自分の手を少し誇りにくくなってた」

「……」


 ももかが、籠を少し持ち上げて言う。


「これも普通にいい」

「……」

「ちゃんとしてるし、手に馴染むし」

「うん」

「しかも、ちょっとかわいい」

「かわいい」

 年配の女が怪訝そうに聞き返す。

「うん」

 ももかは真顔だ。

「地味とかわいいは両立する」

「……」

「今の、よくわかりません」

 女が言う。

「でも」

 みうが笑う。

「わたしはわかります」

「そうですか」

「はい」

「じゃあ、まあ」

 女は少しだけ肩をすくめた。

「悪い気はしないね」


 その“悪い気はしない”が、この村ではかなり大きいことを、五人はもう知っていた。


     ◆


 夕方前、広場の一角に仮置きされた“今年の村のもの”は、まだ本当にささやかなものだった。


 大きな祭りではない。

 通りのない村の、小さな空き地。

 でもそこに、今年の野菜、保存食、焼き菓子、布、籠が、ちゃんと“見ていいもの”として並んでいる。


 それだけで、昨日までのハイレン村にはなかった風景になっていた。


「……ねえ」

 みうが言う。

「うん」

「これ、並べただけなのに」

「うん」

「村の空気、少し変わってる」

「変わってる」

 るなは頷く。

「通る人、ちょっとずつ足止める」

「見てる」

 ジェシカが言う。

「しかも、なんとなくじゃない」

「“ああ、これ今年の”って見てる感じ」

 えれなが補足する。

「うん」

 ももかがにやっとする。

「見せ方、効いてるね」

「めっちゃ」

 るなが笑った。


 そこへ、村長ドミニクがやって来た。


 広場の仮置きを見た瞬間、村長は何も言わなかった。

 ただ、その場に立って、少し長く眺めていた。


「……」

「村長さん」

 みうが小さく呼ぶ。

「はい」

「どうですか」

「……」

 ドミニクはしばらく答えなかったが、やがて低く言った。


「思ったより」

「……」

「村に、いろいろありましたな」

「……」

 るなは、その言葉を聞いて少しだけ胸が熱くなる。


 “いろいろある”なんて、当たり前のことみたいだ。

 でも今のハイレン村では、その当たり前を、村長自身もちゃんと“見る”余裕が薄れていたのかもしれない。


「あります」

 るなが言う。

「ちゃんと」

「……」

「野菜も」

「保存食も」

「焼き菓子も」

「布も」

 みうが順に言う。

「全部、この村の人が残したものです」

「……」

「うん」

 ドミニクは静かに頷いた。

「そうですな」


     ◆


 日が傾き、土手へ戻った五人の空気は、いつもより少しだけ軽かった。


「……今日、好き」

 ももかが言う。

「なに急に」

 るなが笑う。

「いや、だって」

「うん」

「地味だけど、めっちゃ変わる感じした」

「うん」

 みうも嬉しそうに頷く。

「並べただけなのに、“ただの生活”だったものが“今年の村のもの”に見えた」

「それ」

 えれなが言う。

「“見せる”って、派手にすることじゃないんだよね」

「輪郭を出すこと」

 ジェシカが言った。

「そう」

「村の人が、自分の手で作ったものの輪郭を見直せるようにする」

「うん」

 るなは深く頷いた。

「今日、それかなりできた」

「サラちゃんも、ロアンも、顔変わってた」

 みうが言う。

「うん」

「“作ったもの”になるって言った時の顔」

「よかった」

「かなり」

 えれなも言う。


 しばらくして、るなが静かに言った。


「……これなら」

「うん」

「“今の村でできる小さな収穫祭”」

「いける?」

 ももかが聞く。

「まだ、いけるとは言わない」

 るなは慎重に答えた。

「でも、“出していいかもしれない”までは来た」

「うん」

「それがでかい」

 えれなが言う。

「次は」

 ジェシカが空を見る。

「村長を、もう一段だけ動かす話」

「そう」

 るなが頷いた。

「“これなら無理じゃない”って」

「村の中で、ちゃんと形にする」

 みうが言った。


 ハイレン村の空は広い。

 その下で、今日、村の人たちはほんの少しだけ自分たちの手元を見直した。


 野菜。

 保存食。

 焼き菓子。

 布。

 籠。


 どれも昨日までと同じものだ。

 でも、“ちゃんと並べて見る”だけで、それは少し誇れるものへ近づいた。


 その変化は小さい。

 けれど、この村にはそういう小さい変化こそ必要なのだと、五人はもうわかっていた。

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