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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~囚われの姫と月の使者編~  作者: バニラ味一択


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53.学園での戦い⑧




 夕焼けが急速に闇へと呑まれていく。


 世界の境界から、ゾンビたちがゆっくりと歩き出した。

 学園の敷地外。黒いタクティカル・フェイスガードを装備したワクは、【遠距離射撃用対異形弾装填型狙撃銃M1500】を片手に、静かに狙撃地点へと向かっていた。

 目指すは、学園の敷地端にある高所。そこからは昇降口の様子を遠方から一目で見通すことができる。


 ルナは戻ってきてしまった。

 だが、自分のやるべきことは何も変わらない。

 スコープの先に映るのは、かつて顔を合わせたことのある生徒たちの姿。

 彼らを自らの手で殺害し、この終わらないゲームを繰り返し続けるのだ。

 彼らは中身が人間のプレイヤー。対する自分は、VRシステム上のデータ生命体だ。

 どれほど時間がかかろうと、千日手になれば勝つのはこちら側に決まっている。

 長い道のりになるかもしれない。

 精神的に擦り切れていくかもしれない。

 だが、生徒たちが戦うことを諦め、大人しく「ミュート」を受け入れさえすれば、現実世界の彼らは五体満足で生存できるのだ。


 そう、彼らの中にも薄々気づいている者がいるはずだ。

 このゲームの真のゲームオーバーは死ぬことではない。死ねずに蹂躙され、苦痛を味わい続けることだ。

 智天使エイミットの真の望みは、学園内における精神崩壊をトリガーとした生徒たちの「異形化」。

 その最悪の条件が満たされれば、エデン国は彼らを廃棄物として合法的に処分できるのだ。


 エデンのリソースを無限に利用できるエイミットのゾンビに、終わりは無い。

 であれば、皆を守るべき立場にある自分が出来ることは、一体何か。


――『殺し続けることで、生かし続ける』


 それが、ワクにできる唯一の救済だった。

 ルナは皆の希望だ。だが、そんなことは関係ない。その希望ごと、自分が撃ち砕けばいい。

 さらに言えば、ルナ自身とまともに勝負する必要すらないのだ。

 VR戦闘の素人である生徒たちだけを、冷徹に狙い続ければそれでいい。

 ルナがどれほど足掻こうが、この現状が変わらなければ、最終的に勝つのはこちらなのだから。


 狙撃地点に到着したワクは、音もなくニーリングフォーム(片膝立ち)となり、M1500を構えた。冷たい金属の感触を頬に受けながら、スコープを覗き込む。

 通用口には、昨日と同じようにサトウたち野球部が配置についていた。

 周囲にはルナが設置したと思われる防弾壁がまばらに展開されているが、完全に射線を遮れてはいない。

 隙間は見えている。……だが、ルナ本人の姿はどこにも無かった。


(最初から諦めているのか、それとも何か策でもあるのか……)


 どちらにせよ、ルナの防衛対象は生徒全員。一人でもその防衛対象から離れれば、即座に射撃の餌食となる。

 簡単な作業だ。

 心を通わせる必要も躊躇う必要もない。


 通用口に第一波のゾンビが到達した。

 野球部たちは防護壁を巧みに利用し、迫り来るゾンビを退けていく。

 だがその時、一人だけ、無謀にも前線から突出する者がいた。サトウだ。


(昨日死んだことで、錯乱でもしたか……?)


 案の定、サトウはあっという間にゾンビの群れに取り囲まれた。

 そして、おかしい。

 未だにルナたちからの応援が来る気配は無かった。

 サトウの身体が、完全に死者の波に飲み込まれていく。


「……Wave終了だ」


 これ以上の蹂躙はさせない。

 ワクはフェイスガードの奥の瞳を細め、サトウの頭部へ正確にレティクルを合わせる。


――指先が、冷徹に引き金を引いた。





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