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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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57.漆黒の獣②




統合形態ユニオン・フォーム:モード・SIT】

――Special Independent Team。



 かつて絆の象徴だったその形態は、今や国家の最高意思を守護する冷徹な記号へと成り果てていた。

 特殊部隊を模した漆黒の超硬ボディースーツに身を包んだワクは、右手に【伸縮式強襲用特殊警棒】を携え、陽炎のような歪む空気の中に佇んでいる。


 対するルナは、手元に【9mm対異形弾装填型自動式拳銃】ベレッタM9を生成。

 すでに戦闘装束に身を包んだルリと視線を交わし、ワクを左右から挟み込むようにして深く構えた。


 静寂を破り、先に動いたのはルリだった。


「……『抜き足』」


 その呟きと共に、ルリの身体が物理法則を完全に無視した加速を見せ、地表を滑るように前方へと突進する。


「……」


 だが、ワクのバイザーの奥では、エデンの超高速演算回路が火花を散らしていた。

 ルリの直線的な突進軌道をコンマ数秒で完全に読み切り、迎撃のために警棒をフルスイングで振り抜く。

 無駄のない、確実に肉を捉えるはずの一撃。

 ……しかし。


「――!? 」


 手応えが無い。警棒が虚しく空を切った瞬間、ワクの視界からルリの姿が煙のように掻き消えた。


「……『忍込み』」


 耳元で、凍り付くような冷徹な声が響く。

 相手の意識の死角へ文字通り忍び込む、アルセーヌ流の神技。

 警棒を振り抜いたことでガラ空きになったワクの脇――最も脆弱なサイドを、ルリは完全に制していた。

 流れるような動作で、ルリの腕がワクの関節へと蛇のように複雑に絡みつく。


「アルセーヌ流近接格闘術――『居直り』」


 重力を逆転させたかのような、強烈な引き落とし。

 相手が体勢を立て直そうとする力学そのものを利用し、その頭部を容赦なく地べたへと叩きつける絶対の捕縛術。


 ……だが。


(……なっッ!? 動かない……ッ!!)


 ルリの細腕に、かつて経験したことのないほどの絶望的な質量が伝わる。

 引けども崩れず。

 ワクの身体は、まるで大地そのものと強固に同化しているかのように、ピクリとも微動だにしなかった。


(ならばッ……!)


「――破綻。概念分解デコンストラクション


 ルリの左手が白銀の輝きを放ち、空間を震わせるほどの高周波の唸りを上げて振動し始める。

 あらゆる事象の結合をバラバラに解きほぐす、絶対の破壊の技。


「アルセーヌ流近接格闘術――『突き破り』」


 腕を絡めたままの至近距離。

 ゼロ距離から、構造そのものを分解する必殺の突きが、ワクの脇腹へと突き刺さる。


――ガギィィィンッ!!!


 激しい金属火花が散る。だが、肉が弾ける音も、装甲が砕ける音も響かない。


「……なッ!?」


 ワクの漆黒のアーマーは、白銀の輝きを強引に押し返し、傷一つついていなかった。


「……シィッッ!」


 驚愕に目を見開くルリの頭部めがけて、ワクの無慈悲な鉄拳がカウンターで襲い来る。


――ドンドンドンドンッ!!!


 寸前、ルナが放ったベレッタM9の連射がワクへ着弾し、激しい衝撃がその腕部をわずかに弾いた。

 その一瞬の隙に、ルリはワクの拘束を解き、バックステップで後方の安全圏へと命からがら離脱する。


 仕切り直された戦場。

 銃口を構えたまま、ルナは己の目がい捉えた現実の前に、戦慄を隠せなかった。


「……嘘、全く効いてない……」


 ベレッタの弾丸は弾かれ、ルリの概念分解すら通じない。

 ワクは乱れた様子もなく、ただ煤を払うように首を小さく鳴らした。


「無駄だ。このアーマーはエデンのリソースを直接利用している。お前たちの攻撃は通用しない」


「……そんなっ……」


「ルナ。テロリストとして、エデンを管理する智天使や俺たちを相手にするのがどういうことなのか、本当に分かっているのか?」


 ワクは、警棒を持つ手とは逆の左手をそっと持ち上げる。その掌の中に、重厚な【対異形弾装填型回転式拳銃】が急速に実体化していった。


「つまるところそれは、エデン国そのものと戦うことに他ならない」


 黒く輝く銃口が、真っ直ぐにルナへと向けられる。


「諦めろ、ルナ」




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