52.学園での戦い⑦
* * *
以上が、ルナがエデンから消えた後の一部始終だった。
ミカの瞳には消えぬ悲しみと、それでも失われなかった光が宿っていた。
「……そして、私たちが残った。学園の異変に気づいたゴンドウさんやジンさんが駆けつけてくれたお陰で、かろうじて防衛線は保てるようになった。ただ、それでも毎回誰かが犠牲になる……。耐えきれずに学園から姿を消した人もいる。……誰も、その人達のことを責めるなんて、できないんだけどね」
ミカの説明を聞き終えたルナは、その場に崩れ落ちそうになった。
指先が震え、己の存在そのものを否定したくなるような衝動が襲う。
「そんなッ……全部、私のせいだ。私の存在がみんなを不幸に……私がいなければ、みんなをこんな目に遭わせずに済んだのに……!」
「……ルナ、それは違うぜ」
ミカの言葉を遮ったのは、先ほどまで泣き崩れていたサトウだった。
彼は不器用に涙を拭い、しっかりと足を踏みしめてルナを見つめた。
「……みんな、自分で選んで決めたんだ。ここに残ることを。俺はさ……クラスの連中との思い出が消えてしまうのが怖かった。みんなの記憶が無くなってしまう、そんなことになるくらいなら、こんなクソゲーであってもやるしかないって自分で決めたんだよ。
……まあ、さっきミカちゃんに泣きついた俺が言っても、ちっとも格好つかねぇけどな」
サトウが自嘲気味に笑うと、背後から野球部の仲間たちがドカドカと歩み寄り、彼の肩を荒っぽく叩いた。
「全くだぜサトウ! 次こそはゾンビをボコボコにして格好つけろよな。俺が横で手伝ってやるからよ」
「バカ言え、ゾンビを片付けるのは俺の役目だぜ。女子達からの評価爆上がり間違いなしだろ?」
「……そういえばサトウ、お前、さっきミカちゃんに抱きしめられてなかったか?」
いつもの、騒がしくて馬鹿げたやり取り。
無理やりかもしれない。虚勢かもしれない。それでも、死に体だった彼らの顔に、確かな笑顔が戻っていく。
もみくちゃにされる中、サトウは聞こえないほどの小さな声で、仲間たちに「ありがとな」と呟いた。
だがその時、サトウが思い出したように声を張り上げた。
「……って、待て待て待てお前ら! 大事なことを忘れてるぞ。結局、俺たちが正しかったわけじゃん! ルナは自分からいなくなったわけじゃなかった。ヒナコがルナを見つけて、連れてきてくれたんだろ? これ、超・大手柄じゃねぇか! なあみんな!」
「違いない! さすがヒナコ!」
「ルナも強いけど、一緒に来た人らもバケモンみたいに強かったよな」
「そうそう! ていうかルリ君、転校したんじゃなかったっけ? みんなの前で戦ってるとこ、めちゃくちゃ格好良かったんだけど……!」
女子たちも期待に目を輝かせ、体育館の空気が目に見えて熱を帯びていく。
そんな喧騒の中、一人だけ、ヒナコは「……うん」と神妙に頷くだけだった。
皆を救うきっかけを作ったというのに、その表情には誇らしさよりも、どこか深い憂いのようなものが影を落としていた。
ミカはルナの側へ寄り、その手を再び優しく包み込む。
「ルナ。みんなを助けてほしい。……でも、そのためには、ワクちゃんを倒さなければならない。あなたには辛い想いをさせてしまうけれど……」
ルナはゆっくりと立ち上がった。
その瞳には迷いはない。
自分を信じて地獄に残ったクラスメイト達。彼らとの絆が証明された今、彼女がすべきことはただ一つ。
「ミカ。……覚悟はできてるわ」
ルナは窓の外を静かに見つめる。
「ワクを倒す。そして……夜を、終わらせる」




