56.漆黒の獣
――ドゴォォォォンッ!!!
煙の立ち込める戦場には、まるで隕石でも衝突したかのような、巨大なクレーターが虚無の口を開けていた。
超電磁の衝撃波は、周囲にいたゾンビの群れをも一瞬で消滅させている。
その破壊の中心には、防護装束を纏ったルリが静かに佇んでいた。
付近の瓦礫の影には、かろうじて直撃を免れたワク。そして、咄嗟に生成した盾で衝撃をやり過ごしたルナとジンが、じりじりと距離を詰めていく。
ルナは勢いよくバイクから飛び降りると、ルリと視線を交わし、ワクを挟み込むように対峙した。
「逃がさないわ。――生成!【広範囲用戦術兵装・規制線】!!」
ルナの叫びと共に、彼らの周囲を囲むようにして光の帯が走り、広大な範囲の結界が形成された。
修行を経て獲得した、ルナの空間設置型の新能力。
職務権限に基づき、許可された者以外の出入りを完全に遮断する概念の壁。
外から駆けつけてきたゾンビたちは、この規制線に阻まれ、それ以上ルナたちへ近づくことができなくなる。
完全に隔離された戦場で、ワクが煤塗れの身体をゆっくりと起こした。
「ジンさん。ここはルリと二人で大丈夫。学園のサポートの方を!」
「ああ、分かった。頼んだぜ、ルナ!」
ジンはバイクを翻し、生徒たちの防衛のために校舎へと全速力で戻っていく。
残されたルリは、ワクを真っ直ぐに見つめて話す。
「久しぶりだね、ワク。まさかルナと一緒に君と戦うことになるなんて、思ってなかったよ」
「……フン」
「ワク、投降して! これ以上、クラスのみんなを傷つける必要なんてない!」
ルナの悲痛な叫びに、ワクの声はどこまでも冷たく、そして酷く掠れたトーンで返ってきた。
「……ルナ。お前こそ、どうして戻ってきた。お前はもうエデンの住人ではない。ただの部外者だ。エデン国の問題に、これ以上口を挟まないでもらおうか」
「……ッ、何を!? あなた、自分がこれまで何をやってきたのか本当に分かってるの!?」
「ああ。少なくともお前よりはな。お前はエマを救出したいという独善的な感情だけで、不法にエデンへ侵入し、何も考えずにテロ行為に及んでいる。それは本当に、エマや俺たちが望んでいることなのか?……まあ、言葉はもういいだろう。お前がこのゲームをどうしてもクリアしたいと言うのならば、俺を倒すしか方法はない」
ワクは割れたフェイスガードを毟り取り、その奥にある、血を吐くような決意を秘めた瞳を剥き出しにした。
「そして、俺は退かない。……皆を救うため、俺は絶対に負けないッ!!」
彼の叫びに呼応するように、夜空の彼方から無機質な機械音声が響き渡る。
『――認証。コードネームG。所属位階:ウリエルズ』
『システムリソース請求:回る炎の剣』
『――アクセプト。E-MODE起動』
次の瞬間、エデン国のホストサーバーから、ワクへと回路が繋がれる。
燃え広がる火炎のように、莫大なデータリソースがワクの全身へと急速に集結していった。
眩い光の粒子が、彼の身体を苛烈に包み込んでいく。
その光のシルエットを、ルナは知っていた。
それは、かつてルナが、ワクとエマ、二人の心を一つにし、奇跡の果てに到達したはずの絆の象徴。
「――【統合形態:モード・SIT】」
光が弾け、そこには漆黒の装備に身を包んだ、冷徹な戦闘AIが君臨していた。




