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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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58.漆黒の獣③




――ガギィィン! パシィィンッ!!


 隔離された結界の中で、火花と銃声が絶え間なく爆ぜる。

 ルリは物理法則を置き去りにした超速度で戦場を縦横無尽に翔け、ワクの死角から概念分解を纏った一撃を何度も叩き込んでいく。

 同じくルナも、中距離の間合いをキープしながら、ベレッタM9の引き金を絞り、弾丸の雨をワクへと浴びせ続けていた。

 しかし――その全てが、漆黒のアーマーに触れた瞬間、虚しく弾き返されていく。


 それだけではない。ワクが振るう警棒、放つリボルバーの銃弾、その攻撃の一挙手一投足には、エデン国から供給される莫大なリソースが超高密度で圧縮されていた。

 掠めるだけで大気が爆ぜる。

 まともに一撃でも喰らおうものなら、その瞬間に戦闘不能に追い込まれるのは確実だった。

 回避し続けるだけでも、二人の体力と精神は文字通り削り取られていく。

 息が荒くなり、足元がわずかに自重を失い始めていた。


「くそッ、効かない……ッ! 何で『分解』が通用しないんだ……ッ!!」


「……はぁ、はぁ……ッ! このままじゃあ。どうすれば……あの装甲を……ッ!」


 絶望が二人の心を支配しかけた、その時だった。

 戦場の緊迫した空気を完全に無視した、どこか気の抜けたポップな声が二人の脳内通信に直接響き渡る。アクアだ。


『ルナ〜、前にアタシが話してたの覚えてる? 外地の実力者が返り討ちにされたっていうエデンの治安維持装置の話。……これ、ワクちゃんのことだわ。特徴が完全に一致するもん』


「アクアッ!? そんな話どうでもいいから! それより、攻撃がまったく通じない! 何か方法はないの!?」


『エデンの国力をジャブジャブ使ってるんだよ〜? 相手するだけ無駄無駄。今ならアタシがバックドア作れるからさ、みんなを置いて二人で逃げな逃げな』


「何言ってんのッ!! そんなこと出来るわけないじゃないッ!」


「アクアさん、いくら硬いアーマーだからって、分解が通じないのはおかしいよ! 何でなの!?」


 ルリがワクの警棒を紙一重でかわしながら、通信に向かって叫ぶ。

 すると、アクアはふぅ、とわざとらしいため息をついて見せた。


『ルリくん、君の能力自体はね、ちゃんと通用して“いる”んだよ。……単純な話さ。アーマーを構成するリソースの総量、密度が莫大すぎるの。君がやってることはね、スコップ一本だけ持って、山を整地しようとしてるみたいな感じだよ』


「そんな……。じゃあ、本当にどうしようもないの? アクアさん」


『消去されちゃうよりはマシでしょ〜。命あっての物種だよ。恥ずかしがることはないさ! これでアタシも、晴れてエロキャライベントに参加して……』


「……アクア」


 ルナが激しい息を整え、一歩、地面を踏み締めた。

 銃口をワクに向けたまま、その瞳の奥に宿る光だけは、決してブレていなかった。


「方法……あるんでしょ?」


『アッハハ〜、ルナ、何言って……』


「“できない”って、言ってないわよね?」


『…………』


 脳内通信の向こうで、アクアの軽薄な笑い声がピタリと止まった。

 しばしの、重苦しい静寂。


『……あーあ。痛いところ突いてくるね、本当に。嘘をつけない僕らの仕様を分かってて質問してたのなら……君、相当嫌らしいよ』


「どうすればいいの? お願い、教えて」


『……言っておくけど、方法と呼べる代物じゃあないよ。ほとんど不可能に近い。それでも、やるかい?』


 アクアの声から、おふざけのトーンが完全に消え失せる。

 それは、禁忌の引き金を開くかのような、冷徹なシステム管理者の声だった。




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