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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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55.学園での戦い⑩




 時は少しだけ遡る――。


 ワクがサトウに向けて引き金を引いた、まさにその瞬間。

 アルセーヌは『極薄窓』で弾丸を感知すると同時に、着弾地点との方向から逆算して狙撃地点を完全に特定していた。


「アクアッ!」


『はいはい! みなさ〜ん、敵の位置情報、座標マッピング表示するね!』


「よしっ、ジンさん行きましょう!」


 アクアのナビゲーションと同時に、廊下の窓を突き破って飛び出したのは、ジンとルナのコンビ。

 では、残されたアンジェとルリはどこにいたのか。

 二人が陣取っていたのは、この学園敷地内で最も高い場所――校舎の屋上だった。


「位置が来たよ。坊や、大丈夫かい」


「ばあちゃん。位置調整アライメントは終わったよ。防護装束の同期も、あともう少しだ」


「そうかい。……まったく、スナイパーをスナイプし返せないかっていうルナの発想も大概だけどさ。それをこんな異常なアイデアで、実現可能な案に落とし込んだあのバニーちゃん、完全にイカれてるねぇ」


 アンジェが呆れたように笑う。

 それもそのはず、屋上の階下――今や空っぽになった多数の教室や廊下には、床一面に「謎の回転体」が敷き詰められていた。

 それらは一斉に、鼓膜を震わせる高周波の駆動音を響かせている。

 フライホイール。

 アルセーヌが生成し、アンジェの規格外の超パワーを動力源として超高速回転させていた。

 この設備で産み出されるのは電気。

 つまり彼らは、この学校を臨時の「超高出力発電所」へと変貌させていた。


 そして屋上。ルリが据え置きの姿勢で鎮座しているのは、これもまたアルセーヌが生成した、巨大な砲身の根元。

 強力な磁場を発生させる2本の伝導体レールによって構成されたその砲身は、アクアが弾き出したワクの座標へと正確に向けられていた。

 階下のフライホイールから生み出される、数百万ボルトの超高電圧。その莫大な電流の全てが、今この屋上の砲身へと一気に流れ込み、消費される。

 そう。これは、学園そのものを土台とした『レールガン』に他ならなかった。


「ばあちゃん。……準備、いいよ」


 ルリはうつぶせの姿勢となり、レールガンの砲身の根元へ滑り込む。

 彼が身にまとっているのは、絶縁体と導体を幾重にも重ね合わせた特製の防護装束。

 そして、前方に突き出された彼の右手には、あらゆる事象を分子レベルで噛み砕く、概念分解の抜手が発動していた。


 ルリ自身が『弾丸』となる。

 これこそがアクアの出した答えだった。

 アルセーヌが製作した『銃身』で、ルリを『弾丸』として撃ち出す、超大型レールガン・スナイパーライフルの構築。

 さらに、校舎屋上という限られた直線の長さを補い、初期微動の加速を限界突破させるため――アンジェをその『撃鉄』とすること。


「坊や、終わらせといで」


 アンジェが深く腰を落とし、中国武術の基本、馬歩の構えをとる。そして、ルリの足裏に向けて、その鉄拳をそっと添えた。

 ミチミチ、と静かにアンジェの全身の高密度圧縮筋肉がねじれる音が響き、彼女の周囲の空間が質量に耐えかねて歪み始める。


「いくよッ!!――無限纏絲勁むげんてんしけい激烈発勁げきれつはっけい!!」


――ズドンッ!!!


 大気が悲鳴を上げ、大地が激しく震える。


――バリバリバリッ!!!


 直後、レールガンから解き放たれた狂気的な電界が、夜空に巨大な雷の光跡を描いた。

 それは、常人の知覚を遥かに置き去りにする、超光速の無音の一撃。

 アクアが発案し、一家の力を結集させてクリエイトした究極の合体絶技。

 分子分解という絶対のつのを持ち、激しいプラズマで体表を包み込んだ少年は、一条の雷霆となって夜空を翔ける。



『――三合雷破降臨・麒麟』






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